銃による犠牲者は10年前から約4割増。なぜアメリカの銃規制は進まないのか

銃による悲劇が毎日のように起きているにもかかわらず、銃規制が一向に進まないアメリカ。その理由を知るには、アメリカという国の成り立ちと文化を知る必要がある。
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カルフォルニア州ロサンゼルスで行われた行進の様子(2022年6月11日撮影)
Citizens of the Planet Citizens of the Planet/UCG/Unive

6月11日。また、アメリカで銃撃事件が起きた。

それは私の故郷であるシカゴでのことである。NBCによると、シカゴでは週末だけで銃撃事件によって少なくとも6人が死亡、26人が負傷したという。

アメリカにおける銃の犠牲者は、2020年の時点で10年前と比べて43%増加している(米国疾病予防管理センター調べ)。2020年の銃による死亡者は4万5222人で、前年比14%増、5年前と比較すると25%増えている。とくに銃による殺人事件は近年、急激に増加して10年前から75%増、そして、自殺者も増加の傾向にあるという。  

アメリカ全土でこうした悲劇が毎日のように発生し、増加傾向にあるにもかかわらず、銃規制は一向に進まない。その理由を知るには、アメリカという国の成り立ちと文化を知る必要があるだろう。

自衛、独立、内戦、奴隷制度

1776年に独立を宣言し、アメリカはイギリスから独立した。詳細は大きく省くが、独立以前、ヨーロッパから新天地を目指してアメリカへ移住した者たちが自衛や狩猟のために銃を使っていた。

また、奴隷貿易によって連れてこられた多くの黒人奴隷が存在した。この奴隷制度を維持するために銃が使われていたという。

イギリスの植民地下にあったアメリカではイギリス政府による税徴収の重圧に苦しめられ、反対運動が起きた。これに端を発し、各地で地域の自衛をしていた民兵が結集し、イギリス軍に対抗、アメリカの独立に至るのである。

さらに、1861年から65年の南北戦争も経験した。自衛、独立、内戦、奴隷制度といった背景が今のアメリカ人の意識を形成しているのではないかと私は思う。事実、アメリカ人の自衛意識は高く、政府に対する不信感は未だ拭えない

2019年の調査では、銃を所持する理由として63%が身の安全や保護を理由として挙げている。これは前回調査(2017年)と同様の結果で、狩猟と回答した40%よりも多かった。

また、成人の68%が連邦政府に対する国民の不信感を修復することが非常に重要であると回答し、58%がアメリカ人同士の相互の信頼を向上させることも非常に重要だと回答している。

憲法による保障

成人の約半数にあたる48%が銃による暴力を今日のアメリカにおいて非常に大きな問題とみなしているにも関わらず、なぜ銃規制が進まないのか。

それは銃を所持する権利が憲法によって保障されているからである。修正第2条武器保有権は1791 年に成立。「規律ある民兵団は、自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携行する権利は侵してはならない」とある。

憲法を修正するのは簡単なことではない。上下両院の議会において3分の2の賛成を獲得し、さらに50州の3分の2が同意する必要があるからだ。これがいかに難しいことであるかは銃に関する各党の支持者の意識調査にも如実に表れている。 

2021年の銃規制に関する意識調査において、共和党支持者の72%は銃をより多くの場所に持参できるようにし、66%が教師や学校関係者が幼稚園から高校までの学校に銃を持参することを支持している。同じ項目に関して、民主党はそれぞれ20%程度である。

現在、上院議会の議席数は民主党50、共和党50。下院議会は民主党222、共和党210である。両党、ほぼ半数の議席ではあるものの、上記の乖離を鑑みればそう簡単にはいかないと思ったが、アメリカが動いた。

最高裁がこの10年で最も重要な判決を

先に発生したテキサス州ユバルデとニューヨーク州バッファローの銃乱射事件が銃規制改革への新たな関心を呼び起こし、6月12日、米国上院の超党派グループが銃規制法に関する原則合意を発表した。

この合意には、危機を経験した人々が銃を入手することを防ぐための条項、DV被害者の追加保護、子どものための精神保健サービスの充実が含まれている。あくまで、連邦法、州法の話であるし、個人的には始まりに過ぎないとは思いつつも、超党派の合意は喜ばしい。

そして、今、最高裁判所は憲法修正第2条において、この10年で最も重要な判決を下すと報じられている

ライフル協会がニューヨーク州を相手に訴訟を起こし、最高裁においてニューヨーク州が銃を携帯することに厳しい制限を課しているのは憲法違反であると主張、憲法修正第2条について争われている。憲法修正第2条では、銃を所持をする権利については触れられているものの、どのような銃をどれくらい所持してよいかといった具体的なことには触れられていないため、解釈は様々でグレーである。このグレーな部分の解釈に最高裁が触れることとなるのだ。

9人の最高裁判事の構成は保守派6人で、うち3人はトランプ前大統領(共和党)の指名であることから、ニューヨーク州の規制が憲法違反だという判決が下される可能性は高いだろう。 

おそらく、この判決の影響は大きく、各地の銃に関する厳しい取り締まりが問い直されることになるかもしれない。とはいえ、共和党(70%)と民主党(92%)と両党が銃の販売には身元調査などを実施するなど慎重な姿勢を見せていることから、憲法改正の可能性は低いが、何らかの新たな抜け道は模索されるだろう。はなはだ皮肉ではあるが、前回取り上げた中絶問題を思い出してほしい。

「連邦法が発効されないのであれば、各州が独自の法律を制定し、認める、限定的に認めるという判断にゆだねることである。ただし、銃刀法のごとく、住む地域によってさまざまな法律が存在することになる」と指摘した通り、各州が独自の法律を制定して限定的ではあるが銃規制は可能だからだ。

銃を所持することに重大な危機感を覚え、その目的が自衛であるならば、銃を所持する以外の方法を検討することはできないのだろうか。社会、文化が変化するには長い時間を要するかもしれないが、私たちはその変化をもたらす力も権利もあるのだと思いたい。 

(文:ライアン・ゴールドスティン 編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版)