母国の家族に危害、いじめや嫌がらせのリスクも。難民に関する報道が与えた被害や防止策をガイドブックに

作成した認定NPO法人難民支援協会は「特に初めて難民を取材する人に、このガイドブックを参考にしてもらいたい」と求めている
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「難民は紛争や人権侵害から逃れて日本にいる人々であり、報道のされ方によって、その方自身や関係する人にとって取り返しがつかない重大な結果につながることもあります」

国内の難民や難民申請者らを支える認定NPO法人難民支援協会(東京・千代田)は6月6日、これまでの報道が招いた被害や防止策をまとめた『難民の報道に関するガイドブック』を発表し、そう注意喚起した。

同協会の担当者によると、国内での難民に関する取材や報道によって、本人や家族に迫害の危険が及んだことや、難民申請自体が困難になる恐れにつながったことがあるという。そのため、「特に初めて難民を取材する人に、このガイドブックを参考にしてもらいたいです」と呼びかけている。

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6月6日に刊行された
難民支援協会

難民って、どんな人?

ガイドブックでは、難民を「紛争や人権侵害などから、やむを得ず母国を追われ、逃げざるを得ない人たち」と定義。日本の難民認定率は例年1%未満で、先進諸国と比べて著しく低いことから、難民として認定されるべき人が認定されておらず、「適切な保護を受けることが難しい」としている。

難民申請中の人は、認定されなければ「収容されたり母国へ送還されるおそれを抱えながら、必要最低限の生活が保障されない状態で暮らしている」。さらに、「難民や難民申請者はヘイトスピーチや差別の対象にもなりやすい」としている。

その上で、こうした「難民の抱える特殊性や日本の難民保護の状況が全く配慮されない形での報道により、当事者にとっての不利益につながる」場合もあったと指摘する。

本人や家族に被害が及んだことも

報道内容が母国に知られることで、本人や母国の家族に迫害が生じた例も、ガイドブックに収められている。

例えば、日本で難民申請中のAさんは「個人を特定できないように」との条件で海外メディアからの取材を引き受けたが、コミュニケーションの齟齬から、顔が出る形で放送されてしまった。「Aさんが日本で難民申請中であることが母国の関係者に広く知れ渡ってしまい、家族が危害を受けた」という。

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ガイドブックでは報道をきっかけにした迫害などのリスクがあることを注意喚起している
難民支援協会

母国での迫害だけでなく、日本国内で不利益を被った場合もあった。

アフガニスタン出身の難民申請者のBさんは、日本で難民申請し、不認定となったあと、記者会見を開き、自身は難民に該当すると主張した。

このことが新聞などで出入国在留管理局(現在の入管庁)への批判とともに大々的に報道されると、入管側も記者会見を開き、Bさんの口座残高を発表した。「高額な預金は難民かどうかに全く関係ないが、厳しい世間の目にさらされた」

Bさんや支援者は、記者会見を開いたことを後悔し、その後は取材を全て断っているという。

日本で難民認定されたCさんは、難民への理解が深まることを期待して、顔や名前を隠さずにテレビ番組に出演。放送後、動画投稿サイトに投稿された同番組へのコメントを見ると、Cさんや難民への罵詈雑言が寄せられていたという。「Cさんは予想外の反響に傷つき、恐怖を感じ、それ以降はメディア出演を断っている」

ガイドブックによると、「当事者が難民であることを周囲に伝えていないことも多く、報道されることによって学校や職場などでネガティブに捉えられ、いじめや嫌がらせ、プライバシーの侵害などの対象になる可能性」もあるという。「特に子どもの場合は、こうした影響が大きく、配慮が必要」と警鐘を鳴らしている。

生じうる被害を想定した報道を

報道をきっかけに難民や難民申請者らに不利益が生じた例があったことを踏まえ、ガイドブックでは▽報道により、難民である当事者本人や、母国にいる親族・関係者に生じる被害を想定し、被害を避けられるよう報道の形を検討する▽当事者に対して、報道の内容と、どのような配慮をするかを十分に理解できる形で説明した上で、同意をとるーーなどを「必要な配慮」として求めた。

具体的な防止策として求めている主な項目

  • 仮名を使ったり、顔や居住地などを判別できないように、映像を加工したりする
  • 出身国や迫害の内容、逃れた経緯などを具体的に示さない
  • 取材を受ける外国人にも理解できるように、取材者の名前や所属、取材の目的を丁寧に伝える
  • 外国語でも発信されるかどうかを、当事者に伝える
  • 報道により個人が特定されると、母国の関係者や入管などに知られる可能性があることを当事者に説明し、名前や顔を出すことの是非などを確認する
  • 当事者のことを知る関係者や、難民支援団体に相談する
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報道で必要な配慮のポイント
難民支援協会

「より広く理解して」

難民支援協会の担当者によると、ガイドブック作成のきっかけは、2021年の難民についての報道の過熱だった。

入管法改正案をめぐる報道では、難民申請者らが顔や名前を出した上で取材を受けることが増えた。夏の東京五輪に出場した選手が日本に庇護を求めた際には、報道により本人や家族への迫害が生じたり、難民申請自体が困難になったりする恐れもあったといい、同協会は注意喚起していた。

ガイドブック作成にあたっては、性的少数者(LGBTQ)の人々に関する報道についての注意点をまとめた『LGBTQ報道ガイドライン』も参考にしたという。ただ、今回のガイドブックは、報道する際に注意が必要な言葉まで細かくまとめた「ガイドライン」の形にはしなかった。

担当者は「まずは難民に関する報道について、より広く理解してもらう目的でガイドブックを作成しました。今後、少しずつ改訂を加えていきたいと思っています」と話している。

〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉