父が逮捕された。それでも変わらず、私を受け止めてくれますか?大学生の不安と願い【加害者家族の告白】

中学2年で父が捕まった。「事実を聞かされた相手に生じるプレッシャーや責任を背負わせたくない」「恋人は知らないままのほうが幸せかもしれない」という葛藤を抱えている。
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「私も加害者家族です」

私宛にメールを寄せたのは、東日本に住む大学生の女性。

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取材に応じる女性(※写真の一部に加工処理を施しています)
Rio Hamada

数年前、突然自宅に現れた警察に父親が逮捕されたと、打ち明けた。すでに亡くなっていた父方の祖母が生きているように装い、年金を騙し取った容疑だった。

事件は新聞やテレビで実名で報じられ、記事には家宅捜索される自宅の写真も載っていた。翌日に学校に行くと、父親の逮捕のことが学校側に知られていた。

仲の良い3人の同級生には自ら打ち明けた。

「えっ」と固まった様子だったが、1人は一緒に泣いてくれ、もう1人は手紙をくれ、別の1人は「そうなんだ」とあっさりしていた。友人関係もそれまでと変わることはなかった。

すべて、中学2年の冬に起きた出来事だ。

女性はあれ以来しばらく「感情が平らになった」という経験をしたが、いまはいきいきと、自分の人生を生きている。

女性に加害者家族としての体験や感じたことを聞いた。

「自分を守るため」同級生に打ち明けた

加害者家族は、身内が逮捕されたという引け目から他人への相談を躊躇する傾向がある。頼る先がなく、孤立してしまうというジレンマを抱えている。

女性が友人に打ち明けられたのはなぜか。むしろ「自分だけで抱えていられなかった」と振り返る。

「言わずにはいられなかった。相手は選んでいると思います。話した2人は、いつも一緒に行動している3人組でした。もう1人は、障害のある妹さんが養護施設に通っている子。家族に社会的弱者がいるということで、この子なら言っても分かってくれる。大丈夫だろうという安心がありました」

女性の行動に母親は理解を示さなかった。同級生に伝えたことを告げると「誰かに言ったら100人に言ったのと同じ」と激怒された。

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「打ち明けられた人も同じ中学生だから、抱えきれなくて家族ぐらいには言うのではないか。そこから広まるのではと母は想像したのだと思います」

「私には言うしかなかった。誰かに話さないと本当に気持ち的に(難しかった)。自分を守るために本能的にした行動だったので、許してほしい」

姉は当時「(他の人に)絶対に言わない」と話しており、家族以外に話すかどうか、女性の家族内で考えや対応が違った。

大学生になったいま考えると、 母や姉の気持ちも理解できなくもないという。

「仮に、大学まで父と4人で育ってきていま逮捕されたとしたら、私も他人に言わないし、言えないです」

「子どもだったので、言った後どうなるのかを考えていなかった。いまは言った後のことを考えてしまう」

「知らされた方がかわいそうだという考えがなくて、情報を渡された相手にも(秘密を守らないとという)責任が生じるということをちゃんと理解していなかったので、言ってしまったのだと思います。私にとってはプラスになりましたけど、同い年の彼女らにとってはかわいそうなことをしてしまったかもしれないですね」

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周囲に打ち明けられたおかげで、自分は救われたのだと、女性は感謝している。

「(家族の逮捕は)本人に関係ないじゃないという考え方してくれる人が周りにたくさんいた。だから、気持ち的に楽に生きさせてもらっている」

だからこそ、墓場まで持っていくつもりでいるように見える母親には「社会的に開かれた生活をしてほしい。胸を張って欲しい」と願っている。

ショックで、感情が“なくなった”。

父親の逮捕で、女性と家族にある変化が起きた。

感情が、平らになった。

「(父が)逮捕されて、ゴーンと打ちのめされて、感受性が平らになったよねって」

「人生で初めて、かつてないほどの大きなショックを受けて、些細なことでイラッとしなくなったと母も姉も言っていました。私もそうでした」

その代償として「楽しいことがあっても、そんなに楽しめない」状態になってしまったという。

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Denis Pobytov via Getty Images

例えば修学旅行。色々と見て回った思い出は残っているのに、どうしても「楽しかった」という言葉が出てこなかった。

好意的に捉えれば、イライラすることが少なくなり、心が広くなった。同時に、良いことに対しても悪いことに対しても、心が動かなくなってしまった。

それはある種の「自分を守る手段」だったと、女性は振り返る。

「客観的にみると、自分が感じていた以上に(逮捕の)衝撃が大きかったんでしょうね」

「あれに勝る怖いものはない」という、警察が家にやってきたショックから6年余り。いまでは、自分の日常を過ごすことで、“失いかけた感情”を取り戻している。

それでも変わらず、私を受け止めてくれますか?

父親の逮捕がこれからの自分の人生にどう影響するのか。

今後、誰かに打ち明ける必要に迫られる時がくるのか。

その相手は変わらず自分を受け入れてくれるのか。

加害者家族として、これからも付きまとうかもしれない悩みを女性は打ち明ける。

いま、恋人に打ち明けるべきなのか、迷っている。

「ちょっと言えないなと。離婚して父はいないと言ってあるんですけど、何でかっていうのは言えてないんですよね、いまだに」

ひとつは、受け止めてくれるのかという不安から。

知り合ったばかりの時、恋人が自身の家族について話しただけでも、妙に勘繰ってしまい、境遇の違いを意識してしまう自分がいた。

「私だったら(自ら家族のことを)話さないので、ギリギリまで(相手にも)聞かない。(相手には)自分の家庭を語ること、家族のことで後ろめたいことはないんだなって」

家庭事情が複雑だということを告げると、理解を示して「私は私だから」と伝えてくれた。本当のことを話しても、変わらずに受け止めてくれるのか。

「『私は私だよ』という態度は変わらないのかな」

恋人を信じてみようかと心が揺れている。

もう一つの理由は、中学生の時に「伝えたことで友人を不幸にさせたかもしれない」という後悔の念。

「恋人は知らないままのほうが幸せかもしれない」

そんな葛藤を抱えている。

「事実を聞かされた相手に生じるプレッシャーや責任のようなものを恋人に背負わせたくない。加害者家族は肩身の狭い思いをすることなくいつも通りにずっと生活していく権利があると思う一方で、事実を大切な人には知らせず隠しておきたいという気持ちもあります」 

さらに、これから迎える就職活動。

本人の適性や能力と関係のない、家族に関する事情で、採用の可否を決めるのは差別だ。本人に落ち度がなければなおのこと。

影響はないはずだと分かっていても、もし父親の逮捕のことを知られたら「採用に響くのでは」と不安がよぎる。

父親の逮捕のことは自分なりに受け入れて、ふとした時に思い出してつらくなるということも、今はないという。ひとりで抱えきれなかった中学生当時とは違う。

女性はいま、ひとりの大人として自分の人生を楽しく生きている。それでもふとした時に、加害者家族であることの影響が見え隠れする。

「こういった心配を、全くしなくてよい世の中になればいいのに」

女性はそう願っている。

ハフポスト日本版にご自身の体験を語ってくださる方がいましたら、rio.hamada@huffpost.jpまでご連絡をお寄せください。

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