担任の先生が「未定」「給食時間に交代」。深刻化する教員不足、教育学者らが「公教育の質が危うい」と警鐘

文科省の2021年度の調査では、4月の始業の時点で小中高校などで2558人不足していたと明らかになった

「教員免許を持った知り合いいませんか。担任不在のまま新学期がスタートします」「3年連続、欠員です」「来月(5月)こそは先生が来ますように」

教員が足りず、予定していた人数を確保できないまま新年度を迎えた例が全国で相次ぎ、ネット上でも窮状を嘆く教員とみられる声がいくつも上がっている。

慢性化する長時間労働から「ブラック職場」、残業代が出ないことから「定額働かせ放題」などと揶揄されてきた学校現場は今、深刻化する教員不足で綱渡りの日々を送る。5月9日には教育学者らが記者会見し、「教員不足を放置すれば、公教育の質が危うい」と訴えた。

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教員不足の解消を求めて記者会見する教育の専門家ら(5月9日、東京都千代田区)
ハフポスト日本版

担任が給食時間に「交代」、授業の遅れも

「教員を確保しきれなかった」

この春、岐阜県の公立小で、校長が教員らにそう告げた。4月に同校に配置された教員数は予定よりも2人少なく、1学級で担任を確保できない見通しとなった。

同校の教員によると、校長は「教科数が多くて在校時間も長い高学年にはどうしても担任が必要なので、『担任不在』の学級は2年生にあてがう」と説明したという。

正式な担任のいない2年生の学級は、本来は「副担任」を務める予定だった教員が担任を代替することになった。教員は育休から復帰したばかりで、今年度は「短時間勤務」で働いているため、学校にいるのは午前中だけ。そのため、給食の時間に管理職に交代するという体制が続いている。

短時間勤務中の教員は、放課後に行われる授業の進度を調整するための学年の打ち合わせに出られない。2年生の別の学級を受け持つ30代の女性教員は「短時間勤務はやむを得ないが、教員が打ち合わせに出られないために、その学級はどうしても授業が遅れがち。無理に追い着こうとして内容を詰め込む授業になることで、児童の学習に影響が及ばないか」と懸念する。

「誰が初めに倒れるか」

負担は教員にものしかかる。

同校では同学年の教員間で9教科を分担して授業の計画などを作成し、全学級で共有することで、授業の進度を揃えている。こうした業務を担える教員が1人足りないことで、他の教員1人あたりが担当する教科数が増えたり、プリントの印刷などの雑務も通常より多くなったりしているという。

そんな中、4月には2年生の別の教員が体調不良を訴えた。「降りかかる仕事量に参ってしまったようだ」(女性教員)。

その教員は数日間の休暇を取った後、通常通りの業務に復帰したという。女性教員は「教員が1人でも倒れたら学校が回らなくなるという危機感の中で、『誰が初めに倒れるか』というチキンレースをしている感覚」と不安をあらわにする。

女性教員の4月の時間外労働時間は、昨年度の1.5倍に増えた。「教員になって約10年のうちで最も苦しい状況だが、このまま1年間をしのぐしかない。児童にもしわ寄せがいっており、やるせない気持ちでいっぱい」

教員、各地で「取り合い」に

地方だけの問題ではない。東京都教育庁によると、都内では4月当初の時点で、約50校の公立小で教員が1人ずつ不足。5月6日時点でも同程度の欠員が続いているという。

「担任は未定」

都内のとある公立小に子どもを通わせる30代の女性によると、同校は4月の始業式で、そう告げる「学校だより」を配布した。担任を確保できなかった1学級では、正式な担任が決まるまで、別の教員が学級を担当する旨が記されていたという。

保護者の女性によると、担任を代替しているのは、学級数の多い学校に配置される「少人数指導」の担当教員。本来担うはずだった算数の少人数指導は、学級担任を持つことになったために今でも行えていないという。

保護者の女性は「このまま1年間、正式な担任を確保できないのでは」と心配する。

教員のなり手が比較的多いとされる東京都で、なぜ欠員に陥ったのか。

都教育庁人事部の担当者によると、追加採用の候補者をまとめた名簿をもとに人員確保を図ろうとしたが、「すでに他の就職先が決まった」などの理由で辞退が相次ぎ、予定の人数を採用しきれない「誤算」があったという。

担当者は「東京都以外の公立校に就職したという人もいる。教員のなり手不足で取り合いになっている可能性がある」と話す。

文部科学省によると、2021年度採用の全国の公立小の教員採用試験の競争倍率は2.6倍で、3年連続で過去最低を記録している。

2021年度は全国で2558人不足

こうした教員不足は今年度に始まったことではない。文科省は2021年度、全国の公立校の教員不足の状況を初めて調査。4月の始業の時点で小中高校などで2558人不足していたことが明らかになった。

小学校で担任が足りず、本来は学級担任ではない教員や管理職で代替している例は474件に上った。中高では教科担任が足りずに必要な授業を行えなかった学校もあった。

不足の主な要因には、産休・育休を取る教員やストレスなどによる病気休職者の増加、特別支援学級が多くなり必要な教員数が増えたことなどが挙げられている。

今年度も各地で教員が欠員している状況を受け、文科省は4月、全国の都道府県教育委員会に教員免許を持たない社会人が教壇に立てる「特別免許状」の活用を促す通知を発出した。

教育学者ら「子どもたちに不利益」

全国で教員が不足する事態を受け、日本大学の末冨芳教授(教育行政学)や教育研究家の妹尾昌俊さんをはじめとする専門家らが5月9日、東京都内で記者会見した。

末冨教授は「今年度から来年度にかけて教員不足はいっそう深刻になっていく可能性が高い」と指摘。「担任の先生がいない状況は子どもたちを不安にさせ、不利益を生じさせている」として、一刻も早い解消の必要性を訴えた。

専門家らは同日、教職員を対象にしたアンケート調査の結果も発表した。

4月26日から5月9日までの時点で回答を得た公立小中高校などで勤める教職員543人のうち、4月始業時点で(自分の勤務校で)「教員不足が起きている」と答えた回答者は約4割に上った。

内訳は「1人不足」が最も多い55%で、「2人不足」は3割を占めた。3人以上不足しているという回答もあった。

副校長や教頭を務める178人が回答したアンケートでは、約半数が(不足している教員を)「校長や教頭が人脈を通じて独自に探すが、なかなか見つからず、管理職の負担は大きい」、約6割が(教員の候補者を)「質を評価して選んでいられる状況ではない」と回答していた。

こうした結果も踏まえ、専門家らは、人員確保のために教員採用試験の実施時期や方法を工夫することを提案。あわせて、「働き方改革」として教員以外の支援員の増員や、部活動などの業務の外部委託を進めることなどを求めた。

その上で、正規採用教員数を増やすための国による予算確保の必要性なども盛り込んだ提言を、今後、文科相に提出するとしている。