加害者家族を取り上げた記事に対して、1本のメールが届いた。
「私も加害者家族です」
送り主は東日本に住む大学生の女性。中学生の時に父親が逮捕されたという。
「子どもから家族の逮捕がどう見えたのかをお伝えできたら。自分の体験を少しでも正の財産に出来たらと思い、悩んだ末メールしました」とつづられていた。
親が逮捕された子どもの視点から、女性に加害者家族としての体験や感じたことを聞いた。
ドアを開けると、見慣れない「変な人たち」
中学2年の冬だった。
いつも通り登校準備をしているとチャイムが鳴った。玄関のドアを開けると、外に見慣れない「変な人たち」がいた。ドアを靴で押さえられて、閉められないようにされた。
その人たちは、女性や姉には目もくれず、父親を目がけて家の中に入っていった。
「借金取りでも来たのかな」
何が起きたかは分からなくても、異常事態だと悟った。母親に連れられ学校に登校はしたが、気が気じゃなかった。
「借金取りだとしたら、お父さん首を吊っているのかなと思って、授業中に誰にも気づかれないように泣いてました」
父親が逮捕された。
学校から帰ると、母親からそう聞かされた。すでに亡くなっていた父方の祖母が生きているように装い、年金を騙し取った容疑だった。
父親の命の心配をしていたせいか、逮捕と聞いたときは「想定していたよりは軽かった」という心境だった。「わけの分からない業者よりもむしろ警察の方が安心」という気持ちからだったと、女性は振り返る。
父親の事件は新聞やテレビで実名で報じられ、記事には家宅捜索される自宅の写真も載っていた。女性は父親の名前をネットで検索し、出てきた記事を読んで事件の全体像を知った。
よく訪れていた母方の祖父母宅にあった新聞は、女性らが目にしないようにと、その記事だけ切り抜かれていたと伝え聞いた。
「祖父母は当然知っていますけど、私たちができるだけ傷つかないように傷つかないように、周りが配慮してくれました」
翌日、学校に知られていた
翌日に学校に行くと、ニュースを見て気づいた職員がいたようで、学校側は父親の逮捕のことを知っていた。担任の先生は「大丈夫?」と気遣ってくれたという。
「先生に呼び出されて、その後ホームルームに戻って泣いていたんです。先生に話しかけられたことで緊張が解けたみたいな。学校ではずっと隠していないといけないと思ってたので」
クラスメイトは気づいていない様子で、学校で特にいづらさや不便を感じることはなかった。
女性は後日、仲が良かった友人3人には自ら打ち明けた。3人は「えっ」と固まっていたという。
「信頼している3人に言いました。彼女たちは私が泣いていたとき、理由を尋ねてこなかったのですが、後日『泣いてる日あったじゃん。あれ実はこういうことだったんだよ』と言ったら、1人は一緒に泣いてくれて、1人は次の日に手紙をくれた。もう1人は『そうなんだ』とあっさり終わりました」
友人関係もそれまでと変わることはなかった。
「打ち明けられる人がいて、関係が変わらずに済んだのは、周りのいい人に恵まれたから。気持ちも少し楽になりました」と感謝している。
事件について、近所の人たちや大家に取材がいったという。
女性は当時、近所の人たちから避けられているとは感じなかったが、後になって母親から「子供だから気遣ってくれただけで距離を置いた人もいた」と聞かされた。
父との面会、そして別れ
父親とは警察署の留置所で面会した。父親から事件の説明はなかった。日常生活の話をした。
「学校でこんなことをしていて、PCで動画を作る授業で拡張子について教えてもらうみたいな、逮捕される前に家であったであろう会話をして終わりました。母には(説明)したかもしれないですが、私たち3人で行った時は何もありませんでした」
数回目の面会の際、父親がその場所にいる最後の日だと告げられ、その日は泣きながら帰った。父親は拘置所に移送され、それ以降は、いまも会っていない。
父親は無罪を主張していたが、裁判で実刑判決が言い渡された。
「実刑判決になったと聞いて、涙が止まらなくて。家族3人で自宅で抱き合って少し泣きましたね。今思うと、社会的に(父の罪が)認められちゃったんだなと」
「父からは『実はやったんだ、ごめん』と言われたことはないのですが、別に分かっているからいいよという感じ」
服役中は手紙のやり取りを続けた。手紙が週1回ほど届いたが、だんだんと書く内容もなくなっていった。
そして高校2年の夏。父親が刑期を終えて出所することになった。
「これから4人で、周りの人たちにどんな顔をして暮らしていくのか」と女性は不安に駆られた。
父親の態度ややりとりを通して、女性の家族3人は、また一緒に暮らすのは難しいという結論になったという。女性ら3人は別の場所に引っ越し、父親と関係を絶った。
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