「ロシア人とベラルーシ人の今後一切の宿泊受け入れを停止します」。
滋賀県長浜市の旅館は2月、ホームページにこう告知する文書を掲載した。国籍に基づく宿泊拒否は旅館業法に抵触する恐れがあることから、滋賀県は4月11日、旅館に行政指導をし、文書の削除を求めた。
旅館側は同日中に文書を削除し、現在は「ロシア・ベラルーシ人宿泊受け入れ再開」と打ち出している。
旅館業法に抵触する恐れ
旅館は2月26日付けで「ロシア人とベラルーシ人の今後一切の宿泊受け入れを停止します」「もしロシアが侵略を止め謝罪を表明すれば、私たちはロシアとベラルーシからのお客様の受け入れを再検討します。私たちに戦争は必要ありません」と述べる文書をホームページに掲載した。
旅館業法は宿泊者が▽伝染病にかかっていると明らかなとき▽違法行為などをする恐れがあるとき▽施設に余裕がないときや都道府県が条例で定める事由があるときーー以外の宿泊の拒否を禁じている。
滋賀県生活衛生課の担当者は「みだりに宿泊を拒否してはいけないという規定で、国籍を理由に拒むのは法令違反になる」と話す。
県によると、国籍を理由に宿泊を拒む文書を掲出するだけでは法令違反にはならない。だが、実際に宿泊を断ると違反となり、行政指導の対象となる。何度か繰り返され常態化すると、県が営業停止の処分を下す可能性があるという。
行政指導後、「受け入れ再開」
4月11日に文書を確認した滋賀県は、同日中に旅館に行政指導をし、法令違反につながる恐れのあるホームページ上の文書の削除を求める「監視指導票」を交付した。
県によると、旅館には2月26日から4月11日までの間にロシア人やベラルーシ人からの予約は入っていないため、法令違反には至っていないという。
旅館側は行政指導を受けた当日中にホームページから宿泊拒否を告知する文書を削除し、新たに「ロシア・ベラルーシ人宿泊受け入れ再開」と題する文書を掲載。
「今回、行政からの指導が入るという大事になってしまったことに少し驚くとともに、企業としての認識不足を痛感しております。
当初は思いの強さゆえに何かできることを、と取った行動でしたが、他にとれる対応があったのではないかと今は思いを巡らしております」と釈明した。
県、組合に注意喚起を促す
滋賀県生活衛生課の担当者は「旅館としての戦争反対の思いを掲載したことは致し方ないが、旅館業を営む上では軽率な文書だ」と話す。
県は12日、この旅館が所属する滋賀県旅館ホテル生活衛生同業組合に対して、国籍に基づく宿泊拒否がないよう注意喚起。県内の業者に周知をはかった。
県によると、これまでのところ県内では国籍に基づく宿泊拒否を表明した事例は他にないという。
国籍で宿泊拒否、過去にも
全国で見ると、国籍に基づく宿泊拒否で行政指導に至る事例は過去にもある。
毎日新聞によると2018年10月、米ヒルトングループ系列のホテル「ヒルトン福岡シーホーク」(福岡市中央区)で駐日キューバ大使が米国の経済制裁対象国の政府関係者であることを理由に宿泊を拒否された。
情報提供を受けた福岡市が調査に乗り出し、国籍による宿泊拒否は日本の旅館業法に違反しているとして行政指導した。