休暇中、先送っていた仕事が炎上
以前の職場での話です。
当時私が勤めていた会社は全国に200以上の支店や営業所がありました。そんな規模の会社の総務にいた私は、「各支店や営業所の名称、所在地、人員数などを一覧にまとめる」書類を東京都に提出することになっていました。
何度か東京都の担当者から催促の電話があったものの、日々の業務に忙殺されていたのと電話越しの担当者の物腰が柔らかかったことから、つい延ばし延ばしにして休暇に入ってしまいました。
そして休暇初日、会社から電話が。
「東京都の担当者から、ものすごい剣幕で怒りの電話が来たんだけど、どういうこと?」
一瞬で現実に引き戻され、楽しい連休の時間が、次に出社して上司から大目玉を食らうまでの恐怖のカウントダウンの時間へと変わってしまいました。
結局、私のチームのメンバーが代わりに頑張って書類を完成させて都に提出してくれました。休暇明けの出社の足取りがとても重かったことを覚えています。
発達障害当事者の永遠のテーマ「先送り」
上記の失敗談では、私の発達障害の、特にADHD(注意欠如・多動症)特性が以下の①~④の行動としてあらわれた結果、先送りが発生してしまったのではないかと考えています。
①そもそも「いつまでに提出すべきか」を分かろうともしなかった。
②全国に多数ある支店等の情報を集約することが億劫でしょうがなかった。
③まとめるべき書類が膨大であろうことが分かっており、いつ終わるとも知れない作業に無力感を覚えてやれなかった。
④他にもたくさん仕事があり、その仕事だけやっていればいいという状況ではなかったことと把握すべき情報が非常に多かったため目移りしがちだった。
この①~④の行動は、次のように言えるのではないでしょうか。
①興味がひかれないことは無視しがち
②難易度の高そうなものは敬遠しがち
③すぐに結果が出ないと取り組めない
④集中しづらい
①は私が発達障害の診断を受けたときに言われた「興味のかたより」によるもの。②と③は、すぐに結果に結びつかないと耐えられない「報酬系が弱い」発達障害の傾向が出ていると言えます。④もまた発達障害特性にありがちです。
先送りは、発達障害当事者にとっては永遠のテーマだと言えそうです。
そこで、まずは先送りが起こる要素を説明し、続いてその要素にタスク管理でどうやって対処するかをお伝えすることで、「発達障害当事者がタスク管理で『やるべきことはたくさんあるのに取りかかれない状況』を打破する」方法論をご紹介しようと思います。
先送りの4つの要素
先送りを専門に研究しているピアーズ・スティール氏の著書「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」によると、先送りしないためには4つの要素があるとされています。
要素①「やりたい・やるべき」
その仕事の目的などを理解することで「やりたい・やるべき」と思えるかどうか。やりたいと思うほど、先送りをしなくなる。
要素②「やれる」
その仕事の内容などから「やれる」と思えるかどうか。難しいと思うことよりも簡単だと思えることの方が、手を付けやすくなる。
要素③「締切が近い」
その仕事をする緊急度が高いかどうか。締切までの期間が近いほど着手しやすくなる。
要素④「集中できる」
他の仕事などに気が散らないでいられるかどうか。集中できる状況・環境であればあるほどその仕事を進めやすくなる。
先送りに関する要素を理解したところで、先送りしてしまう原因をタスク管理の方法論で1つ1つ潰していこうと思います。
タスク管理で先送りを回避する
先送りをしないためには、次の3つの手法が効果的です。
①「やりたい・やるべき」と思えるようにし、「やれる」ようにする
「やりたい・やるべき」と思えるためには、「いつまでに」「誰に」「何を」すればいいのかを明確にして目的をはっきりさせます。冒頭の私の事例でいえば、「いつまでに都に提出するか」があまり明確になっていなかったために、「やるべき」が不足したのだと考えられます。
また、「やれる」という点に関しては、支店や営業所ごとの人員数を把握するためにどこからどういう情報をもらえば良いのかが曖昧なままにしていました。ひとまず「人事部に相談する」「人事部から配属先リストを入手する」と手順を明確にすれば、進めていこうという気持ちは少し強まっていたのではないかと思います。
タスク管理では、「タスクの目的」「目的を達成するための行動(手順)」を書き出してリスト化することで、要素①「やりたい・やるべき」、要素②「やれる」を後押しして先送りの原因を潰すことができます。
②「締切までを短く」する
「締切」と聞いて一般的に思い浮かぶのは、その仕事タスク全体の締切ではないでしょうか。例えば、前述で取り上げた「資料の提出」タスクでいうと、「今日」が4/1だとして、
という形で思い浮かぶと思います。これでは「4/5の直前に5つの手順をまとめてやればいいや」と考える危険性があります。夏休み終了直前に必死に宿題をやらなければいけなくなるのと同じです。
そこで、このように考えます。
こうすれば、今日(4/1)までに資料原案を作らないといけないから手を付けなければ、と考えることができ先送りを阻止できます。「タスクを細かい手順に分解」「それぞれの手順にも締切を設定」で要素③の「締切が近い」状況を作り出し、先送りを阻止します。
③「集中できる」ようにする
上記②で書き出した「目的を達成するための手順」のうち最初の手順だけ見えるようにします。
例えば、
と5つの手順全部が見えている場合と、
という手順だけが示されている場合とでは、どちらが集中できるでしょうか。私は、断然後者だと考えています。今は資料原案の作成「だけ」やればいい!と考えられるからです。これにより、要素④「集中できる」を実現します。
なお、この場合、2つ目以降の手順は完全に削除するのではなく、どこか自分の目に入らないところにストックしておきます。あくまで自分の目に入る情報を1つ目の手順のみにする、という仕組みです。
意思ではなくやり方や環境で先送りを回避する
このように、タスク管理の手法を使うことで、先送りしてしまう原因をできるだけなくすことができます。実際私は、タスク管理を実践する前と後では、先送りして仕事上のミスや失敗を起こしてしまう頻度は格段に下がりました。
「先送りはしないぞ!」と決意するのはとても良いことですが、その言葉通り先送りしない自分になるのは難しいです。我々は元来先送りしてしまうものなのです。先送りなど生まれてこのかた1回もしたことがないような「立派な人」になるのは諦めましょう。先送りしがちな自分でも先送りを回避できる「やり方」「環境」をつくる方が確実です。