「ゼロコロナ」止められない中国にオミクロン株の試練。深圳在住日本人が明かす「中国式ロックダウン」事情

「PCR検査も毎日受けなければいけなくなり、今は24時間以内の陰性証明がなければどこにもいけません」(深圳市在住の川ノ上和文さん)

新型コロナウイルスの変異株、オミクロン株が中国でも猛威をふるっている。3月14日の新規感染者は無症状を含めると5000人を超え、湖北省・武漢市を中心に感染が広がっていた2020年以来の水準となった。

東北部・吉林省長春市や広東省・深圳市など複数都市がロックダウン状態となり、それに伴って経済活動が大幅に制約されるとみられる。厳格な隔離措置と徹底した検査体制を駆使した「ゼロコロナ」に試練が訪れている。

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中国広東省深圳市で進むPCR検査(2022年3月14日)
Stringer . via Reuters

■「居住エリアを出られない」深圳市在住の日本人

中国の保健当局によると、3月14日の新規感染者は有症状のみで3507人。東北部の吉林省が3076人と飛び抜けて多く、山東省、陝西省などと続く。別にカウントされている無症状は1647人で、合わせると5000人を超える。感染力が強いオミクロン株が広がっている。

ロックダウンを決めた都市もある。吉林省長春市は11日から、広東省の深圳市と東莞市は14日からそれぞれ封鎖に踏み切った。

「居住エリアから出られなくなりました」と話すのは、深圳市を拠点にビジネスを展開するエクサイジングジャパンの川ノ上和文・代表取締役社長だ。

実は、川ノ上さんはロックダウン前にも身動きの取れない状況を経験している。自身の住む居住エリア付近で感染者が出たことから、2月末から3月13日まで外出不可能に。「バリケードができたり、防護服を着た人が増えたりして、『ついに出たんじゃないか』と住民の間で話題になっていました」と川ノ上さんは振り返る。

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オンライン取材に答える川ノ上和文・エクサイジングジャパン代表取締役社長
HUFFPOST JAPAN

13日にようやくエリア外へ出られるようになったが、今度は市内全域がロックダウンに。深圳市の場合、生活インフラや食料、医療関係などを除き、企業活動は停止に。公共交通機関も全て止まり、飲食店はデリバリー対応のみになる。

「居住エリア内で食料を買えるので、自炊する分には問題ありません。野菜は無くなっていましたが、麺類やハムはありました」と川ノ上さん。自室からリモートワークで仕事を続けている。

中国はこれまで、厳格な水際対策や隔離措置、それに徹底した検査体制を組み合わせた「ゼロコロナ」で感染を抑えてきた。しかし、オミクロン株の流入もあり、感染は増加傾向にある。

「これまではほとんどストレスなく暮らせていました。しかし2月の中旬くらいからコロナが広がり始め、PCR検査も毎日受けなければいけなくなり、今は24時間以内の陰性証明がなければどこにもいけません」と生活の変わりぶりを実感している。

深圳のロックダウンは、3月20日まで継続する予定だと発表されている。

■中国経済に影響も。「共存」路線は?

川ノ上さんの住む深圳では工場の稼働もストップせざるを得ないほか、通関業務などにも支障が出ているとみられるという。ロックダウンされた地域では経済活動の停滞が懸念される。例えば吉林省長春市でも、トヨタの完成車工場が稼働を一時停止した。

感染抑制にこだわるかわりに、経済活動を大幅に制約する構図だ。日本総研はゼロコロナ政策が景気の下押し圧力になると指摘。個人消費や民間の固定資産投資が低迷することで、2022年の中国全体の経済成長率は4.9%になると予測した。これは、中国が公式に宣言した経済成長目標の5.5%前後を下回る。

アメリカの調査会社、ユーラシア・グループが発表した「2022年の10大リスク」では中国の「ゼロコロナ政策の失敗」が最も大きなものとして上げられた。ゼロコロナによりサプライチェーンの混乱に拍車がかかり、世界に継続的なリスクをもたらすとしている。

中国は、感染対策を取りつつも経済活動を再開する「ウィズコロナ」に舵を切らないのだろうか。今のところ難しいという見方が広まっている。

理由の一つとして、中国政府がゼロコロナ政策を「政治体制の優位性」と重ねて国内に宣伝してきたことが挙げられる。これまで中国メディアには、感染が拡大する西側諸国と比較して、中国のゼロコロナ対策が優れているとした評論が掲載されてきた

習近平国家主席も今月、「我が国の政治制度はコロナ対策で明確な優位性を示した。『中国の治』と『西方の乱』はより鮮明だ」と自画自賛した。ウィズコロナへの転換は、こうした政治的宣伝との矛盾を生じさせかねない。

また、今年の秋には共産大会を控え、習近平氏の3期目突入が確実視されている。それまでは安定が最優先され、感染者数や死者数を抑えたいとの見方もある。

そのなかにあって、ウィズコロナへの転換を提言した人もいる。

有名な感染症専門家で復旦大学の張文宏(ちょう・ぶんこう)氏は2021年7月、南京市を中心にデルタ株の感染が広まった際、ウイルスとの共存を提言する文章をSNSに投稿した。しかしこの発言が批判の対象になり、過去の論文が「盗用だった」と指摘されるなど社会的なバッシングを受けた(盗用は大学側が否定している)。

その張氏は3月14日、再びゼロコロナ政策についての考えを投稿。「ゼロか共存かという議論に1日を費やすべきではない」と前置きしながらも、「心理的にも、社会資源的にも、大量の感染者が出現する状況への準備はできていない」とし、ゼロコロナ政策への理解を示した。

その一方で、「それは持続的にロックダウンと全検査戦略を取ることを意味しない」「長続きするものは、優しく持続可能なものでなければならない」などと含みを持たせた上で、高齢者への3回目のワクチン接種や経口薬の普及などが重要だと指摘した。