ロシアが軍事侵攻を進めるウクライナで、アメリカのジャーナリストで映画制作者のブレント・ルノー氏(50)がキエフ郊外で銃撃を受けて亡くなった。BBCなどのメディアが現地警察の話として3月13日、伝えた。
BBCによると、ルノー氏は米誌「タイム」のためにウクライナで活動しており、地元警察署長の話として「ロシア兵に狙われていた」と伝えた。
また、他の2人のジャーナリストも負傷し、病院に運ばれたという。ウクライナで取材している外国人ジャーナリストの死亡が報告されたのはこれが初めてだ。
「難民に焦点をあてたプロジェクトで現地に滞在していた」
ブレント氏の死亡が伝えられたことを受け、「タイム」は声明を発表した。「大きなショックを受けている」とし、ブレント氏が難民に焦点をあてたプロジェクトのために現地に滞在していたと明かした。
その上で、「ウクライナで進行中の侵攻と人道的危機を、ジャーナリストが安全に取材できることが不可欠だ」と訴えた。
全文は以下の通り。
「ブレント・ルノー氏の死去により、私たちは大きなショックを受けています。受賞歴のある映画制作者、ジャーナリストとして、ブレントは兄のクレイグ・ルノーとともに、しばしば世界中の最も困難な物語に取り組みました」
「ここ数週間、ブレント氏は世界的な難民危機に焦点をあてたタイム・スタジオのプロジェクトで現地に滞在していました。私たちは、ブレント氏の愛する人たちすべてに心を寄せています。ウクライナで進行中の侵攻と人道的危機を、ジャーナリストが安全に取材できることが不可欠です」
「容赦ない攻撃にされされている人々の話を伝えていた」
アメリカを拠点に、米軍を取材するジャーナリストらでつくる軍事記者・編集者協会も声明を発表した。
ブレント氏について「ロシアが2月末にウクライナに全面戦争を仕掛けて以来、容赦ない攻撃にさらされている人々の話を伝えていた」とし、「戦闘地域から報道するジャーナリストは、戦争の犠牲者が名もない統計として扱われないようにするため、命をかけている」と訴え、紛争地域で取材するジャーナリストの保護を求めた。
「ジャーナリストは標的にされるべきではない」
国際機関のトップや世界のリーダーたちからも声が上がっている。
フランスのマクロン大統領は、「勇気と理想、すなわち情報を提供する自由によって動かされたすべてのジャーナリストのことを思っています。この自由は、私たちの民主主義にとって基本的なものです」とTwitterに投稿した。
イギリスのジョンソン首相もTwitterで、「ブレント・ルノー氏をはじめとする罪のない市民を殺害するプーチンの野蛮な行為は、ウクライナだけでなく全人類を試練に陥れている」と強い言葉で非難。ウクライナのゼレンスキー大統領と会談したことを明らかにし、「この悲惨な紛争を終わらせるために、できる限りのことをし続けることを約束した」とした。
報道の自由を守るためジャーナリストの安全の促進に取り組んでいる国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)からは、オードリー・アズレイ事務局長が非難声明を発表した。
「ジャーナリストは紛争時に情報を提供する重要な役割を担っており、決して標的にされるべきではありません。ジャーナリストとメディア関係者が確実に保護されるよう、国際人道基準の尊重を求めます」
複数の紛争地域で取材、2014年には「ピーボディ賞」を受賞
ブレント氏はNBCやニューヨーク・タイムズなど、多くのアメリカの報道機関と仕事をし、複数の紛争地域で取材をしていた。
2014年には、兄のクレイグさんとともに取り組んだ、シカゴの学校の感情障害を持つ生徒や教師たちの姿を描いたシリーズ「Last Chance High」で、アメリカの優れた放送作品に贈られる「ピーボディ賞」を受賞している。