スーパーで野菜を買う時、消費者が知らないものがある。日々の買い物で「資本主義の暴走」を止めるには?

物質的に豊かになった今、日本人が本当に欲しているものは?#考える消費シリーズ、今回のキーワードは“顔が見える”消費だ。

スーパーで食べ物を買う時、あなたは「分断」に触れているかもしれない。

普段、どんなことを考えて買い物をしているだろうか?少しでも安いもの?色づきや見た目の良いもの?カロリーや糖質などの成分表を見る人もいるだろう。

しかし、スーパーやコンビニで知ることができる情報だけでは、地方で汗を流しながら、苦労して食べ物を作っている生産者たちの顔が見えない。食べ物だけではない。パソコンやそれを動かす電気にも必ず生産者がいるが、知らない。生産者と消費者は「分断」されている。

この生産者と消費者が分断された「顔が見えない消費」こそが、資本主義を暴走させているのではないかーー。そう語るのは、農家や漁師などの生産者から直接食べ物を購入できるプラットフォームを運営するポケットマルシェの高橋博之社長と、生産者が見える形で再生可能エネルギーを販売するUPDATERの大石英司社長だ。

暴走する資本主義を、ビジネスの力で変えるための突破口とは?

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左:株式会社UPDATERの大石英司社長、右:株式会社ポケットマルシェの高橋博之社長
提供写真

課題は生産者と消費者の分断

ーーポケットマルシェは食の分野で、UPDATERは電力の分野で、生産者と消費者を直接つなぐサービスを行っています。どんな思いがあるのでしょうか。

ポケットマルシェ 高橋博之社長(以下「高橋」) サービスの根底にあるのは、「生産と消費の分断」に対する危機感です。現在の一般的な流通システムでは、生産者と消費者は相手の顔が見えない。そうすると、お互いが「利用すべき手段」になってしまいます。生産者からすれば「できるだけ手間をかけずに高く売ってやろう」、消費者からすれば「できるだけ安くたくさん買おう」とするのが合理的な判断です。

その結果、日本の食卓には外国産の食べ物が増え、地方の農村や漁村、山村は今や風前の灯火です。しかし、食べ物だけではなく、エネルギーなど生活する上で必要なものの多くを生産しているのは地方なんです。地方の持続可能性は都市の持続可能性そのもの。だからこそ、生産者と消費者をつなぐプラットフォーム「ポケットマルシェ」で、地方と都市をかき混ぜたいと考えました。

顔が見えて「人間関係」になると、そんなにひどい人はいないんですよ。生産者の手間が分かれば最後まで大事に食べるし、生産者もお客さんの顔が見えれば下手なものを作ろうとは思わない。「顔が見える」ことが、食品ロスなどの様々な課題を解決することにつながると思っています。

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ポケットマルシェを利用している生産者
撮影:イトウタカムネ

UPDATER 大石英司社長(以下「大石」) 電気も同じ問題を抱えています。今もパソコンでzoomを使って話していますが、このパソコンを動かす電気だって必ず生産者がいます。でも、コンセントの向こうがどこにつながっているか、ほとんどの人は知らないですよね。

例えばパソコンに使われているリチウム電池の原料「コバルト」の多くは、コンゴ共和国で児童労働によって採掘されているのを知っていますか?また、再生可能エネルギーといっても、山を切り崩して作ったメガソーラーや、東南アジアから伐採した木を燃料にしたバイオマスで発電していたら本末転倒です。「顔が見えない」ことに、いろんな社会問題が潜んでいます。

だからこそ、「みんな電力」ではどこの誰が、どのように電気を生産しているかが分かるように、生産者の情報を公開し、「顔の見える化」をしています。「値札」の世界ではなく、例えばQRコードを読み取ると誰がどういう風に作っているか分かるような「価値札」の世界を目指しています。

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福島で半農半エネの農業経営に取り組む生産者
みさき太陽光発電所V(福島県南相馬市)

地方の生産者と都市の消費者がつながる「破壊力」たるや

ーー実際に食と再エネの分野で「顔が見える」取り組みをしていて、利用者にどんな変化がありましたか?

高橋 実際にやってみて教わりましたよ、生産者と消費者が、具体的な「個と個として出会う」ことの破壊力を。例えば2020年4〜5月頃、東京都で新型コロナによる緊急事態宣言が発令された影響で、食料の買い占めが起きました。そのニュースをみた全国の農家や漁師から都内在住のポケマルユーザーに、「ニュース見たよ、食べ物ないんでしょ。なんでも送るから言ってくれ」ってメッセージが送られたんです。

これはもはや生産者と消費者の会話ではありません。田舎から上京した大学生の子どもを案じる親のようですよね。そういった「関係人口」が増えていくことで、地方と都市の分断が解消されていくのではないかと思っています。

大石 電気の生産者の顔が見えることで、電気のことを考えるきっかけがたくさん生まれています。

例えば世田谷区の区営保育園は、長野県にある水力発電の電気を使っています。それを知った親御さんが「自分の子どもを通わせている保育園の電気が、まさか故郷の電気だとは!」と心を動かされて、その生産者のところに園児を連れていくバスツアーに参加してくれました。逆に長野県のマスコットキャラクター「アルクマくん」が保育園を訪問するイベントも行われるなど、子どもも親も電気や長野県のことを知る機会が生まれています。

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ポケットマルシェを使用している生産者
撮影:川瀬一絵

食も働き方も脱炭素もアップデートできる

ーー「顔が見える世界」という共通の世界を目指す2社ですが、今回事業として提携するのはどんなシナジーを期待してのことですか?

高橋 生産者は今、儲からなくて大変なんです。だからこそ、ちゃんと畑の機能も使いながら、その上で発電するソーラーシェアリングで副収入を得ることに期待感を持っている生産者は多いですし、僕らが提供できる有効なソリューションだと思っています。生産者さんに自信持って、「大石さんは信頼できる人だ」と紹介できますしね。消費者の面から見ても、食べ物の作り手にこだわる人は電気の作り手にも興味あるだろうし、その逆も然りだと思っています。

大石 ソーラーシェアリングをしてくれた農家さんは、自分が作りたいものを作るようになっています。農家の収入が増えることで、「食のアップデート」にもつながるんだと実感しました。

さらに、土は炭素を吸収するポテンシャルもあります。でもUPDATERが個別の農家さんに話を持ちかけても、関係性を構築できていないので、「お前誰やねん」となってしまいます。下手をすると「おたくの土地いくらで借りてあげますよ」みたいな、地上げの話だと思われてしまう。

加えて、「再エネだったらなんでも同じ」ではありません。「環境に配慮した形で発電した方が、ちゃんと価値が出る」と、ソーラーシェアリングを「正しく広げる」には、ポケマルさんと組む必要があると思いました。

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ソーラーシェアリングで発電しながら作物を育てている
おひるねみかんODAWARA発電所(神奈川県)

限りある資源と会社の成長は矛盾しない

ーーもう一つ、今日聞いてみたかったことがあります。限りある資源と会社を成長させ続けなければならない現在の経済システムに、矛盾を感じることはありませんか?

高橋 一筋縄では行きません。会社の規模が大きくなるにつれ、その面が大きくなってくると感じています。一方で、元々資本主義はアダムスミスが「倫理観」と「共感」と繰り返し言っていますよね。今は倫理観や共感がない「暴走する資本主義」になってしまっています。大量生産、大量消費、大量廃棄の世界には、倫理も共感もない。だから僕は、「顔が見える世界」になることが、共感と倫理観を取り戻すきっかけになると思っています。

日本は戦後、物質的に困窮していたので、そこを埋める、すなわち消費することが確かに人々の幸せでした。けれど、今あらゆる分野が供給過剰になっていて、みんなが人生の質を高めるところに目を向け始めている。その時に必要なのが「関係性」だと思っています。日本の多くの人が「関係性」に飢えているのではないでしょうか。

この「関係性」を育むために、大量の資源の搾取や大量の環境の破壊はもういらないんです。多くの人が僕らと同じ世界を求めているのであれば、会社としても支持されるはずです。これまでは矛盾していたけれど、これからの時代、僕らが目指している社会と、会社の成長は決して矛盾するものじゃないと思っています。

大石 資源は限りあるものです。どこかの国が資源を買い占めれば、日本にモノが回って来なくなる状況に既になってます。このまま同じような成長を求めていっても、資源の奪い合いの中で、ものすごい「不確実性」が生まれることになります。環境が変動する中で、最後に残るものは何か。高橋さんも言っていた通り、「関係性」しかないと思います。

何か困ったときに隣近所と融通しあうような「関係性」こそが、この不確実で変化の多い世界に対して一番強いものではないでしょうか。「顔の見える」消費をやっていけばいくほど、不確実な影響を受けなくて済むようになっていきますし、食もエネルギーも分散化して富の不均衡が解消されていくと思っています。顔の見える資本主義が、これからの新しい資本主義じゃないかと本気で思っています。