12月4日に行われたサッカーJ1最終節・名古屋グランパス対浦和レッズの一戦、1枚の“イエローカード”にピッチ全体が感動に包まれた。
同試合は、長年にわたってトップリーグのレフェリーを務めてきた村上伸次審判員が主審として笛を吹く最後の試合。試合終了後、浦和レッズの槙野智章選手の行動にネット上で称賛の声が寄せられた。いったい何が起きたのか。
最後の試合で出した“幻”のイエローカード
村上審判員はJ1で主審を担当した試合数が300を超えるベテラン。天皇杯も45試合で笛を吹くなど、2003年からJリーグの審判員を務めて以降、数多くの試合を審判の立場から見届けてきた。
最後の担当試合となった同戦は、0-0のまま試合が終了した。試合終了の挨拶を真剣な表情で行うと、両チームの選手たちによって花道が作られ、村上審判員は選手から労いの言葉をかけられながらその中を通っていった。
その場面、花道の一番後ろで何やら慌ただしくユニホームを脱ぐ選手がいた。背番号「5」、浦和レッズの槙野智章選手だった。
槙野選手はその後、花道を塞ぐように仁王立ちし、村上審判員の前に立ちはだかると、何やらアピールしていた。実は、槙野選手の肌着には村上審判員へのメッセージが書き込まれていた。
すると、それを見た村上審判員は次の瞬間、槙野選手に対し“イエローカード”を提示。イエローカードを提示した村上審判員に対し、槙野選手は深々とお辞儀した。その直後には固い握手を交わし、写真撮影に移った。
この光景に、周囲にいた選手たちやスタジアムにいたファンからは惜しみない拍手が送られ、ピッチ全体が感動に包まれた。
村上審判員「公式記録には載せないで」と依頼
槙野選手に出したイエローカードについて、村上審判員は4日、自身のTwitterで「槙野さんにイエローカードは出しましたが公式記録には載せないでくださいとお願いしました」と投稿。
村上さんは「試合後、槙野さんからお話を聞きました。昨日の夜、コンビニでTシャツとマジックを買ってみんなで相談してコメントを書きました!と言われ涙が止まりませんでした。本当にありがとうございました」と裏話を明かした。
槙野選手の行動に対し、ネット上では「見ていて感動しました」「さすが槙野」「素晴らしかった」「泣けました」「槙野も浦和を去るのに」などと反響があった。
槙野選手は今シーズン限りで浦和レッズとの契約が終了し退団となる。自身も長年所属したチームを離れることになっていたが、その試合でも審判に敬意を評した姿勢に称賛の声が寄せられた。
Tシャツに描かれていたメッセージと結末
槙野選手が肌着のTシャツに込めたメッセージ全文は、次のようなものだった。
「村上さんの笑顔が僕たちを気持ちよくプレーさせてくれました。最高のレフェリングをありがとう! おつかれさまでした」
村上審判員は4日、Twitterで「本日は寒い中ありがとうございました。名古屋浦和スタッフ選手の皆さん、そしてサポーターの皆さまの拍手はいつまでも忘れません。また胴上げや槙野さんのTシャツ感謝です」と投稿。
感謝を示した上で、「洗濯をして飾ります」と、冗談めかしたコメントも残していた。
ちなみに、同試合の公式記録には、村上審判員が槙野選手に出したイエローカードは記録されていない。まさに“幻”のイエローカードだった。
審判員をはじめ、裏方やスタッフの存在があって成り立つプロスポーツ。選手からのリスペクトの気持ちが込められたシーンが、見る人の心を打った。