「見えない」障害がある人のCMに息子の姿が重なった。特集『発達障害と生きる』を立ち上げます

たくさんの人に発達障害のことを知ってほしい。きっかけになったのは、ある取材でした。
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ハフポスト日本版で、「発達障害と生きる」というカテゴリーを立ち上げました。 

発達障害とは、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)などの障害をまとめた総称です。

私が「発達障害」というテーマにしっかりと取り組んでいこうと決めたのは、ある取材がきっかけでした。

東海テレビが制作した発達障害の公共キャンペーンCMについての取材で、ディレクターとCMに出演している自閉症のラッパーの方に、制作意図などを聞くというものでした。  

 

CMには、そのラッパーの方の他にも、片付けが苦手で離婚に至った女性や文字が読めない教師など、発達障害が「見えない」障害だからこそ困難さを抱える人たちが映し出されます。そして、そこに登場する一人の子どもの姿に、当時小学生だった息子が重なったのです。 

教室で友だちと机を並べて授業を受けている男の子。窓の外からはかすかに踏切の音が聞こえ、教室にはチョークで黒板に書く音が響きます。一見なんてことのない日常の風景のように見えますが、彼にとってはそれらの音が耐えられないほど大きく聞こえ、その表情は苦痛で歪んでいます。CMでは明言されませんが、彼が聴覚過敏(※)だということが想像できました。

ひょっとしたら、息子もこれ(聴覚過敏)かもしれない。

※聴覚過敏…感覚過敏のひとつで、環境音に対して不快感や苦痛を伴う状態のこと。発達障害のある人の中には知覚作用が鋭い人もいるため感覚過敏が現れることがありますが、疲労や不安、ストレスなどが原因で現れることもあります。

 

これまで感じていた「難しさ」の謎が解けた

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息子は電車が大好きだったのに、踏切の音が大嫌いだった
YOSHIKA SUZUKI/鈴木芳果

「まるで息子を見ているようでした」

取材の時、気づいたらそう口にしていて、自分でも少し驚きました。言葉にしたことで、それまで息子を育てる中で感じていた「難しさ」が一気につながり、まさに点が線になった瞬間でした。

かすかな音でも目を覚ましてしまい2時間以上続けて寝ることのなかった乳児期に始まり、電車が大好きなのに踏切の音をとても嫌がり(確かに心地よい音ではないけれど、そんなに嫌がらなくても、と思っていた)、子どもなのに子どもの騒ぎ声を嫌がり輪に入っていけず(協調性がないのだと思っていた)、家で音楽を流すと嫌がっていた(テレビの音や環境音と混ざるのが不快だったようだが、音楽が嫌いなのだと思っていた。私自身が音楽に支えられた人生なので、これは本当に悲しかった)息子。そうか、そうだったのか。

すると、私の言葉を聞いたラッパーの方が「今はこんな仕事をしているけれど、自分も小さいころは聴覚過敏だった。息子さんに、なんでもいいので音楽プレイヤーとイヤホンを渡してみて。僕もそれで音楽が好きになった」と教えてくれました。 

その言葉通り、親のお下がりのスマホを持っていた息子にイヤホンを渡し、ストリーミングで音楽を聴けるようにしたら、勉強する時ですらイヤホンを外さないほど音楽が好きになりました。今も部屋で音楽を流すことはないけれど、イヤホンで好きな曲を聴いています。

変わるべきは社会、そのために知ろう

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「音楽が嫌い」だと思っていた息子の小学校の卒業アルバムの将来の夢には「サウンドクリエイター」と書かれていた
Huffpost Japan

「見えない」からこそ気づきにくい障害が、世の中にはあること。時としてそれは家族のような身近な存在でも気づくことが難しく、「見えない」ことで周囲から誤解され、さまざまな困難や生きづらさにつながっていること。 

その生きづらさを少しでも減らすためには「知る」ことがとても大切だということを、身をもって経験しました。

それから約1年半、発達障害について取材を続けてきました。その現場でも、「まずは知ってもらうこと」という言葉を幾度となく耳にしました。そして、何より当事者の人たちは「苦手な自分」や「できない自分」を当の本人が一番責めているということを知りました。

だから、そのためにハフポストに「発達障害と生きる」という場所をつくります。  

「あなただけじゃない」ことを伝えるための当事者の声はもちろん、偏見や差別をなくすための専門家による正しい知識や、「困りごと」を少しでも減らすための知恵など、これからもしっかりと記事にしていきます。

バナーを作ってくれたのは、イラストレーターのぴーちゃんです。ADHDの特性があり、以前、取材もさせていただきました。

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発達障害は、脳機能の発達の凸凹によって困難が生じるとされています。そのため、「脳」をアイキャッチに、シンボルカラーのブルーで作っていただきました
ぴーちゃん

ぴーちゃんは、優先順位がつけられないといったADHDの特性でアルバイトが長続きしませんでした。そうした経験から、いまの職場の面接時に申し訳なさそうに小さくなり、下を向きながら「実はADHDなんです」と伝えたそうです。

上司にあたる女性はぴーちゃんのその姿を忘れることができず、後に「発達障害であることを伝えるのに、そんなにうつむかせなければいけない社会でごめんね」と彼女に声をかけたと言います。

知ることは、そんな社会を変えることにつながると私は信じています。