第2次岸田内閣が11月10日に発足し、外務大臣に林芳正・元文部科学大臣(60)が就任した。
外相を務めていた茂木敏充氏が自民党幹事長に起用されたためで、林氏以外は第1次内閣の閣僚が再任された。
岸田派に所属し、「ポスト岸田」候補の1人ともいわれる林氏。一体どんな人?
政治家としての歩みは?父・祖父・高祖父が国会議員経験者
林氏は、山口選挙区選出で参院議員を26年務めた。
10月31日に投開票された衆院選で山口3区から自民党公認で立候補し、立憲民主党の公認候補に6万7千票以上の大差をつけて圧勝した。
衆院への鞍替えをめぐっては、山口3区選出の自民党現職だった河村建夫元官房長官(79)と党の公認を争っていたが、河村氏は公示直前に引退する意向を固め、保守分裂とはならなかった経緯がある。
林氏が衆院へ鞍替えしたのは、「将来の総理総裁」を目指すためだ。参院議員でも国会での首相指名選挙で選出されれば首相になれるが、これまでに参院議員が首相になったことはない。
林氏は、父・祖父・高祖父が国会議員経験者という政治家一家に生まれた。
ただ、当時民主党の衆院議員だった津村啓介氏との共著『国会議員の仕事』では、「『二世議員』とか『四代目』だとかのレッテルを張られるのには、以前から強い抵抗感を禁じえなかった」とつづっている。
東大法学部を卒業後は三井物産に入社。「とにかく、海外に出る仕事がしたかった」といい、タバコの輸入に関する部署で海外の産地を回り、ネットワークを構築したという。5年間勤めた後、政治家になることを決意し、退社した。「未知の時代に直面している日本の進路を、政治家の立場で考え動かしていくことには、別の大きなやりがいがあるのではないかと感じたから」という。
その後、アメリカ・ハーバード大に留学。下院議員や上院議員のもとで働き、アメリカの政府の役人が日本の官庁で実地研修を行える制度を提案し、制度として実現させたこともある。こうした海外経験もあり、英語が堪能で、「政策通」とも評されている。
帰国後は衆院議員だった父・林義郎氏の秘書を経て、1995年に参院山口選挙区で初当選。参院外交防衛委員長、内閣府副大臣を経て、防衛大臣、農林水産大臣、文部科学大臣とキャリアを重ねた。
同郷・安倍元首相との関係は…?
林氏にとって「天敵」「仲が良くない」などと揶揄されるのが、同じ山口県選出の安倍晋三元首相だ。
安倍氏の選挙区である山口4区は、林氏の父・義郎氏の郷里である下関市が選挙区だ。中選挙区制が廃止され、小選挙区制が導入されてからは、安倍氏が連勝している。
林氏が衆院に転じたことで、安倍氏と同じ選挙区となる可能性があることから、その関係がさらに注目されている。
「1票の格差」是正のため、衆院の小選挙区の区割りが見直され、2022年にも15都県を対象に「10増10減」になる見通しで、山口県では4選挙区から定数が1減となる。
新たな区割り案は2022年6月までに区割り審が固め、首相に勧告する予定だが、安倍氏の山口4区と林氏の山口3区の一部が統合される可能性があるためだ。
今回、林氏は重要閣僚の外務大臣に就任し、「ポスト岸田」に一歩近づいたと言える。
一方で林氏の外務大臣への起用をめぐっては、日中友好議連の会長を務めていることから、自民党内から「親中派」とみられるとして慎重論が出ていた。林氏は共著『国会議員の仕事』の中で、過去に月刊誌へ「小泉外交には戦略がない」という論文を寄稿し、首相の靖国参拝に反対の意を表明したこともあるとつづっている(『論座』2005年7月号)。
こうした懸念を打ち消すため、林氏は11月11日に会長を辞任すると表明。党内の保守派に配慮した形だ。
ある日本政府関係者は、「日中間の“友好”が出てしまうと、アメリカとの関係がよくなくなる可能性もある。外務大臣が特定の国を贔屓しているようにみられることはよくない」と語る。
「頭のいい穏やかな人」評価の一方、過去には「公用車でヨガ通い」報道も
林氏を知る政府関係者は、林氏について「頭のいい人で、激しい態度をとることもなく、穏やかな人」と評する。
防衛大臣、農水大臣、文科大臣と歴任し、「『困った時の林さん』と言われるほど、何でも器用にこなす」という。国会議員で作るバンド「G i ! n z」(ギインズ)では、ボーカルやピアノも担当している。
一方、過去にはこんな報道もあった。文科大臣だった2018年4月、公用車を使ってヨガに通っていたと週刊文春が報じた。加計学園の獣医学部新設を巡り、国会で問題が噴出している中だった。
林氏はその後、公務と公務の間であり、公用車を使ってもルール違反ではないとしつつ、「公私のけじめはしっかりつけるべきだったと反省している」と釈明した。