無意識の行動や言葉に何気なく表れる差別や偏見である「マイクロアグレッション」。明確な差別だとは認識しにくいものの、障害者や女性、セクシュアルマイノリティ、人種・民族的少数者などが日々、積み重なるように体験し、「現代的な差別」ともいわれます。
この「マイクロアグレッション」をめぐっては、被害者に対して「考えすぎだよ」「なんでそんな小さなことで怒るの」といった否定的な反応が向けられ、被害者をさらに追い詰めることも少なくありません。
「マイクロアグレッションって、何が問題なの?」
「怒るほどのこと?」
そんな疑問を抱いている人に、ぜひ見てほしい動画があります。
マイクロアグレッションに日常的にさらされる人たちにとって、それがどんなダメージを与えるのか。見えにくい被害の実情を、わかりやすく解説してくれます。
「マイクロアグレッションは、蚊に刺されることとどう似ているのか?」と題する約2分間の動画は、アメリカの「Fusion Comedy」が2016年に公開。60万回以上視聴されています。
YouTubeのページには、「マイクロアグレッションが問題だと思わない人へ。馬鹿げたコメントではなく、マイクロアグレッションが蚊に刺されるようなものだと想像してみてください」とのメッセージがつづられています。
アメリカ在住の翻訳者、イチカワユウさん(@yu_ichikawa)が日本語訳を付けてSNS上でシェアしたところ、ネット上で話題に。イチカワさんが作成した字幕付きの動画をもとに、その内容を紹介します。
「マイクロアグレッションの何が問題なのか、まだよくわからない人たちへ」
『わ!話し上手ね!』
『...やれやれ...』
「マイクロアグレッションを馬鹿げたコメントではなく、蚊に刺されることだと考えてみて」
『褒めてるのよー』
「蚊に刺されるかゆみは、自然界で最も不愉快な出来事のひとつ。たまに刺されるくらいなら
『いや、“もともとの”出身はどこなの?』
『オハイオ州クリーブランドだけど...』
確かにウザいけど、大したことない。問題は...蚊にそんなに刺されない人と、刺されまくる人たちがいるってこと。めちゃくちゃ刺されまくる人たち」
続いて、動画では日常生活にあふれるマイクロアグレッションの事例を次々に挙げていきます。
「デート中だろうが
『英語が本当にうまいね!』『はぁ?』
買い物中でも
(車いすユーザーに対して)『何事にも理由があるのよ!』
『リンゴ買ってるだけなんだけど』
通勤中にも『で、子供はいつ?』
テレビを見てる時も『チーム名の“レッドスキンズ”は変えるべきじゃない。我々の文化と歴史の一部なのだから』
(※レッドスキンとは、ネイティブ・アメリカンの肌の色を指す呼称で、人種差別的だと批判を受けている)
単にパートナーと道を歩いている時も
『ゲイだなんてわからなかった!』
蚊はどこにでも現れる」
「そして毎日毎日蚊に刺されることは
『髪の毛触ってもいい?』
一日に何度も刺されることは、マジでウザい。蚊に本気で怒って焼き尽くしたくなる」
動画では、他者からは大した問題ではない、と被害を矮小化されやすいことにも触れています。
「たまにしか刺されない人からしたら、過剰反応してるように見えるかも」
『単に蚊に刺されただけなのに、そんなに気にする必要ある?』
『また“怒れる黒人女性”だよ』
「もちろんウザいってだけじゃなくて、蚊は人生を何年間もめちゃくちゃにする恐ろしい病気の媒介をするときも」
『天文物理学?もっと簡単な専攻にしたら?』
『(夢が...)』
「あなたを殺してしまうようなタイプの蚊もいる」
『なんだか怪しかった。脅されたように感じたんだ!』
「だから、次に誰かが過剰反応してるように感じたら思い出して。彼らは蚊にいっつも刺されてるってことを」
『わぁ、すごくエキゾチック』
「ここで“蚊に刺される”というのは、マイクロアグレッションのこと」
論じる上で「まずは基本概念を」
イチカワさんは、「日本社会をアップデートするためのヒントになるような発信をしたい」という思いから、アメリカで話題になっている動画などを翻訳してネット上で紹介する活動をしています。
自身が女性でレズビアンであり、さらにアジア系というアメリカ社会で人種的マイノリティでもあることから、イチカワさんはフェミニズムやLGBTQ、人種に関わる動画を主に翻訳しているそうです。
なぜ今回、この動画を取り上げたのでしょうか。
イチカワさんは翻訳のきっかけについて、「差別を日本で論じるとき、そもそもベーシックな理解が進んでいないと感じることが多かった」からだと説明します。「まずは差別問題を語る上で必要な(マイクロアグレッションという)基本概念を、わかりやすく伝えられたらと思いました」。
字幕付きの動画には、「とてもわかりやすい」「蚊で表現するのは秀逸」「言われた方は地味に心に蓄積されていく」など、称賛や共感の声が寄せられています。