「ジャニーズ一強」の構図はなぜ崩れたのか。メディア環境の変化で、ボーイズグループは自由競争の時代へ

BE:FIRST、JO1、Da-iCEなどの「非ジャニーズ」のグループが人気上昇中。CDとテレビに依拠したビジネスを続けるジャニーズ事務所の影響力は、かつてに比べると着実に小さくなった。
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8月まで「スッキリ」(日本テレビ系)およびHuluで放送されていたオーディション「THE FIRST」から飛び出したボーイズグループ、BE:FIRSTの勢いが止まらない。プレデビュー曲「Shining One」は各種チャートで1位を獲得し、MVの再生回数はすでに1000万回を突破した。

 

彼らの現状の人気を支えるものとして、YouTubeをはじめとするネット上における公式からの情報発信がある。オーディションの様子は「スッキリ」とHuluだけでなくYouTubeでも無料で公開されていて、誰しもがBE:FIRSTの楽曲に触れた後にその誕生ストーリーを楽しむことができる。また、「Shining One」に関してもオフィシャルなMVだけでなくメイキング動画やダンスプラクティス動画がアップされており、グループの魅力を多面的に楽しめる仕組みが充実している。

高いクオリティのパフォーマンスと、そんな魅力に様々な角度からスポットライトを当てるデジタルでのプロモーション。BE:FIRSTのスタートダッシュが現時点で成功しているのは、グローバルにおいては「当たり前」となっている取り組みを着実に遂行しているからこそである。

そして、この状況は見方を変えると「“当たり前のことを着実に遂行する”というのは、日本のマーケットにおいては決して“当たり前”ではない」ということを意味しているとも言える。

メディア環境の変化とジャニーズ事務所

これまで日本において「ボーイズグループの“当たり前”」を定義してきたジャニーズ事務所は、(多少の態度の軟化は見られるものの)相変わらず「ネット忌避」の姿勢を貫いている。

そのスタンスは音源の扱いに関して顕著で、ストリーミングサービスにてグループの音源を他のアーティストと同じような環境で楽しめるのは活動休止中の嵐のみ。Amazonプライム・ビデオにおけるKinKi Kidsのライブ映像配信やKis-My-Ft2のLINE MUSICでの音源解禁など「一部のプラットフォームで」かつ「期間限定で」の取り組みは単発で行われているが、トータルとして消極的なスタンスは相変わらず続いている。

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ジャニーズ事務所
時事通信社

ジャニーズ事務所のやり方が大枠では変化しない中、音楽・芸能を取り巻くメディア環境はドラスティックに動いている。

ピーク時の1998年には6000億円以上を売り上げていたCDの売上は、2020年には2000億円程度にまで減少。一方でストリーミングサービスの同年売上は3年前の2倍以上となる590億円まで拡大し(配信全体では782億円)、「サブスク発」のヒット曲も多数生まれるようになった。

また、ジャニーズ事務所が複数の人気グループを擁してなかば「寡占」の様相を呈していたテレビについても、2019年時点でその広告費がインターネットを下回った(電通「日本の広告費」より)。最近では「平日にインターネットを使う時間はテレビを生で見る時間より長い」という総務省の調査結果が発表されるなど(「令和2年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」)、いよいよテレビが「情報発信源の中心」から追い出されつつある。いまだCDとテレビに依拠したビジネスを続けているジャニーズ事務所の相対的な影響力は、かつてに比べると着実に小さくなった。

 

「フリースタイルティーチャー」とDa-iCE「Kartell」

「ジャニーズ一強」の構造がそれを支えてきたメディア環境から崩れ始めた中で、前述したBE:FIRSTや韓国と日本のマネジメント会社がタッグを組んだJO1のようなボーイズグループがその間隙を縫う形で人気を博している。

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オーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」から誕生した11人組ボーイズグループJO1。日本の吉本興業と韓国の大手エンタメ企業CJ ENMがタッグを組んでマネージメントなどを担当する
Takashi Aoyama via Getty Images

そんな流れが大きくなっていることを感じさせたのが、2月から5月にかけて放送されていた「フリースタイルティーチャー」(テレビ朝日系)の「男性アイドルラッパー育成SP」である。登場した5人のアイドルは全員が「非ジャニーズ」。深夜とはいえこの面々が地上波のテレビ番組にまとまって出演したこと、かつその番組構成が本格的なフリースタイルラップをプロから学んで総当たり戦のバトルに臨むという「純然たるスキル」にフォーカスするものだったことは、「日本のボーイズグループ=ジャニーズの“未熟さ”を楽しむエンターテインメント」という構図とは異なる価値観が広まりつつあることを大いに示してくれた。

そういった動きに対してビビッドに反応したのが、2021年で結成10周年を迎えたDa-iCEである。「THE FIRST」にもオーディションの主催者であるSKY-HIの応援者としてグループのリーダーである工藤大輝が登場していたが、その工藤が作詞・作曲を手掛けた「Kartell」は「THE FIRST」およびBE:FIRSTが引き起こす地殻変動に呼応するような内容になっている。

 

<嘘くさい常識> 

<くだらない暗黙の了解> 

<蹴飛ばせ忖度と不感症>

<蹴散らせ行く手阻む迎合>

アグレッシブなギターが印象的なサウンドに乗せて歌われる刺激的な言葉に込められているのは、今のように多様なボーイズグループがメインストリームで注目される時代になる前からスキルを磨いてきた彼らの自負とプライドだろう。「新たな10年へ向けて決意を表明する1曲」と位置づけられたこの曲に冠された「カルテル」という言葉は「ビジネスで独占的に利益を得るための関係者間の協定」を意味するわけで、時代の変わり目において改めてシーンに殴り込もうとする強い意思がひしひしと感じられる。

自由競争の時代へ

「旧来のメディアの権威が崩れる」「新たな発信者が登場する」 ― インターネットが一般的なツールとして広まる中でたびたび語られてきた言説である。ここ数年、このコンセプトはいよいよ(やっと)現実味をもって社会のあり方を変えようとしている感がある。

こういった流れは不可逆であり、もちろん芸能の世界も例外ではない。ボーイズグループのシーンにおいては、「非ジャニーズ」の存在感の拡大という形でそんな潮流が顕在化している。

文化の豊饒さは選択肢の多様さによってもたらされる。そして、その多様な選択肢が自由に競争することで、受け手も含めたシーン全体の質が向上する。登場人物が長年固定されていたメインストリームにおけるボーイズグループに関してそんな好循環が起こり始めたことは非常に喜ばしいし、その流れに刺激を受けて更なるイノベイティブなアウトプットが生まれることを楽しみにしたい。

 

(文:レジー @regista13 編集:若田悠希 @yukiwkt