4月から朝の情報番組「スッキリ」とHuluで放送されている、ラッパーのSKY-HIが主催するオーディション「BMSG Audition 2021 -THE FIRST」(以下「THE FIRST」)。
5人のボーイズグループのメンバーを決めるためのこの取り組みも、いよいよ佳境に入ってきた。現在残っている候補者は10人。ここから最終審査を経て、8月13日の「スッキリ」にていよいよグループの全貌が明らかになる。
今の時代にあった「人間ファースト」という考え方
「THE FIRST」から輩出されるボーイズグループは、結成後まずは年内のデビューを目指して始動する。現在、他にも多数のオーディションプロジェクトが進行中で、「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」からは、6月に11人組ボーイズグループINIが誕生。今後も、NiziUを輩出した「Nizi Project」の男性版オーディションや、LDHが主宰し、BTSが所属するHYBEの日本法人とタッグを組む男女混合大型オーディション「iCON Z」などが続く。
オーディション百花繚乱の時代において、「THE FIRST」はじわじわとその人気を高めつつある。放送日には参加メンバーの名前がツイッターのトレンドに並び、オーディション内で披露した楽曲のパフォーマンス動画はYouTubeで軒並み100万回を上回る再生回数を記録するなど、その人気が数字としても現れている。
「埋もれた才能を発掘」と銘打っているだけあって、「THE FIRST」で現在残っている10人のメンバーはいずれも個性的である。しかも「キャラが立っている」だけでなく、歌やダンスなどパフォーマーとしてのスキル水準がそれぞれ高い。今回のオーディションでSKY-HIが掲げている「3つのファースト」(=パフォーマンスの基礎能力を示す「クオリティファースト」、音楽を考えて生み出す力としての「クリエイティブファースト」、そしてステージ上で自身のあり方を証明できるかが試される「アーティシズムファースト」)が評価基準として徹底されていることを、最終審査に挑む面々の立ち姿が十分に証明している。
ただ、「THE FIRST」が魅力的であり、かつ数多あるオーディションの中でも意義のある取り組みになっている理由は、「参加者の質が高いから」というだけではないだろう。
結論を先取りすると、前述の「3つのファースト」の手前にある「人間ファースト」とでも言うべき考え方こそが、「THE FIRST」を「今の時代にふさわしいオーディション」に昇華させている。
アーティストをめぐる「消費」への問題意識
オーディションの主宰者であるSKY-HIは、男女混合パフォーマンスグループAAAのメンバー日高光啓として15年以上のキャリアを持ち、同時にソロのラッパーとしても活躍。「THE FIRST」の開催に伴い、「Be My Self Group」を掲げ、マネジメント&レーベルの会社BMSGを立ち上げた。
「『アーティストを人間ではなくて自分が思い通りに消費できる存在として扱う』ことが普通になっているのはどうなんだろう」
「THE FIRST」を始める2年以上前、SKY-HIはインタビューでこのように語っているが、その背景には自身が歩んできた「Jポップシーンのど真ん中でドーム公演を行いながらソロのラッパーとしてアンダーグラウンドのシーンとつながる」という特異なキャリアに向けられる奇異の眼差しの存在がある。
やりたくないことをやり続ければ疲弊するし、やりたいことを貫こうとすると叩かれる。そういった芸能のルール(もしくは「日本社会のルール」なのかもしれないが)を当事者としてサバイブしているSKY-HIだからこそ、未成年も含むオーディション参加者に対する言葉はステージ上での振る舞い以外に及ぶことが多い。
なぜ「学業」を重視?
特に印象的だったのは、「富士山合宿」(15人の参加者を1か月の合宿で10人にまで絞るステージ)で最後の脱落者となった13歳のルイへのコメントである。
グループへの参加は現時点では見送ったうえで身体の成長を見ながら一緒にデビューを目指してほしいという異例の「脱落者へのスカウト」を行ったSKY-HIは、才能あふれる少年についてこんなことを述べている。
「今年デビューのメンバーに入ってしまった場合、世間から求められるルイ像は、きっとルイにとって望ましくないものになる」
「見た目の華々しさや、とても可愛い人間性もあるので、そういったところを求められ、その分、基礎的な技術、歌やダンスを練習する時間が削られ学校にも行けなくなって、人間としても、音楽をする人間としても、消耗してしまうのが目に見えていた」
「プロのアーティストとしてやるということは責任者になるということ」
「必ずしも学力が高い必要はないけど考える力が高い必要は絶対にある」
「もちろんそれは学校だけで学べることじゃないけど、学校の中で学べる『考える力』『人に伝えていく力』というのはすごく大きいと思うし、教科書もバカにならないと本気で思っている」
「お母さんと話をしながら、学力の向上に関してもちゃんと面倒を見ていくという姿勢で彼と一緒に歩いていきたい」
アーティストとしてデビューするメンバーを決めるオーディションにおいて「学業」に関する話が出てくるというところから垣間見えるのは、SKY-HIが「オーディション参加者の人生を預かっている」という責任である。
自身の意思決定が他人の人生を左右する。一方で、芸能界で成功するかどうかの保証は残念ながらないし、仮にうまくいかないことがあったとして、最終的にその負担は社長であるSKY-HIではなくメンバー自身が背負うことになる。だからこそ、軽々しい決断はできない。番組内でたびたび描き出されるメンバーの順位付けにあたって悩み時に涙するSKY-HIの姿は、決してテレビ的な演出ではないのだろう。
今の社会を自立的に生き抜く哲学を持っているか
2010年代の女性グループにおける「アイドル戦国時代」といったムーブメントを経て、最近では「アイドルのセカンドキャリア」がよく話題にのぼるようになった。また、SNSを介してオンもオフも関係なくその人格を「コンテンツ」として消費され続ける今の時代において、アーティストのメンタルヘルスに関する問題もより深刻さを増している。
そういった環境の問題点を意識したうえで、「パフォーマーとしての成長」だけでなく「人間としての成長」にも目を向けながら、そして「アーティストが持つ人間としての側面を守る」という態度をはっきり示しながら、若い才能を芸能の世界に導き入れようとしているSKY-HIのスタンスは、非常に誠実であると同時に非常に現代的でもある。
8月13日に発表される5人のグループは、今の10人から誰が選ばれたとしても高いレベルのパフォーマンスをやりこなす存在になることは間違いない。
ただ、もっと重要なのは、その5人が「今の社会を自立的に生き抜く哲学を持っているか」という観点からも評価された面々だということである。芸能界のみならず社会のあり方が大きく変わろうとしているタイミングでデビューする彼らは、我々にどんなインパクトを残してくれるのだろうか。
(文:レジー @regista13 編集:若田悠希 @yukiwkt)