今回の東京都議選では、女性の当選者が過去最多を更新、当選者のうち女性の占める割合が32%ということが話題になった。
2021年版の政治分野におけるジェンダーギャップ指数で、156カ国中147位という泣けるような「ジェンダー不平等」が指摘されている日本にとっては大変ポジティブなニュースである。で、いくつかのメディアでは、今年10月に任期満了を迎える衆院選にもこの傾向が続くのか、といった論調が見られた。
しかし、総選挙となると乗り越えるべき山はアイガー北壁並みに高い。
そもそも国会では多くの議員が長期間にわたって、女性の国会議員を増やすべく汗をかいてきた。
その努力のかいもあって、2018年には候補者男女均等法が成立し、前国会では改正案も成立した。政府には男女共同参画局があって、女性活躍推進やポジティブ・アクションなどとこれ以上ないほどの調査、研究、提言もされている。それにも関わらず女性候補者割合の数値目標設定はいぜん努力義務にとどまり、結果、政治分野のジェンダーギャップ指数は世界147位だ。
いったい何故なのか。
勉強会で見えてきた大きな2つの課題
今年の春、超党派女性議員による「クオータ制実現に向けての勉強会」を立ち上げたのもそれを知りたいからだった。メディアの人間が関わることで、第三者だからこそ感じる疑問や、国会の外に見えてこない障壁を伝え、多くの人とシェアすることで変えていくことができないかと考えた。
田原総一朗さんが座長、私が事務局長としてスタートし、自民・立憲・公明・維新・共産・国民・社民の議員が参加して、女性の国会議員増に立ちはだかる様々な障壁のあぶり出しをしている。
今のところ、勉強会を通して見えてきた大きな課題は、
1. 女性が国会議員として立候補する、また働くための環境整備
2. 小選挙区制度における「現職優先」
この2つである。
改正された「候補者男女均等法」ではおもに環境改善において進展があった。
セクハラやマタハラ(妊娠や出産をめぐる嫌がらせ)は女性の立候補を妨げる大きな要因となっている。お尻や胸を触られた、「キスしたら投票する」と言われる、握った手を離さないなど、いまだに女性候補者に対するセクハラ報告は枚挙にいとまがない。改正法ではこれらの防止策を政党や国、自治体に求める条文が新たに設けられた。
勉強会では、出産する議員が産前産後に国会を休むことで法案に投票できないこと、さらにそのことで「だから女は」とネガティブにとられるという事例が話し合われた。出産は病気ではないのに議決権を行使できないのは不合理である。
産前産後だけでも「オンライン投票」を可能にすべきという議論もあるのだが、年配の男性議員から、憲法56条にある「出席議員」という言葉の「出席」は実体があって体温が感じられることが前提だから、と言われたという話も出た。たしかに憲法はインターネットを前提にしていないとはいえ、今の時代にマジかよと思ってしまう。
女性が、ひいては多くの男性議員にとっても働きやすくなる国会には、まだまだ環境整備が必要である。
そして、最大の難関は総選挙における「小選挙区制度」だ。多くの政党は「現職優先」という方針をとっている。ただでさえ男性国会議員が多い現状で「現職優先」となると、女性候補を新しく擁立することは不可能に近い。では「比例代表で」といっても、かなり小選挙区に強い党でない限り女性を優先配分していくというのは難しくなる。
より多様性に富む人材を国会に送り込むためには、現行の小選挙区制度では限界があることをもっと直視しなければならないと思う。昔の中選挙区制度に戻すというよりも、時代にあわせてより幅広い人材が政治に参加できるような選挙制度を研究し、実現することを両輪にしないかぎり、日本の政治における「多様性」の議論は表面的なものに留まることになるだろう。
何よりの障壁は「無関心」
そしてなによりの障壁は、クオータ制を含め女性の国会議員を増やすことへの「無関心」だ。
実際、永田町でも「票にならないし、政策として優先順位が低くなる」という言葉を耳にする。もちろん熱心な議員もいるが、国会全体として国民の関心が低いことを理由に後回しにするため、結局ジェンダーが「流行り」にのった表面的な議論にしかならないというのが日本の現実だ。
しかし、少子高齢化や労働人口の問題、ひいては福祉・年金に至るまで日本の将来に陰を落とす大問題、言うなら「票につながる」政策課題の底辺に、日本が世界に大きく遅れをとっているジェンダー・多様性に関する課題が深く関わっていることがどうして議論されないのだろう。
ジェンダー問題は男女の席の取り合いではなく、男女に関わらず様々な環境にいる人たちにとって、より生きやすい社会をつくるために解決していくべき課題だ。日本の成長にとっても鍵を握る問題であり、国会には本当に目を覚ましてもらいたいと思う。