クマとの遭遇時に取るべき行動。死んだふりは?距離別で対処法が違う。環境省のマニュアルが参考になる

相次ぐクマとの遭遇。いざという時、どのように対応すれば良いのでしょうか。
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札幌市東区の住宅街に現れて市内を逃げ回ったクマ
時事通信社

北海道札幌市東区で6月18日、クマが出没し住宅街で男女合わせて4人がけがをした。クマは猟友会のハンターによって駆除された。

また同日、長野県須坂市の住宅の庭でも89歳の女性がクマに襲われ腕の骨を折るなどの大けがをした。

街中や住宅付近でクマに遭遇した場合、どのように対応すれば良いのか。環境省や自治体などがまとめている対処法を紹介する。

環境省は対応マニュアルを改定「一層深刻な状況」

環境省は2021年3月、「クマ類の出没対応マニュアル」を14年ぶりに改定した。

改定に至った理由は「近年、人里へのクマ類の大量出没による人身被害が増加しており、人とクマ類のあつれきは一層深刻な状況」となった為と説明している。

クマとの「距離」で取るべき対応は異なる

クマと遭遇した時の対処法は、クマと自分がどのくらい距離が離れているかによって異なる。環境省のマニュアルから、それぞれの場合を紹介する。

1.遠くにクマがいる場合

 

落ち着いて静かにその場から立ち去ります。クマが先に人の気配に気づいて隠れる、逃走する場合が多いですが、もし(クマが人に)気が付いていないようであれば存在を知らせるため、物音を立てるなど様子を見ながら立ち去りましょう。急に大声をあげたり、急な動きをしたりするとクマが驚いてどのような行動をするか分からないため、注意しましょう。 

 2.近くにクマがいることに気づいた場合

 

まずは落ち着くことが重要です。時にクマが気づいて向かってくることがあります。 本気で攻撃するのではなく、威嚇突進(ブラフチャージ)といって、すぐ立ち止まっては引き返す行動を見せる場合があります。この場合は、落ち着いてクマとの距離をとることで、やがてクマが立ち去る場合があります。

 

クマは逃走する対象を追いかける傾向があるので、背中を見せて逃げ出すと攻撃性を高める場合があります。そのため、クマを見ながらゆっくり後退する、静かに語りかけながら後退するなど落ち着いて距離をとるようにします。慌てて走って逃げてはいけません。

3.至近距離で突発的に遭遇した場合

 

クマによる直接攻撃など過激な反応が起きる可能性が高くなります。攻撃を回避する完全な対処方法はありません。

 

クマは攻撃的行動として、上腕で引っ掻く、噛み付くなどの行動をとりますが、ツキノワグマでは一撃を与えた後すぐ逃走する場合が多いとされています。顔面・頭部が攻撃されることが多いため、両腕で顔面や頭部を覆い、直ちにうつ伏せになるなどして重大な障害や致命的ダメージを最小限にとどめることが重要です。

 

クマ撃退スプレー(唐辛子成分であるカプサイシンを発射するスプレー)を携行している場合は、クマに向かって噴射することで攻撃を回避できる可能性が高くなります。

このほか、島根県江津市が公表している対処法では、目安として100メートル離れている場合は「気づかれないように、クマを見ながら静かに避難」、20メートルから50メートルの距離で突発的に遭遇した場合は「あわてずに、ゆっくりと両腕を大きく振りながら、穏やかに声をかけて」などとしている。

「親子連れ」のクマにも注意。撃退スプレーの効果はあるのか

「親子連れ」にも注意が必要だ。親子連れのクマと遭遇した場合の対処法について、環境省のマニュアルにはこのように書かれている。

母グマは子グマを守ろうと攻撃的行動をとることが多いため、より一層注意が必要です。子グマが単独でいるような場合でも、すぐ近くに母グマがいる可能性が高いため、近づくことはせず、速やかにその場から離れることが必要です。

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岩手県岩泉町の山中の林道に現れた親子とみられるツキノワグマ。[岩手県の佐藤嘉宏さん提供]
時事通信社[岩手県の佐藤嘉宏さん提供]

クマに遭遇してしまった時に備え、環境省は「クマ撃退スプレー」(唐辛子成分であるカプサイシンを発射するスプレー)の携帯も推奨している。どのような効果があり、注意すべき点は何か。以下のような説明がある。

カプサイシンは粘膜を刺激するため、クマの目や鼻・のどの粘膜にスプレーが当たるよう、顔に向かって噴射することが重要です。射程距離は5m程度と短い製品が多いため、十分クマを引き付けてから噴射する必要があります。

 

下草が人の背丈ほどに鬱閉したところなどでは効果的な噴射が難しく、十分な効果を期待できないことがあります。刺激性物質の効果は人も同じなので、風向きによっては噴射した本人へも影響があります。

 

それでもクマからの攻撃を回避するためには、躊躇せずスプレーを噴射することが重要です。 誤射に注意しつつ、いざという時にすぐ使うことができる場所に携帯することが必要になります。咄嗟に使用することは難しいので、事前にトレーニング用スプレーなどで練習することも重要です。

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クマに遭遇した際の安全装備
環境省

ちなみに、クマに遭遇した際によく聞かれるのが「死んだふりをする」という行為だが、環境省野生生物課の鳥獣保護管理室の担当者は「そういったことで無事だった例があるのかもしれませんが、根拠がない話でありますので、環境省として推奨はしておりません」と話した。