劇場閉鎖に撮影の中断…。新型コロナに振り回された米エンタメ業界の行方

新型コロナによるロックダウンは、エンタテインメント業界にも大きな影響を与えた。弁護士のライアン・ゴールドスティンさんが、アメリカのエンタテインメントビジネスがどのように様変わりしたか、法的観点を交えて解説します。
Open Image Modal
イメージ写真
Sinisa Kukic via Getty Images

NY・ブロードウェイの劇場は9月14日から再開する予定だ。2020年3月から1年以上も閉鎖されていた、NYの顔ともいえる劇場の再開は非常に喜ばしいことである。

新型コロナウイルスのパンデミックによるロックダウンは、エンタテインメント業界にも大きな影響を与えたことは言うまでもない。

アメリカのエンタテインメントビジネスがどのように様変わりしたか、法的観点を交えて報告する。 

 

約1万6000あるスクリーンがコロナで閉鎖

新型コロナウイルスのパンデミックにより自宅で過ごす時間が多くなったことは、劇場や放送局にとって不利な状況だろう。テレビはコンテンツ制作のために取材したり、ライブ番組を放送するにしてもゲストをスタジオに招いたりすることが非常に難しくなった。

また、アメリカには映画館(スクリーン)が1万6000ほどあるが、閉鎖されてしまったために価値を失っている。

こうした状況を機に、それまでは若者を中心にインターネットに抵抗感のない者たちが利用していたストリーミングがブームとなった。ロックダウンを機に、テレビからストリーミングへと視聴習慣が移行したからだ。

劇場へ行かなくても映画を視聴できる環境が整って、ライブで観る価値のある作品以外はストリーミングで十分賄えるとなれば、劇場やテレビ局はお株を奪われた状況に追い込まれてしまうのは仕方のないことかもしれない。

 

映画製作スタジオがストリーミングを開始

拍車をかけるのが映画製作スタジオのビジネスモデルの転換である。

2020年12月AT&T/ワーナーメディアが定額制動画配信サービス「HBOマックス」で新作を同時に発売した。つまり、劇場へ足を運ばなくても新作をストリーミングで視聴できるようにしたのだ。これが大規模な法廷闘争を巻き起こした。

新型コロナウイルスのパンデミックを経て、ほとんどの主要な映画製作スタジオがストリーミングサービスを開始した。ところがソニーは例外で、ストリーミングサービスを開始する代わりにネットフリックスに投資。映画部門を独立させる考えがあるのかと言った憶測が広がっている。

 

デジタル配信はアーティストを苦しめる?

このような環境下で紛争も数々勃発している。

例えば、作品上映にあたっては契約上、最低限のスクリーン数が要求されるがそれを実行できない。新作のリリースが遅延する。テレビ番組が新型コロナウイルスの感染拡大防止のためにかけた費用は誰が負担するのか。中止された企画に起用されるはずだったスターへの報酬は誰が負担するのか。

さらに制作スタジオがストリーミングで配信することを決定したのに伴い発生する番組関係者(タレント、共同出資者等)へのストリーミングの権利関係の対価…。

現在、中断されている製作活動が再開されれば、現実的にも法的にも大混乱は必至である。

音楽業界も同様にデジタル配信に傾いた。

2020年はコンサートやライブビジネスは全滅であった。この状況が何を招いたか。

レコード会社は潤ったがアーティストを苦しめるに状況を生み出した。ごく簡単に言えば、レコード会社は音源を売ることで収入があるが、アーティストにとってはうまみが少ない。

一方ライブやコンサートの収益はアーティストの収入の割合が大きいという。

この状況でアーティストは良い作品を生み出すことができるのだろうか。今年の夏から秋にかけてコンサートやライブ活動が再開されるというが、そこ時期までアーティストが活動を維持できていればいいが…。

大きく振り回された米国のエンタテインメント業界の事例を報告することが、日本のエンタテインメントビジネスの役に立つことを願うばかりである。

 (文:ライアン・ゴールドスティン)