防衛大臣名指しの2社が見解「ワクチン無駄にせず」「架空予約防止呼びかけ」

毎日新聞「防衛省のコメントを載せ、紙面でも架空予約防止を呼びかけている」 AERA dot.「予約は情報に基づいて真偽を確かめるために必要不可欠な確認行為」

新型コロナウイルスワクチンの大規模接種センターの予約システムについて、実際の接種券にはない架空の数字を入力しても予約可能だと報じたAERA dot.(朝日新聞出版)と毎日新聞について、岸信夫・防衛大臣が名指しで批判した問題で、抗議を受けた2社の声明が19日、出揃った。

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岸信夫大臣(右)とツイート(左)
時事通信社

朝日新聞出版が運営する「AERA dot.」と毎日新聞は、5月17日からインターネットで始まった新型コロナウイルスのワクチン予約システムについて、自体から送付される接種券にある番号ではなく、架空の数字を入れても予約ができてしまうことを、実際に記者が検証する形で報道した。

これに対し、岸防衛大臣は自身のTwitterで「65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為」などと批判を展開。防衛省を通じて2社へ抗議していた。

また実兄である安倍晋三前首相も「妨害愉快犯」などと批判していた。

また、「日経クロステック」も架空番号で予約を取れるか検証する報道をしている。

これに対し、毎日新聞は18日夜、AERA dot.は19日夕方にそれぞれ見解を発表。

毎日新聞は「防衛省はシステムのそうした欠陥について事前に公表しておらず、事実であれば放置することで接種に影響が出る恐れもあり、公益性の高さから報道する必要があると判断。防衛省への取材を進めるとともに、記者が実際に入力して事実であることを確認した」と経緯を説明した上で、「確認後は予約をすぐに取り消し、接種を受ける人に影響しないよう配慮した上、架空の予約をしないよう呼びかける防衛省のコメントを載せ、紙面でも架空予約防止を呼びかけている」とした。 

また、AERA dot.は運営する朝日新聞出版の名義で、芹澤清・防衛省官房長名の「貴社報道に対する申し入れ」が郵送で届けられたことを明かしたうえで、「事前に防衛省とシステムの委託先の会社に見解を求めましたが、明確な回答は得られませんでした。取材過程における予約は情報に基づいて真偽を確かめるために必要不可欠な確認行為であり、記事にある通り、確認後にキャンセルしております」と説明した。

その上で、「65歳以上の接種希望者の接種の機会を奪い、ワクチンを無駄にするものではありません。政府の施策を検証することは報道機関の使命であり、記事は極めて公益性の高いものと考えております」と反論した。

■毎日新聞と朝日新聞出版の声明全文

毎日新聞

岸信夫防衛相は18日午前の記者会見で、大規模接種センターのインターネット予約をめぐる毎日新聞と朝日新聞出版のニュースサイト「アエラドット」の報道の取材手法について「悪質な行為であり極めて遺憾だ。厳重に抗議する」と述べた。

毎日新聞は17日のニュースサイトと18日朝刊の記事で、記者が防衛省のサイトから架空の市区町村コードや接種券番号の数字を入力したところ、予約作業を進めることができたとして、システムの信頼性に問題があることを指摘した。

アエラドットの17日配信の記事は「ワクチン予約に欠陥が見つかった」との情報を防衛省関係者から得たとして、編集部で架空の番号を入力して予約できることを確認した上で防衛省に取材し、システムに「重大欠陥」があると記している。

また、日経BPの技術系ニュースサイト「日経クロステック」も17日の記事で、自ら架空の番号を入力して予約できることを確認して防衛省に取材し、システムに不具合があることを報じた。

毎日新聞は17日、予約システムについて「架空の数字を入力しても予約できる」との情報を得た。防衛省はシステムのそうした欠陥について事前に公表しておらず、事実であれば放置することで接種に影響が出る恐れもあり、公益性の高さから報道する必要があると判断。防衛省への取材を進めるとともに、記者が実際に入力して事実であることを確認した。

確認後は予約をすぐに取り消し、接種を受ける人に影響しないよう配慮した上、架空の予約をしないよう呼びかける防衛省のコメントを載せ、紙面でも架空予約防止を呼びかけている。

朝日新聞出版(AERA dot. )

AERA dot.で5月17日に配信した『【独自】「誰でも何度でも予約可能」ワクチン大規模接種東京センターの予約システムに重大欠陥』の記事について19日、芹澤清・防衛省官房長名の「貴社報道に対する申し入れ」が郵送で届きました。これに関する弊社の見解は次の通りです。

今回の記事は、人の生命・安全に影響を及ぼす新型コロナウイルスのワクチン大規模接種に関する予約システムについて、架空の市区町村コードや接種券番号で誰でも予約ができてしまう脆弱性があり、このシステムを使って重大な不正行為が行われる恐れがあることを指摘したものです。この点について事前に防衛省とシステムの委託先の会社に見解を求めましたが、明確な回答は得られませんでした。取材過程における予約は情報に基づいて真偽を確かめるために必要不可欠な確認行為であり、記事にある通り、確認後にキャンセルしております。65歳以上の接種希望者の接種の機会を奪い、ワクチンを無駄にするものではありません。政府の施策を検証することは報道機関の使命であり、記事は極めて公益性の高いものと考えております。

               2021年5月19日 株式会社 朝日新聞出版