ディズニー『アラジン』(実写版・2019年公開)が、5月21日に「金曜ロードショー」(日本テレビ系)でテレビで初めて放送されます。
1992年公開のアニメーション版を実写化した同作は、国内での興行収入が121億を超える大ヒット。劇場で見たという人も多いのではないでしょうか。
約30年前のアニメーションとストーリー展開で重なる点が多くありますが、実写ならではの注目ポイントもあり、違いを楽しむことが出来ます。
そこで今回は、テレビでの初放送をより楽しむために、アニメーション版と比べてみて分かった実写版の見どころを紹介します。
(※以下では、映画本編の内容に触れています。また、作品には様々な解釈があります。あくまでも、参考の1つとしてお楽しみください)
どんな話だった?まずは30秒でおさらい
見るのが初めて、もしくは久しぶりだという方に向けて、簡単にストーリーをおさらいしておきましょう。実写版とアニメーション、共通してこのような展開です。
『アラジン』は、「アグラバー」という王国を舞台に、貧しく生きるが心がきれいな青年・アラジンと国王の娘・ジャスミンが互いに惹かれ合うという愛の物語。
ある日出会ったジャスミンに恋をしたアラジンは、身分の差という障壁を乗り越え恋を成就させるためランプの魔人・ジーニーの力を借り、自らを「王子」と偽って彼女と向き合うことに。
一方、王国の国務大臣で悪役のジャファーは国王に仕えながら、影で国を我が物にしようと企んでいました。やがて、アラジンがついた嘘がジャスミンにバレてしまいます。アラジンとジャスミンの恋の行方、そして王国の運命は...。
実写版のメインキャストはジーニー役をウィル・スミス、アラジン役をメナ・マスード、ジャスミン役をナオミ・スコットが演じ、実写(プレミアム吹替)版の声優はアラジン役を中村倫也さん、ジャスミン役を木下晴香さん、ジーニー役を山寺宏一さん、ジャファー役を北村一輝さんが務めました。
『アラジン』といえば、「アラビアン・ナイト」や「フレンド・ライク・ミー」など作曲家アラン・メンケンが手がける楽曲も魅力の1つです。
中でも物語のハイライトで流れる「ホール・ニュー・ワールド」は1993年に第65回アカデミー賞の歌曲賞を受賞し、94年にはグラミー賞の最優秀楽曲賞に選ばれています。
オープニングの「あの疑惑」。実写では...?
まず、物語のオープニングを比較してみましょう。
アニメーション版では、ある1人の行商人が魔法のランプを紹介し、語り始めるところからストーリーが始まります。「この行商人が一体誰なのか?」という疑問は、多くのファンの間で長年話題となってきました。
この行商人の英語版声優を務めたロビン・ウィリアムズが、同時に「ジーニー」の声優も務めていたことから、「この行商人の正体が実はジーニーである」という噂もありました。(※日本語の吹き替え版では、行商人とジーニーの声優は異なります)
ちなみにこの説については2015年、米のニュース番組「E! News」に出演した同アニメーションの監督であるロン・クレメンツ氏が「これは事実だ」と認めています。
一方の実写版では、船で海を渡る商人らしき男(ウィル・スミス)が登場。男は魔法のランプについて、2人の子どもに語り出します。
このシーンでは、この男の「パートナー」と思われる人物も登場しますが、顔は明かされていませんでした。
物語が進むと、商人らしき男役だったウィル・スミスが、ランプの魔人「ジーニー」として“再登場“するため、この実写版をもって、「アニメーションでも行商人とジーニーが同一人物だった」という説はファンの間でさらに広まっていったのです。
実写ではジーニーにも「恋物語」がある
さて、『アラジン』の物語の中心は、アラジンとジャスミンの恋の行方です。
ジーニーはあくまでも主人であるアラジンの願いを叶えることを通じて彼に寄り添う存在。アニメーション版では、自らの恋愛模様については描かれていませんでした。
しかし、実写版ではこれが大きく異なります。物語の中盤から、ジーニーは王宮に住むジャスミンに仕える「ダリア」という女性にどうやら恋をするのです。
ジーニーがダリアと2人でデートをするシーンも描かれています。
見てのお楽しみということで経緯は詳しく書きませんが、実写版の最後、ジーニーはずっと憧れていた「自由」を手にすることができます。
ジーニーは「出来ればプリンセスの侍女さんと、世界を一緒に旅して回りたいんだ。もし、良ければだけど....」とダリアに望むと、彼女もそれに喜んで応えます。
その直後には、先に書いた物語冒頭に登場する2人の子どもとジーニー、そしてダリアが共に船で旅をしているシーンが描かれます。
つまり、最初に出てきた商人らしき男は自由になった後のジーニーで、顔が隠されていたパートナーがダリアだったと考えられるのです。
アラジンとジャスミンの恋模様に引きを取らない、ジーニーの恋愛にも注目です。
アラジン“2つ目の願い”を実は使っていない説
“1つ目の願い”として、ジーニーに自らを「王子にしてくれ」と願ったアラジン。ところが、“2つ目の願い”をめぐっては見解が分かれています。
ジャスミンとの優雅なデートの後、ジャファーとその手下に捕らえられ、海の底に沈められてアラジンは意識を失います。その後、幸いにも手がランプに触れ、ジーニーが登場します。この描写はアニメーションと実写で共通しています。
しかしジーニーの魔法は「ご主人様から」願うことがなければ、願い事は叶えられません...。アラジンとジーニーは窮地に追い込まれます。
アニメーションでは、ジーニーが意識不明のアラジンの身体を揺らし、首が縦に動いたことをもって「YESだな」と認定。少々強引に、アラジン「自身」の“2つ目の願い”と受け止めてアラジンを救います。
一方の実写版では、「微妙なとこだけど」と“グレーゾーン”であるとしながらも、誓約書を「1日前の日付」にし、「私アラジンは、心身ともに健康な状態で第2の願いを使い、助けてもらうと宣言します」とアラジンに変わって「代理」で権利を行使します。
このシーンをめぐっては様々な解釈がありますが、実写版ではジーニーが代理で願った事とアラジンを想うジーニーの意思が含まれていると見れば、「アラジンは2つ目の願いは使っていない」という見方も成り立つかもしれません。
ジャスミンが“女性初の国王”になろうとする
アニメーションと実写版、最も大きな違いと言っても過言でなさそうなのが、ジャスミンの描かれ方です。
自立心と意志を強く持ち、しがらみから逃れ、やがては自由な人生を掴むことに憧れを抱くジャスミン。
“外の世界を見てみたい”という好奇心から宮殿を飛び出して市場に繰り出すというアニメで描かれていたシーンは実写にもありますが、異なるのは実写版のジャスミンは「自ら国王になることを強く望んでいる」という点です。
アニメ版では、ジャスミンの父であり年老いた国王が後継者を探すため、「今度の誕生日までに、お前は結婚するのだ。法律でそう決まっているのだ」とジャスミンに迫ります。
これにジャスミンは、「結婚するなら愛がないと」と跳ね返すのです。
結婚する相手は自らの意志で選びたいと主張したのは、当時のディズニープリンセスの描かれ方としては、“新しさ”を感じるものでした。それまでの作品では、「王子様の訪れを待っている」という受け身のプリンセスが多かったですから。
しかし一方でジャスミンは、“自らが選んだ結婚相手(の男性)が、次の国王になる”という運命や「国王になるのは男性」というアグラバーの慣習は受け入れてしまっていました。
ところが実写版では「(私が)国王になりたい」という思いを父に伝えます。
このジャスミンが自らの思いを堂々と言い放ったシーンには、実際の世界の女性の地位の向上や、アニメーションが実写化されるまでの約28年間で生じた時代の変化が反映されているように思えます。
アニメーションにはなかった、実写版のオリジナル楽曲『Speechless』の歌詞にも、現代を生きる女性や時代へのメッセージが込められています。
「私はもう黙っていないわ。何世紀も前に決められた、石に刻まれたようなルールや言葉、慣習があるけど、女の意見は不要、そんな時代も終わるのよ...」
実写版ではアニメーションとは違う、女性としての意志の強さを感じるジャスミンのセリフにも注目です。
何度見ても味わい深い、不朽の名作。紹介した見どころも参考にしてみてはいかがでしょうか。