新型コロナ、接触感染のリスクは低い?「清掃は通常1日1回で十分」米CDCのガイドラインが改訂

アメリカのCDC(疾病管理センター)が、新型コロナウイルスに関する一般向けガイドラインを「接触感染のリスクは『低い』」と改訂。一体どういうこと? その背景を解説します。
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「接触感染」という言葉を、なんとなく聞いたことがありますよね。新型コロナの感染拡大で、良く聞くようになった言葉です。

その「接触感染」について、4月5日、あるニュースがありました。アメリカCDC(疾病予防管理センター)の新型コロナウイルスに関する一般向けガイドラインが改訂され、次のような文章が加わったのです。

(新型コロナでは)「ほとんどの場合、物体の表面に触れることによる感染のリスクは低いです。」(和訳・太字筆者)

新型コロナの感染の2大経路と言えば、「飛まつ感染」と「接触感染」と言われています。飛まつ感染とは、感染した人のくしゃみなどで出る飛まつを吸い込むことによって感染がおきることを指します。

そして接触感染とは、ウイルスを含む飛まつが机やドアノブなどの表面につき、それに触れた手で、無意識のうちに鼻や口に触るなどして感染がおきることを指します。

新型コロナウイルスは、机やドアノブなどつるつるしたところの表面では、3日間ほど感染する能力を保てるという実験結果も出ていました。

接触感染は重要な感染経路と考えられ、手洗いや手指消毒、さらには不特定多数の人が触れる場所などでの消毒が推奨されるようになりました。

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飲食店などでは、お客さんが入れ替わるたびに、机や椅子まで消毒しているケースも目にします。お客さんの安全を守ろうと頑張っている店員さんのご努力に、心から敬服します。

それなのに、今回アメリカCDC(疾病管理センター)という世界的な権威を持つ組織が、新型コロナの場合、接触感染のリスクは「低い」としました。

一体どういうこと?筆者自身も意外に思いましたので、その背景を、ちょっとフカボリしてみます。

(なお結論を先にお伝えしておくと、手洗いや消毒は意味がない!というわけではありません。ぜひ最後まで読んでくださいね。)

 

接触感染のリスクは「10000分の1未満」研究で示された意外なデータ

先述した、アメリカCDCのガイドライン。その文中には、科学的な根拠をまとめたページのリンクがついていました。それを読むと実は最近、新型コロナでは、接触感染のリスクは比較的低いことを示唆する研究結果が複数、発表されていることが分かりました。

例えば、2020年12月に米タフツ大学が発表した研究です。

2020年の4月~6月、新型コロナが流行していた米マサチューセッツ州において、飲食店のドアノブや信号機のボタンなど、不特定多数の人の手が良く触れるところ(いわゆるハイタッチ・サーフェス)に接触することで、感染のリスクがどのくらいあるのかを調べようとしました。

「定量的微生物リスク評価(QMPA)」という複雑な手法を使った研究なのですが、方法を簡単にまとめると、下記のようになります。 

①実際に街中を観察し、色々な人が手を触れる場所を探す

②そこを綿棒でこすってサンプルをとる

③サンプルのなかに新型コロナウイルスがどのくらいいるかを調べる

④その場所を触ったとして、どのくらいのウイルスが手にうつるか、その後に手が鼻や口に触れたとして、どのくらいの量が体内に入り感染が成立するか?などをモデル化して危険度(リスク)を計算する

②で調べたサンプルの数は348か所。うち、わずかでもウイルスが見つかったのは29か所(8.3%)でした。

それをモデルに当てはめ、触ったことによる感染のリスクを調べると、10万分の6.5(中央値)と計算されました。

イメージしやすくするためにざっくり表現すれば「新型コロナ流行中に、不特定多数の人が手を触れる場所を10万回触ると、6.5回くらい感染するかも」ということです。なんだかずいぶん少なく感じますね。実際、この数値をほかのウイルスと比べると、例えばインフルエンザウイルスより低く、ノロウイルスと比べるとかなり低くなりました。

上記のタフツ大学のもの以外にも、新型コロナの接触感染のリスクを調べた研究はいくつか報告されていますが、おおむね同様の結果でした。そこで最近では、新型コロナウイルスにおいて接触感染のリスクは、以前想定されていたよりも小さいのではないか?と言われるようになってきています。

 

手洗いや消毒は、しなくていいの?←する必要はあります!

接触感染のリスクは小さいのだから、帰宅時の手洗いや店先での手指のアルコール消毒は、しないで良いの?と思ってしまいますが、そういうわけではありません。

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Mike Kemp/Getty Images

そもそも研究でも、飛まつ感染と比べると小さいとはいえ、接触感染によって感染が起きるリスクは確かめられています。それを防ぐために、手洗いやアルコールの手指消毒は有効です。CDCのガイドラインでも、手洗いや手指消毒は現在でも推奨されています。

一方で、冒頭に上げた飲食店の例のように、お客さんが入れ替わるごとに机や席を消毒する必要はあるのか?と聞かれると考え込んでしまいます。

例えば1人で切り盛りしているような飲食店などでは、「人が入れ替わるごとに消毒」にものすごく大きな負担を感じていたり、現実的にムリだったりするケースもあります。

それだけ苦労しても(そもそも接触感染のリスクが小さいので)苦労に見合うほどには感染リスクを減らせないかもしれません。

そのあたりを加味して、上記のCDCのガイドラインでは、「通常は1日1回の清掃で、表面にある可能性のあるウイルスを十分に除去し、健康的な施設を維持できます」としています。(※)。

※医療機関など感染者がいる可能性が高い場所では、より頻繁に清掃をおこなったほうが良いとしています。

 

最新の知見を活かし、対策を「アップデート」していく

現状の日本の飲食店業界のガイドライン(外食業の事業継続のためのガイドライン)では、原則的に「お客様が入れ替わる都度、テーブル・カウンターを消毒する」という慎重な態度が推奨されています。これはもちろんデータが少ない時点で作成・改訂されたものですので、より慎重な対応を求めていることは理解できます。

頻繁に清掃したほうがわずかでもリスクは減りますし、客側の目線からしても、せっせと消毒をしてくれているのを目にすることで、安心につながるかもしれません。

とはいえ人手などの問題で、そのような対策が現実的にムリだったりする場所が、「ガイドラインに反している!」とか「十分な対策をとっていない!」と言われて非難されたり、お客さんが減ったりしたらザンネンですよね。

むしろ最近のデータでは「毎回の消毒はしていなくても、入店時にアルコール消毒するなどしてきちんと手洗いや手指消毒を心がけていれば十分対策はとれる」ということが分かりつつあります。

それが理解されていれば、(良かれと思って)お店側を「けしからん!」と非難したりするお客さんが現れる事態は防げそうです。

去年、感染拡大が始まったころ、新型コロナウイルスはまさに「未知の存在」で、対策に関してもできるだけ慎重な対応が求められました。しかし1年が経過し、ウイルスの特性や、気を付けるべきポイントがどんどんと明らかになりつつあります。

そうした最新の知見を積極的に取り入れることで、ポイントを抑えた対策が可能になりつつあります。先述した日本の外食業のガイドラインも、知見をもとにアップデートされていくことになるかもしれません。

いま東京・大阪を始め陽性判明者が再び増加し、「まん延防止措置」の適用も広がりつつあります。何処まで行っても出口が見えないような、「どこまでガマンしなきゃいけないんだよ!」という気持ちにさせられてしまいそうになります。

そんな中、米国CDCのガイドラインの変更は、「人類は一歩ずつでもウイルスへの理解を深め、前に進みつつある」ということを感じさせるニュースと感じました。

(参考文献)

アメリカCDCホームページ COVID-19 

Cleaning and Disinfecting Your Facility Every Day and When Someone is Sick

Science Brief: SARS-CoV-2 and Surface (Fomite) Transmission for Indoor Community Environments

A. P. Harvey, E. R. Fuhrmeister, M. E. Cantrell, A. K. Pitol, S. J. M, J. E. Powers, M. L. Nadimpalli, T. R. Julian and A. J. Pickering, “Longitudinal monitoring of SARS-CoV-2 RNA on high-touch surfaces in a community setting,” Environmental Science & Technology Letters, pp. 168-175, 2020.

新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(改正)に基づく外食業の事業継続のためのガイドライン

一般社団法人 日本フードサービス協会  一般社団法人 全国生活衛生同業組合中央会

2021年04月11日の市川衛さんのYahoo!ニュース個人掲載記事「新型コロナ、接触感染のリスクは低い?『清掃は、通常1日1回で十分』米CDCのガイドラインが改訂」より転載