大手広告代理店の電通は2021年4月8日、LGBTQなど性的マイノリティに関する調査「LGBTQ+調査2020」を発表した。
調査はインターネットで全国6万人を対象に実施。2012年、2015年、2018年にも同様のアンケート調査を実施しており、今回初めて「異性愛者、かつシスジェンダー」に該当するマジョリティ層のLGBTQに対する知識と意識を分析。
LGBTQを知ってはいるものの自分事化できていない「知識ある他人事層」が34.1%と最も多く、課題意識が強く積極的に支援をする「アクティブサポーター層」が29.4%と次に多い結果になった。
同性婚の法制化については82.2%が「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答し、賛同層が前回から3.8ポイント上昇。LGBTが性的マイノリティの総称のひとつであることを知っているか尋ねた質問では、80.1%が「そう思う」「ややそう思う」と回答し、認知度が11.6ポイント上昇した。
LGBTQの認知の拡大について、電通ダイバーシティ・ラボ・リサーチャーの吉本妙子さんは「もはや常識といえる言葉」とコメントした。
「アクティブサポーター」層は女性が圧倒的
マジョリティ層の分析では、回答者の課題意識、配慮意識、生理的嫌悪、社会影響懸念、知識を元に6つのクラスターに分類。
最も多かった「知識ある他人事層」では男性比率(61.2%)、正社員管理職の率(16.8%)、首都圏在住率(36.3%)がいずれもマジョリティ層全体と比べてやや高かった。また、新しい人間関係を積極的に増やしたいと思わないといった特徴があった。
次に多かった「アクティブサポーター層」では女性比率(69.1%)がマジョリティ層全体と比べて圧倒的に多く、若年層やアルバイト・パート率が比較的多かった。
積極的な批判はしないが関わりを避ける「敬遠回避層」や生理的嫌悪や社会への影響懸念が高い「批判アンチ層」は全体の5.4%と5.7%だった。
マイノリティの問題はマジョリティの問題と地続き
成蹊大学・和光大学非常勤講師で社会学・社会調査が専門の石田仁さんは「知識ある他人事層」についてこう分析する。
「新しい人間関係を積極的に増やしたいと思わないのは、同じような人の集団の中で同じやりとりをしていて、違った人や視点と出会う機会が少ないからではと思われます」
「付き合いは同じ正社員男性、就業時間も長いというライフスタイルかもしれません」
また、今回電通が実施したマジョリティ層の分析はLGBTQに関する調査において重要な視点だと石田さんはいう。
「マイノリティの問題はつねにマジョリティの問題と関連しています。マジョリティ層のどのような人がLGBTQの問題を自分と地続きであると考えて、どういう層の人たちがそうではなく他人事だと考えているかが明らかになっています」
「インターネットでは言説が二極化されているように見えることが多いですが、実際はどちらでもない層が多くいます。これは調査の持つ強みです」
「マジョリティ層も一枚岩ではないという、素朴だけれども重要な事実を、私たちは再確認する機会を得ました」
電通のLGBTQに関する調査はこれまでに「11人に1人はLGBT当事者」「左利きの人と同じ割合」といった結果が、メディアをはじめとした多くの場で引用されている。
しかしこうした調査結果には一定のリテラシーが求められると石田さんは解説する。
インターネット調査は他の手法と比べて多くの回答者を得られるメリットがある一方、結果を全体の代表として一般化するのが難しい面がある。また、電通は調査の設問を公開しておらず、不透明な部分もある。
石田さんは「人権の問題というのは数の問題だけではない」と指摘する。
「数の多さでLGBTQへの『理解』を押し進めてしまうと、今後の調査でLGBTQ人口比が大きく下がった時に、数を理由に理解していた人たちが離れていく。言い換えれば当事者は『はしご』を外される可能性があります」
「数が多いから理解しましょう、数が多いから保障に値する、というそうした誤解は、これまで『数推し』の調査結果を出してきた人々が解いていく責務でもあるでしょう」
<事前スクリーニング調査概要>
調査対象:20~59歳の個人60,000名
調査対象エリア:全国
調査時期:2020年12月17日(木)~18 日(金)
調査方法:インターネット調査<電通LGBTQ+調査2020概要>
調査対象:20~59歳の個人6,240名(LGBTQ層該当者555人/異性愛者・シスジェンダー層該当者5,685人)
調査対象エリア:全国
調査時期:2020年12月17日(木)~18日(金)
調査方法:インターネット調査