日本の同性婚の実現は、なぜ企業と関係がある?140社以上が賛同している理由とは

3月17日、日本で初めて同性婚をめぐる司法判断がくだされる。
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時事通信

3月17日、日本で初めて同性婚をめぐる訴訟の司法判断が札幌地裁でくだされる。 

2019年2月に全国の同性カップルが、同性間で結婚ができないのは違憲だとして国を相手に一斉提訴した訴訟で、東京・大阪・名古屋・札幌・福岡の5地裁で続いている。

同性カップルの結婚が法制化されておらず、家族として法的に認められていない日本。そんな中、日本の企業も婚姻の平等の実現を求めている理由がある。

これまでに140社以上が同性婚の法制化に賛同

2018年9月、日本で活動するアメリカ企業が加盟している在日米国商工会議所(ACCJ)が婚姻の平等に関する提言を発表。

日本政府に対して「(婚姻の平等によって)日本企業のすべてに具体的な恩恵がもたらされ、日本の経済競争力全体にも恩恵をもたらすことになる」として、同性カップルに婚姻の権利を認めるよう求めた

この提言をオーストラリア・ニュージーランド、イギリス、カナダ、アイルランドの在日商工会議所が支持。2019年2月、日本組織内弁護士協会(JILA)やWomen In Law Japanを含む弁護士団体らも賛同を表明した。

ACCJの提言は2018年当時、日本でほとんど話題にならなかったという。

JILAの榊原美紀理事長は会見で、「日本の団体がまったくこの提言に反応していなかったのが不思議だった」とした上で、「反対する人は、いつまでも反対すると思う。でも、理解してくれる人の輪が広がれば、実現は可能だと信じている。私たちに、日本国内の企業や経済界が続いて欲しい。ドミノ効果を願っている」と述べた

2020年11月には同性婚の法制化に賛同する企業を可視化するキャンペーン「Business for Marriage Equality」に46社の企業が賛同を表明。キャンペーンは同性婚訴訟を支援する団体「Marriage For All Japan ー結婚の自由をすべての人に」を含むLGBTQ支援・当事者団体らが発足した

会見では賛同企業の役員が登壇し、パナソニック執行役員・CHROの三島茂樹さんは次にように語った。

「社員にもお客様にも当事者がいる。当事者が自分らしく働けて、最大限のパフォーマンスを発揮できるように環境整備をすることは企業として基本的な役割」

「弊社のような会社がこのような活動に参画することで、おそらく間接的ではあると思うのですが、法整備が進むということに寄与できるのではないかなと思っています」

Business for Marriage Equalityによると、2021年3月現在、2018年のACCJの提言の賛同者を含めると、147の企業や団体が同性婚の法制化に賛同を表明している。

人々が幸せでなければ、ビジネスも持続しない

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柳沢正和さん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

同性婚の法制化に、なぜ企業が賛同しているのだろうか?

ACCJが2018年に発表した提言に賛同しているゴールドマン・サックス証券株式会社でプライム・サービス部長を務める柳沢正和さんは、「人々が幸せで自分らしく生きられなければ、ビジネスもサスティナブル(持続可能)ではないと思います」と話す。

同性婚の法制化は、企業にとって人材確保と維持とも繋がっていると柳沢さんはいう。

アメリカに本社を置くゴールドマン・サックス社では、海外からの転勤は珍しくない。社員がアメリカで同性婚をして、パートナーを配偶者として日本に連れてきた場合、日本の政府は配偶者ビザを出すことができない。

また、日本人がアメリカで同性婚をした場合、日本国籍を持たないパートナーを配偶者として連れてくることができない。こうして同性婚が法制化されていないために、日本を選ばない、あるいは帰ってこられない事態になりうる。

柳沢さんは同性婚訴訟を支援している団体「Marriage For All Japan ー結婚の自由をすべての人に」の理事や人権NGO「ヒューマンライツ・ウォッチ」の国際理事でもある。

かつての勤務先で同性パートナーと借上社宅に入居しようとしたところ、法的な家族でないため会社からパートナーの入居を拒否される体験をした。その後人事部とかけ合い、会社の制度を変えることができた。

ゴールドマン・サックス社では、社員の同性パートナーに健康保険の保険料補助や結婚休暇を支給するといった独自の福利厚生制度があるが、その一方で、国としての制度がないがために環境整備できない部分もある。施策の設計や運営にかかるコストも、ゴールドマン・サックスがかけられたとしても他の企業にも可能とは限らない。

「従業員がそういったことを心配せずに働けるようになるのは重要です。結婚というのは社会保障のパッケージなので、それを受け取れないがために自分らしく働くことができない人がいるとすると、企業にとっては損失だという考え方がもともとあると思います」

その一方でこの10年で、社会の変化も感じている柳沢さん。企業だからこそ変化を後押しできることもあると考えている。

また、海外ではESG(環境=Environment、社会=Social、企業統治=Governance)が進んでいて、ダイバーシティへの取り組みが必要不可欠になっているという。

札幌での判決によって、企業は取り組みやスタンスを内外から問われるきっかけになると柳沢さんは強調する。

「(日本で)初めての判決ということもあるので、大きく報道されるのではないかと思います。それによって、人々は『自分の会社は平等な整備をしているのか』といった問いを突きつけられる」

「消費者視点からしても要求が出てくると思います。今まで諦めていたことを諦めなくていい、というメッセージを裁判は送っていると思いますので、声を上げはじめる当事者にどう対応していくかということを企業はやはり問われていると思います」