なぜ無関心でいられるのか? ミャンマーからの留学生が訴える、民主主義を奪われるということ

抗議行動の日数が長引けば長引くほど、彼らはより残酷な弾圧をするだろうと思います。これ以上、貴重な命を失いたくありません。ミャンマー人留学生の訴えです。
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ミャンマーの軍事クーデターや弾圧に対し、キャンドルを持って抗議する人々=2021年3月12日
ロイター

ミャンマーで軍部がクーデターを起こし、選挙で国民に選ばれた政党NLDの代表であるアウンサンスーチー氏らを拘束してから1ヶ月半が経とうとしています。 

この間、抗議デモへの弾圧などにより、多数の若者が殺害されていることを知っている日本人は多いでしょう。

しかし、民主主義が奪われるということを「自分の事として」考えている人はどのくらいいるでしょうか。

日本は基本的に第二次世界大戦後ずっと平和で民主的な状態が続いている国です。

もちろん、今のコロナ禍が平和なのか?とか、今の政治体制が民主的なのか?といった議論はありますが、政府の役人に銃を向けられたり、選挙の結果が覆されるようなことはありません。 

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ミャンマーの軍事クーデターや催涙ガスを使った弾圧に対し、抗議するデモ隊=2021年3月13日
EPA=時事

私にはミャンマー人の友人、Nさん(仮名)がいます。大学院の留学生で、1980年代生まれの女性です。彼女はミャンマーの首都ヤンゴンで生まれ、ミャンマー政府の職員として働いていましたが、アジアの中で最も先進的で近代化されている日本で勉強したいと思い日本に留学したそうです。帰国後は若い世代のための私立学校をつくり、教育によって国の発展に貢献したいと思っています。

彼女はよく、「日本人はなぜ選挙に行かないのか?選挙は民主主義のためにとても重要ではないのか?」と私に質問し、議論していました。 

しかし、平和で民主的な日本の社会しか知らない私は、彼女の民主主義への思いを心から理解することはできていませんでした。

そこで今回クーデターをきっかけに、彼女の気持ちをきちんと理解したいと思い、連絡を取りました。 

(※彼女は日本語が得意でなく、また私は英語が得意でないため、「LINE英語通訳」「DeepL」を使いながら文面でやりとりを行いました)

 

軍関係者と一般人で異なる教育や収入への不満。それでも政治を語る勇気は持てなかった

ーーNさんが育った環境を教えてください。

私はエリート階級ではなく、普通の階級で育ちました。エリートとは,特に軍隊の出身者やその人々と関係のある人のことです。エリートである彼らは裕福で、彼らの子供たちは外国の質の高い教育を受けることができるのです。

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抗議のシンボルである3本の指を掲げて軍事クーデターや弾圧に抗議する人々=2021年3月13日、ヤンゴン
EPA=時事

私は、両親のおかげで安心して教育を受けることができましたが、それでも他国と比べれば十分ではありません。

一般人のほとんどは質の高い教育を受けることができず、教育、ビジネス、健康、食品、仕事など、あらゆる状況で不公平に直面していました。エリートや軍関係者は あらゆる状況で 最高のものを手に入れることができますが、普通の人々は手に入れることができませんでした。

しかし、私たちの環境では政治について話す人はほとんどいませんでした。誰も政治について話す勇気はありませんでした。

私が政治に興味を持つようになったのは、2007年に起きたサフラン革命(主に僧侶たちによる軍事政権への大規模な抗議デモ)がきっかけです。

当時、私は大学の期末試験中で、革命の本当の情報を知るために、BBCやVOA(ボイス・オブ・アメリカ)のようなラジオを音量を小さくして聞いたのですが、もし誰かが警察に報告していたら私たちは逮捕されたかもしれません。

それ以来、私は政治に興味を持つようになりました。しかし当時は 軍の統制下にあったため何もできませんでした。

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軍政当局が実力行使に踏み切ったにもかかわらず、その翌日にデモ行進に参加しようとミャンマー・ヤンゴン中心部に集まった仏僧と市民たち=2007年08月27日
時事通信社

自由への扉が開いた2015年。ところが…

ーーミャンマーでは2008年、軍事政権下で現行憲法が国民投票によって可決されました。国会議席の25%を軍人議員に割り当てたり、外国籍の親族がいる人の大統領就任を認めていなかったりと、議論はあるものの、民主化の扉を開いたとされています。

私が初めて投票したのは2015年の総選挙でした。私は投票で、自分たちの好きなように政府を選ぶことができるようになったのです。

「この選挙で、アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝し、NLDが政権を握って、私たちは本当の自由を感じ始めることができました。逮捕されることを恐れないでやりたいことを自由にやるのです。

私は日本に来て初めて、自分がいた社会や政治の不条理に気づくことができました。

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ヤンゴン郊外で行われたミャンマーの国民民主連盟(NLD)の選挙集会で演説するアウン・サン・スー・チー党首=2015年11月01日
EPA=時事

軍は国民を支配しやすくするため、わざと国民に質の高い教育を受けさせません。日本では皆さんは生まれた時から人権を持っていますが、私の国では、本当の自由や人権を手に入れるための道半ばにあります。

健康についても同じです。私たちは貧しい医療制度しかありません。そして、食べ物です。日本では、健康で衛生的な食べ物はどこにでもありますが、私たちの国ではそうではありません。

あらゆる分野における不公平なシステムが、NLD政府の統治下で、「最悪」から「良い」ものへと変化しています。2015年から2020年にかけて、私たちは、私たちの政府であるNLDのおかげで、未来のために良いスタートを切ることができたのです。

 

ーーあなたは2020年11月に行われたミャンマーの総選挙でも、新幹線で東京まで行き、投票に参加しましたね。

投票した党が選挙に勝ったと知ったときの私の幸せは、言葉では言い表せません。その時は多くの人がとても幸せでした。

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ミャンマー総選挙で、与党・国民民主連盟(NLD)を率いるアウン・サン・スー・チー氏のポスターを掲げる支持者たち=2020年11月9日、ミャンマー・ヤンゴン
AFP=時事

ーー今回のクーデターを知って、どのように思いましたか?

とても腹が立つと同時に、とても悲しくなりました。

もし再び完全に軍の支配下に置かれるようになれば、私たちの世代の未来はなくなってしまいます。私たちは、彼らのことをよく知っています。彼らは自分たちの利益のためだけに動き、国民のことを考えていません。悪魔のように残酷で、非常に利己的なのです。

抗議行動の日数が長引けば長引くほど、彼らはより残酷な弾圧をするだろうと思います。できるだけ早く民主主義を取り戻したいのです。

 

ミャンマーに抗議する3つの方法

ただ、これまでと違い、現代の私たちはデモ活動や軍の残忍な行為を記録し、SNSで世界に公表することができるようになりました。

現時点で、軍事クーデターや弾圧に抗議する方法は3つあります。

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ミャンマー国軍によるクーデターで拘束されたアウン・サン・スー・チー国家顧問やウィン・ミン大統領ら政権幹部の釈放を求める抗議デモ=2021年2月1日、東京都渋谷区
時事通信社

1、ミャンマー時間の午後8時に鉄の箱または鍋を打つ。

2、街頭デモに参加

3、ミャンマーで何が起きているのか、他の国に知らせるために、現地の状況をソーシャルメディアで公開する。街頭のデモ隊や軍、警察の動きについて情報を提供するとともに、Facebookなどを活用したデモを行う。

私はこの3番に参加しており、私の家族や友人は1番と3番に参加しています。自らの命をかえりみず2番に参加している人もいます。

「これ以上、私たち世代の貴重な命を失いたくない」

ーー日本に伝えたいことはありますか?

私の知る限り、この完全に民主主義の国・日本で、積極的に政治に参加している人は少ないです。日本のみなさんには、自分たちが持っている民主主義を大切にすべきだと断固として言いたいです。

私たちミャンマー人は、非常に長い間民主主義を得るために戦ってきました。メディアの報道によると、民主主義のために、自分の命を犠牲にして戦った若者たちがいます。私は、これ以上誰にも危害を加えて欲しくないし、私たちの世代の貴重な命を失いたくない。

私が一番伝えたいことは、これを特定の国、ミャンマーの内政問題だと思わないでほしいということです。

なぜなら、民主主義を実現できているASEANの国はほとんどないからです。ミャンマーでこのようなクーデターを許せば、他のアジアの民主化の途上にある国でのクーデターも許すことになります。このようなクーデターを可能な限り排除するために、ぜひ協力してほしいです。

<取材、文・別木萌果 @littlecyclamen 編集・中村かさね @Vie0530 >