【記者の眼】「黒染め強要」訴訟、判決から見える3つの問題点

子どものためだと言いつつ、黒染めを強要するなど本人の意思や人権を無視しています。それでは大人が子どものためだと考えても、子どもを傷つける行為にしかなりません。
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Xavier Arnau/Getty Images

いわゆる「黒染め強要訴訟」の判決が出ました(下記参照)。

大阪地裁は原告の主張を一部認めるも、「黒染めの強要はあったとは言えない」と頭髪指導の妥当性を認めました。

判決には問題点が、3点あると考えています。

1点目は「厳しい校則はいじめを誘発する」という点です。子どもに取材をすると「登校中の水分補給は夏でも冬でも禁止」(中2男子)、「下校時刻が早いときには、4時まで家の外に出てはいけない」(中1女子)などの理不尽な校則をよく聞きます。「『ブラック校則をなくそう!』プロジェクト 」(以下・ブラック校則調査)が10代から50代までの男女4000人に調査したところ、校則が厳しい学校のほうがいじめが起きやすいという結果も出ていました。判決が、行きすぎた校則指導を助長し、いじめも誘発してしまうと懸念しています。

2点目は「子どもに疎外感を与える」という点。「日本人なら地毛が黒」というのは誤解です。

ブラック校則調査によれば、12人に1人の地毛は茶色です。染髪禁止・茶髪禁止という校則はマイノリティに不要な疎外感を与えます。教育の場こそ多様性を認める場になってほしいと思っています。

 

大人のよかれが

3点目がもっとも大きな問題です。それは「子どもの意思を無視している」という点です。

裁判所が頭髪指導を妥当と判断したのは、指導が「非行防止」につながると判断したからです。非行防止とはつまり「子どものためを思っての判断だ」ということです。しかし、子どものためだと言いつつ、黒染めを強要するなど本人の意思や人権を無視しています。それでは大人が子どものためだと考えても、子どもを傷つける行為にしかなりません。

私が取材したなかには校則がイヤで不登校になった男性(20歳)もいました。

彼が通っていた兵庫県の公立中学校では、茶髪はもちろん、目や耳、襟に頭髪が1ミリでもかかると校則違反でした。校則を破った場合、生徒は「校則をやぶってしまい、風紀を乱してしまってすみませんでした。明日から直してきます」と全校集会で謝罪させられるのが恒例だったそうです。彼もまた全校生徒の前で謝罪させられたこともありました。謝罪の場では、先生から怒鳴られ、周囲からは笑われ「まるで公開処刑だった」と語っていました。

子どもに校則を守らせ、非行を防止したいという願いは、子どもの未来を思ってのことだと思います。

しかし、子ども自身の意思や尊厳を考慮しない「大人のよかれ」を押しつけるのは暴力です。彼の学校で起きていたことは、もはや教育ではありません。こうした指導があるなかでの判決でした。子どもの意思を無視した校則指導を助長してしまうのではと危惧しています。(編集長・石井志昂)

「黒染め強要訴訟」とは

生まれつき茶色の髪を黒く染めるよう学校から強要されて不登校になったとして、大阪府の府立高校に通っていた女子生徒が大阪府を相手取り2017年に訴訟を起こした裁判。生徒の母親は茶髪が地毛であることを学校に伝えていたが、学校側は「その髪色では登校させられない」として髪を染めることを生徒に強要。これらの頭髪指導が理由で生徒は不登校になった。不登校になったあと、学校側は生徒の席を教室に置かない、名簿に生徒の名前を載せないなどの措置をとった。これらの対応に対して、生徒側は「指導の名の下に行なわれたいじめだ」と主張。2021年2月16日、大阪地裁の横田典子裁判長は、不登校後の対応は違法と認定し大阪府に賠償命令の判決を下すも、頭髪指導は「教育的指導の範囲内」と原告生徒の訴えを一部棄却した。

(2021年03月01日の不登校新聞掲載記事『【記者の眼】「黒染め強要」訴訟、判決から見える3つの問題点』より転載)