「10年」と聞くと、皆さんにとっては、短く感じるでしょうか?長いでしょうか?
2011年3月11日に東北で起きた東日本大震災から今日で10年になります。
つい先日、2021年2月13日の夜にも、東北で震度6強の地震が起きました。大きな揺れがあった地域の方々が「あの日を思い出して怖かった」と話すのを聞いて、被災経験者にとっての「10年」は、とても短いとは言えず、ひとつひとつ積み上げてきた年月ということを感じました。
フローレンスも、震災直後から東北の支援を行ってきました。
2011年には、被災によって経済的に厳しい環境下におかれた中高生の自主学習の包括的なサポートを行う「希望のゼミ」をスタート。将来の夢や進学をあきらめずにすむよう生徒たちを支えました。
また、放射能に不安を感じていた福島の親子が安心して遊べる屋内広場「ふくしまインドアパーク」をオープンし、その後、行政が屋内広場の開設に至るきっかけへとつなげました。
2015年には、待機児童が多かった仙台で、小規模保育園「おうち保育園こうとう台」を開園。避難してきた家族や復興関連の仕事で仙台へ移り住んだ家族が多い中、その保育の受け皿となりました。今では仙台市内で3園を運営しています。
年々被災地の状況も変わる中、フローレンスでは、「被災地支援」から「東北発のイノベーションを生み出す」活動へと変化をしていきました。今回は、2020年から今日までに行った新しい取り組みをご紹介します。
コロナ禍で生まれた「仙台子ども宅食」
2019年から仙台のおうち保育園でスタートした「ほいくえん子ども食堂」。
園児やその家族、そして地域の方々が利用できて、大人は300円、子どもは無料で保育園の栄養士が考えた栄養満点のメニューとなっています。
「孤独な子育て」や「家事負担」といった悩みを始め、様々な課題を抱えた子育て家庭が社会から孤立してしまわないよう、地域と繋がりを持てる場を提供したいと始めたこの取り組み。来てくださった親御さんからも、リラックスした時間を持てたと好評をいただいていた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大が始まったのです。
保育園としては、感染防止にも努めなければいけないため、やむなく子ども食堂はお休みに。でも、外出が難しくなればなるほど、親子が孤立する状況になってしまうのではないかと危機感を覚えていました。
そこで始めたのが、「仙台子ども宅食」です。
フローレンスでは、2017年から、経済的に困難な家庭に食品を配送し、繋がりを築いてセーフティーネットとなる「こども宅食」を実施していたため、そのノウハウを活用しました。
2020年5月、第一回目の配送を実施。初日は仙台市内の母子支援施設を通じ施設利用中の18世帯に届け、2日目は近隣の子育て家庭で利用希望のあった15世帯を個別にまわり、お米や缶詰、お菓子などの食品セットを届けました。
ただ食品を届けるだけではなく、少しでも親御さんの負担を軽減できるよう、届けた食材で作れる、保育園の栄養士考案の“簡単レシピ”も同封。玄関先で、そのレシピを紹介することで親御さんとお話するきっかけも生まれました。
現在は、テイクアウト形式にして子ども食堂を定期的に開催しています。状況に応じて支援の方法を柔軟に変えていくことができたのは、この10年間被災地支援に携わり、復興フェーズに合わせて支援方法を変える経験を積んだからこそだと感じています。
仙台市長へ 不足している福祉サービス導入を陳情
東北地方最大都市である仙台市。この10年間支援をしながら感じていたのは、様々な事情を抱える親子を支える福祉サービスは、いまだに不足しているということでした。
2020年11月、仙台市の郡和子市長へ面会の機会をいただき、代表理事の駒崎弘樹より「居宅訪問型保育の実施」「こども宅食実施団体への支援継続」「地域連携推進員(=保育ソーシャルワーカー)の設置」を陳情しました。
居宅訪問型保育事業とは、保育を必要とする乳幼児の自宅において保育を提供する事業です。フローレンスでは、2015年より、この制度を活用した「障害児訪問保育アニー」を東京都で展開し、ご自宅で障害児を預かり、保護者は就労の機会を得ることができています。
居宅訪問型保育事業は公的給付の対象となっていますが、仙台市では未だ導入されていません。現在、仙台市の医療的ケア児は約175名(※)と推計されますが、そのほとんどが自宅で保護者が終日ケアをしている状況にあると考えられます。
保護者が休息を取ることができたり、親子が孤立しないためにも、多様な保育の受け皿の整備が急がれます。
※109万(仙台市人口)× 1.604(1万人あたり医療的ケア児数)
また、2017年より仙台と東京で力を入れてきた「保育ソーシャルワーク」の取り組みもますます重要になっています。
ソーシャルワークとは、困りごとを抱えている人がより良く過ごせるよう、生活上の課題について共に考え、サポートを行うことです。
核家族が増え、子育てにおいて一人で悩みを抱える親御さんが増える中、保育ソーシャルワークでは、乳幼児がいる家庭と早期に接点を持つことができる「保育園」がソーシャルワークの窓口になることで、課題を抱える家族にいち早くアプローチすることを目指しています。
「保育ソーシャルワーカー(地域連携推進員)」は、フローレンスの各園を巡回したり、仙台保育ソーシャルワーク情報交換会を開催したりするなど、普及に向けた活動を続けてきました。しかし、地域連携推進員に関する制度の導入については各自治体に委ねられており、仙台市ではこの制度が導入されていないのが現状です。
より個別で丁寧な親子の支援ができるよう、郡和子市長へ3つの提言をまとめた要望書を提出しました。
・居宅訪問型保育事業を導入し、障害児が保育を受けられるようにしてください
・「支援対象児童等見守り強化事業」を導入し、こども宅食を次年度以降も支援してください
・「保育所等における要支援児童等対応推進事業」を導入し、保育所等で相談支援を行う地域連携推進員を設置してください。
フローレンスでは、こうした東北・仙台で新しい支援活動に挑戦することによって、東京だけでなく全国の福祉サービスがさらなる発展を遂げるよう、今後も活動を強化して参ります。
2031年 復興のその先を切り開く力を、子どもたちに
こうした東北での活動を支えてくださっているのが「ハタチ基金」への皆さんからのご寄付です。
ハタチ基金は、「震災があった2011年に0歳だった赤ちゃんが、無事ハタチになるまでの20年間、支援を続ける」というコンセプトの下、2011年に被災地の子どもたちを支えるため設立。フローレンスを始めとする助成先団体は、育児支援や学習支援など、子どもに関わる支援を継続して行っています。
東北の子どもたちが、震災の悲しみを強さに変え、社会を支え自立していけるように。
ハタチ基金の活動期間は残り10年間。子どもたちが地域・社会の担い手となっていけるよう、皆さんのご支援もよろしくお願いします。
ハタチ基金 10周年 特設サイトはこちら
(2021年3月11日の駒崎弘樹公式ブログ「被災地支援から始まった仙台の活動 復興フェーズに合わせて変化した支援のかたち【東日本大震災から10年】」より転載)