夫婦別姓に反対する丸川珠代大臣に相次ぐ疑問。「矛盾で息苦しくならないのか」市民団体が指摘

「圧力によって、私たちの声を断つような意味合いを持つ文書を送っていた。はっきり言って卑劣だなと思います」。選択的夫婦別姓をめぐり、波紋が広がっています。
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丸川珠代氏
Photo by Du Xiaoyi - Pool/Getty Images

男女共同参画大臣に就任した丸川珠代氏が、選択的夫婦別姓制度に反対する自民党議員有志の文書に署名していたことが、波紋を広げている。

しかし、丸川氏自身が現在も旧姓を使用して活動しており、矛盾を指摘する声も相次いでいる。

制度導入を訴える市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長の井田奈穂さんは、「ジェンダー平等を一番進めるべき立場の人が、家父長制のシステムを維持しようとしていることが残念で仕方がない」と憤る。

一方で、文書に署名した議員は男性が大半を占めていたことに触れ、「名前を連ねた男性議員が私たちの前で反対理由を述べたことがあったでしょうか」とも疑問を呈した。

 

何が起きているのか

発端となったのは、自民党国会議員の有志50人が埼玉県議会議長の田村琢実氏に1月30日付けで送った文書だ

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田村県議に送られた文書
HuffPost Japan

田村氏は選択的夫婦別姓制度の導入に賛同し、制度の実現を国に求める意見書を県議会で採択するべく、2020年末に自民党会派内で調整を進めていた。しかし、一部の議員から強い反発があったため断念したという。

その後、この文書が送られてきた。

選択的夫婦別姓は「家族単位の社会制度の崩壊を招く可能性がある」などと綴られており、意見書を議会で採択しないよう求める内容だった。

文書を送ることは、国会議員が地方自治体の意思決定に介入する「圧力行為」とも受け取られかねない。田村氏はハフポスト日本版の取材に対し、「地方議会についてどう思っているのか、認識を疑いたくなる」と断じた。

文書は自民党の有志50人の議員が名を連ねており、その中に、男女共同参画担当相に就任した丸川珠代氏の名前があった。

文書は大臣就任前に送られており、丸川氏は3月3日の国会答弁で「大臣として反対したわけではない。反対かどうかの答弁はできません」などと明言を避けた。

しかし、文書を送った理由については「家族の根幹にかかわる議論なのだなという認識を持ったから」とし、制度反対派が積極的な「通称使用の拡大」を進める姿勢を見せた。

 

ジェンダー平等を進めるべき男女共同参画大臣が、夫婦別姓に反対

夫婦が同姓にするか別姓にするか、自由に選べる「選択的夫婦別姓制度」。

日本は法律で同姓にすることを求めており、結婚する女性の9割が夫の姓に改姓している。

改姓手続きの不都合や不利益、旧姓の通称使用に伴う混乱を多くの女性が被っており、国連は日本に対し、夫婦同姓を求める規定を「差別的」だとして何度も廃止を求める勧告を出している

「日本でジェンダー平等や女性のエンパワーメントを先陣に立って進めるべき人が、家父長制のシステムに基づいた法律を維持したいと言っている。そのことが残念で仕方がない」と、「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長の井田さんは語る。 

 

丸川氏自身が旧姓を通称使用。「矛盾で息苦しくならないのか」

丸川氏は戸籍上の「大塚」姓を使わず、旧姓を通称使用している。

3月3日の国会質疑では、社民党の福島瑞穂党首が「丸川は旧姓ですよね、家族の一体感がないんですか?」と矛盾を指摘する場面もあった。

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国会/答弁する丸川五輪・男女共同参画担当相
時事通信社

井田さんは、2020年2月、葛飾区議の区政報告会で丸川氏と面会し、言葉を交わしたという。

その時丸川氏は、「2つの名前を使えるのは便利だと思っていますが、公文書に皆さんが投票してくださった『丸川』姓で署名ができないことはおかしいと思う」と話していたという。3日の答弁でも、通称使用ができるまで閣議決定の署名で「丸川」とサインできなかったことの不便さについて述べていた。

井田さんは、「丸川さんが話していたことは、まさに私たちが直面している困りごとです。矛盾で息苦しくならないのかな、と思います」と話す。

丸川氏など反対派は、不便を解消する手立てとして、制度導入ではなく「通称使用の拡大」を謳う。

しかし、井田さんや専門家は、「苗字を複数持つことは個人の特定という識別機能を侵害することになり、近代的な国では認められていない」と公式サイトで指摘する。

「夫婦同姓を義務付ける国は世界でも日本以外に見当たらず、2つの名前を混在させて『通称使用』させる必要性は海外で全く理解されません。法治国家において、戸籍に載っていない法的根拠のない苗字を混在させるというのは途轍もなくおかしいことです」

 

制度を求める声を聞こうとせず、水面下で圧力をかけようとする卑劣な行為

井田さんは、制度に反対する議員と意見交換する場を何度も申し入れている。しかし、面会が叶ったことはないという。

「これはイデオロギーではなく、生活上の困り事です。声を伝えられるよう、正規のルートで何度も申し入れをしています。勉強会に呼んでくださいと(反対派の)高市早苗さんに直談判したこともありましたが、それでも呼んでいただけませんでした」

その一方で、反対派の議員は、水面下で地方議員に圧力ともとれる文書を送っていた。

「圧力によって、私たちの声を断つような意味合いを持つ文書を送っていたことに、はっきり言って卑劣だなと思いました」と井田さんは憤る。

「地方議会の意見書は、地方自治法第99条に則って、国会に対して意見書を提出することができるというもの。私たち一般市民にとって声を届けるための正当な手段でもあります。

『個人の信条』として反対論で封じたいのであれば、彼らも正々堂々と地方議会に対して陳情や請願などの正規のルートで意見書を可決させて国会に届けるべきです。正当な手段ではなく、水面下で圧力をかけようとした人の中に、男女共同参画大臣になった方がいるということが本当に残念です」

 

反対する議員、50人中43人が男性

制度をめぐっては、与党である自民党内で賛成派と反対派が対立し、導入が進まないというのが現状だ。

文書を受け取った田村氏自身も自民党所属で、以前は制度反対派だったという。しかし、制度を求める市民の意見を聞くことで、賛同の立場に変わったという経験を持つ。「問題は自民党にある」と田村氏は指摘している。

また、井田さんは、「男女共同参画大臣に就任したこともあって丸川さんに焦点が当たっていますが、文書に署名した議員は50人中、43人が男性議員です」とも強調する。

「丸川さんや高市さんなど旧姓使用をしている女性を前に立たせて、『制度を導入しなくても不便はない』とアピールする。名前を連ねた男性議員が私たちの前で反対理由を述べたことがあったでしょうか。女対女の構図にしているのであれば間違っていると思います」

井田さんが事務局長を務める「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」は、反対文書を送った50人の自民党議員に対し、公開質問状を送っている。

井田さんによると、一部議員からすでに返事があり、「(文書は)圧力になると思いません」などと記されていたという。

田村議員は自身のブログで、「圧力ではない」とする主張について触れ、「私は一貫して『圧力になりかねない』と答えていますが、圧力と感じるか感じないかは受け取った側の意思であり、送付された方がこのような創造性もないことに疑問を感じるところであります」(原文ママ)と反論している。

 

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「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の公式サイトでは、文書に書かれた反対理由の偏見や無根拠さについて、家族法の専門家の解説を掲載している。

公開質問状の回答の期限は3月8日で、返答の内容も公表する予定だ。

 

(生田綾 @ayikuta / ハフポスト日本版ニュースエディター)