JOCの評議員、女性は63人中たった1人だけ。森喜朗会長の性差別発言が「見過ごされる」組織の問題点

問題の発言があった際、評議員から「笑い声」が上がったという。森会長個人の意識だけではなく、性差別が「見過ごされる」ような組織にも問題がある。
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森喜朗会長
CHARLY TRIBALLEAU via Getty Images

東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長が「女性がたくさん入っている会議は時間かかる」と発言した問題。本人は2月4日に発言を謝罪・撤回したが、会見の内容も波紋を呼び、批判がおさまる様子はない。

報道によると、日本オリンピック委員会(JOC)での臨時評議員会で問題の発言があった際、周囲から「笑い声」が上がったという。

JOCによると、評議員は全部で63人。そのうち、女性は1人しかいない

バルセロナオリンピック・柔道女子52キロ級の銀メダリストで、現在は全日本柔道連盟(全柔連)の評議員を務める溝口紀子さんは、「JOCの評議員会も『女性役員の目標割合を40%以上』にすべき」と指摘する。

 

なぜ「女性は話が長い」発言をしたのか

森会長が問題の発言をしたのは、JOCの臨時評議員会だ。「女性を必ずしも数を増やしていく場合は、発言の時間をある程度、規制をしていかないとなかなか終わらないで困る」と述べたという。

この発言は、JOCが掲げる目標である「女性理事の割合40%以上」を念頭に置いたものだ。

「特に山下さん(JOCの山下泰裕会長)の時は、JOCの理事会の理事をかなり削って女性の枠を増やさないといけないということで大変苦労したと言っておられて。理事の中でも反対があったり大変だったのを、なんとかここまでこぎ着けましたという苦労話を聞きましたから」

4日の謝罪会見で森会長は、このように弁明した。どの競技団体かは明かさなかったが、競技団体の関係者から「女性が多いと話が長い」という話を「よく聞いた」と主張した。

 

評議員会のメンバーから「笑い声」が上がった

朝日新聞デジタルは、森会長が発言した際、JOCの評議員会メンバーから「笑い声」が上がったと伝えている。

現在、JOCの女性理事は25人中5人(20人)。目標の40%には届いておらず、さらに評議員に目を向けると、全63人の評議員のうち、女性は1人しかいない。(JOCによると、当日は会場に18人、オンラインで33人、合計51人が出席していたという。)

森会長個人の意識だけではなく、性差別が「見過ごされる」ような組織的な構造にも問題があるといえるだろう。

溝口紀子さんはハフポスト日本版の取材に対し、「理事会だけでなく、評議会も『女性役員の目標割合を40%以上』にすべきでしょう」と指摘する。

「理事を選任する組織である評議会では女性1名のみです。これでは女性理事を登用したくても数で圧倒的に不利な状況です。私としては、最近の傾向では、女性の出場人数の増加、メダルの数も男子より増加している現状を鑑みると50%でも良いのではないかと思います」

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JOC公式サイトに掲載された評議員一覧。公式サイトに掲載されているのは、2020年7月28日時点での情報。

 

なぜ「女性理事40%」の目標が掲げられたのか

JOCが掲げる「女性理事40%」は、スポーツ庁がまとめた競技団体の運営指針である「ガバナンスコード」にのっとっている。

このガバナンスコードは、スポーツ界でハラスメントや公金不正などの不祥事が相次いだことを受け、導入されたものだ。

溝口さんが身を置く柔道界では、2013年に日本女子代表選手が監督から暴力やパワハラを受けていたことが表面化し、大きな問題となった。

「かつての全柔連は、これまで男性中心のトップのイエスマンで構成され閉塞的な『内輪のルール』のみによって運営されていました」。溝口さんはそう指摘する。

「法令遵守よりも組織内の慣習や人間関係への配慮が優先され、選手選考や公金不正などガバナンスに問題があると指摘されました。現在、再発防止策として、スポーツ界ではスポーツ団体ガバナンスコードの実務的な運用がされています。とりわけ『女性理事の目標割合を40%以上』を設定することで、会議を活性化することが求められています」

 

「自浄」できるかどうかが問われている

溝口さんは、スポーツ界の組織内で活発な議論を増やし、自浄能力を高めるためには、「男女関係なく、外部有識者など、イエスマンにならず、知識、経験、見識を持った理事を登用すること」が大事だと話す。

「また、議論を活性化、多様な意見を引き出し、偏重化しないファシリテーターとなるべき、トップの存在が重要です。理事や役員も就任後には、研修を受けることでガバナンス能力の研鑽に励むことも組織改革として重要だと思います」

「『沈黙は金』では自浄能力は高まりません。過去の歴史を振り返れば、モスクワボイコットなど、トップに抗うことができず、選手は政治に翻弄されてきました。また、全柔連では、相次ぐ子どもたちの柔道事故や体罰の問題が放置されてきました。ガバナンスでも『金』メダルを取れるようなJOC、風通しの良い組織になってほしいです」

 

 ◇

問題をめぐっては、日本政府や東京都をはじめ、JOC、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に対し、森会長の処遇の検討や具体的な再発防止策を求めるオンライン署名も始まった。署名は立ち上げから1日で7万3000人に達している。

森会長は発言を謝罪・撤回し、IOCは「この問題は終了した」などと幕引きを図っているが、抗議の声が収まる様子がない。JOCや組織委の今後の対応が問われている。