「就活の面接で笑われた」トランスジェンダー当事者が語るLGBT平等法が必要な理由

LGBTQ当事者であることが、就労や労働の困難に結びついているケースはいまだ多い。ツバサさん(仮名)が自身の体験を明かした。

性的マイノリティに対するいじめや差別を禁止する法律・条例の制定には87.7%(※1)の人々が賛成するなど、LGBTQの人たちを取り巻く環境はポジティブな方向へと変わっているように見える。

だが、本当にそうだろうか? 

厚生労働省の調査では「職場で困りごとを抱える当事者」の割合は、LGB(同性愛や両性愛者)で36.4%、トランスジェンダーでは54.5%にも上っていることが明らかになっている

LGBTQ当事者であることが、就労や労働の困難に結びついているケースはいまだ多い。

10代のときにトランスジェンダーであると自覚したツバサさん(仮名)は、自身のジェンダー・アイデンティティをオープンにして就職活動に挑んだ。

「差別されることや拒絶・無理解は想定内だった」と振り返るツバサさんに、性的マイノリティが労働で直面しうる問題について話を聞いた。

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ツバサさん(仮名)
HuffPost Japan

ツバサさん(30代、仮名)高校までを西日本で過ごし、大学進学を機に東京へ。自身がトランスジェンダーでXジェンダーであることをオープンにして就職活動をした後、新卒採用で民間企業に就職。営業、企画、マネジメント業務等で課長職などを経て退職。転職を経て、現在は団体職員。

戸籍は女性、でもメンズスーツを選んだ

就職活動用のメンズスーツを購入したのは大学3年の秋、周囲と比べると遅いほうでしたね。

私は、戸籍上は女性ですが、性自認はどちらかといえば男性寄りです。自身の性のあり方だけを考えれば、男女分けされたどちらのスーツも着たくはなかったし、履歴書の性別欄に性別を書くということもしたくなかった。

けれども皆と同じスタートラインに立たなければ将来に向けて進めない。

考えた結果、メンズスーツを着て、性別欄は空欄にし、トランスジェンダーであるという自分の性のあり方を伝えた上で就活に臨む選択をしました。

希望する業界や職種は特にありませんでした。それより「自分のセクシュアリティを理解した上で採用してくれる会社はあるのだろうか?」という不安が大きすぎたんです。

トランスジェンダーであることをオープンにして就労している社会人の先輩が、当時の私の周囲にはいませんでしたから。

「そういう方はうちではちょっと…」

就活では書類選考の段階からつまずきました。

たとえば、オンラインのエントリーフォームは、性別欄のどちらかをチェックしないと先に進めない。どちらかというと性自認に近い男性にチェックを入れ、備考欄にトランスジェンダーであることを書き添えるなどしました。

メールフォームなどでやり取りができた企業には、「こういった事情で性別欄は空欄のまま提出をさせていただきたいのですが、差し支えないでしょうか」と直接問い合わせました。

ですが、ほとんどの企業からは返信がきませんでした。音沙汰がないということは、お断りということ。対面での書類提出の際に「トランスジェンダーだ」とお伝えしたら、「そういう方はうちではちょっと難しいです」と受け取りを拒否されたこともありました。

「笑わない」人が1人でもいれば

面接の場でも、トランスジェンダーであると伝えた途端に面接官の態度がガラッと変わることもありました。「これから手術受けるんだったら、ちゃんと男性になって、その後また受けに来て」「うちは接客業だからお客様を不快な思いにさせることはできない」という言葉を投げつけられたことも。

男女別のグループ面接では、メンズスーツを着ていた私は男子グループに分けられました。自己紹介を始めた途端に、私の声を聞いた面接官に「あれ、女の子だよね? 間違っちゃったかな~」と笑われたんですね。周囲の学生たちからも続いて笑い声があがって、いたたまれない気持ちになったことを覚えています。

ただ、いずれも想定していた反応ではありました。

セクシュアリティを明かしたら拒絶され、差別を受ける。就活以前の社会生活でも、同様の体験はすでにしていましたから。そういった社会の構造が、就活の場でも同じように出てくるだろうとは想像していました。

ただそれでも、面接官が私を笑ったあのとき、「そんな風に笑うべきことではないです」とはっきり言ってくれる人があの場に1人でもいたら、どれだけ心強かっただろうか、と今も考えます。

LGBTQ当事者の社員の前例がない企業に入社

そういった経験をしながらも、履歴書の性別欄について相談した際に、「空欄で大丈夫です」と言ってくれた企業から内定をいただきました。

そこはLGBTQ当事者であることを明かして働く社員の前例があるわけではなかったのですが、私のジェンダー・アイデンティティをタブー視することも特別視することもなく、面接でもフラットに向き合ってくれた会社だったんですね。

人事の方はそもそもLGBTQという言葉すら知らなかったそうなのですが、入社前に個別に時間を取ってくれて「トランスジェンダーであることを明かして入社する社員はあなたが初めてです。あなたの希望や不安を教えてください。何ができるか一緒に考えていきましょう」と言ってくださって。

更衣室や健康診断、宿泊を伴う研修から、取引先に私のジェンダー・アイデンティティをどう伝えるかまで。その都度、希望を伝えて相談できたことはとても心強かったです。

取引先から差別的な対応も

営業職でしたから、働き始めてから取引先で差別的な対応をされる場面もありました。

最初にアポイントメントを電話でして、その後に会いに行く時には、先方に電話の声から「女性が来る」と思い込まれることが多くて。

「約束したのは女性なのに、なんでネクタイしているあなたが来るの?」という反応や、受付で「性同一性障害ってやつじゃないの?」と囁かれているのが聞こえてきたこともあります。

中には初対面の取引先にも関わらず、「そんななりをして親に申し訳ないと思わないのか!」と突然声を荒げて説教されたこともありました。

そのときはショックで呆然としていましたが、会社には断られた理由を報告しなければならない。「トランスジェンダーであることを理由に断られました」と報告したら、トランスジェンダーであることを言い訳にしているように聞こえないだろうか、どう報告すべきか、と悶々と悩みました。

ところが帰社後、同じチームの先輩が、私の様子を察して「何かあった?」と声をかけてくれたんです。そこで「このお客さまは僕が担当するのは難しいかもしれません。トランスジェンダーであることへのご反応が厳しかったので…」と打ち明けたら、「じゃあ俺がやるよ」とさらっと交代してくれて。過剰な反応をせず、さりげない対応をしてくれたのが、本当にありがたかったです。

先輩と話した直後、社内のトイレで泣いて、ようやく感情が生き返った心地がしました。

自分ひとりで抱えなくても大丈夫なんだ。これなら働いていける、そう思いました。

・・・

性的指向や性自認を理由に理不尽な扱いを受ける。ツバサさんが直面したような差別は、未だに残っている。

一方で、海外に目を向けると、LGBTQを差別から守る法整備が着々と進んでいる。EU加盟国を筆頭に、すでに80か国以上がLGBTQに対する不当な雇用差別を禁止する法律を制定している。

日本でも2020年10月から「LGBT平等法」の制定を求める国際署名キャンペーン「Equality Act Japanー日本にもLGBT平等法を」がスタートした。ツバサさんはLGBT平等法の必要性について、次のように語った。

「この社会ではすでに多様なセクシュアリティやジェンダー・アイデンティティの人々が一緒に暮らし、働いています。個々人が発信することも大事ですが、社会の枠組みを作り直していくことも重要なこと。

LGBT平等法は、LGBTQの人たちを特別扱いしたり、そうでない誰かに不利益をもたらしたりする法律ではありません。今、困りごとを抱えているLGBTQの人が、皆と同じように尊重され、不利益を被らずに済むための法律です。

法律や制度は、基準をつくるものであり、次世代へのメッセージです。自分の性自認や性的指向に悩む子どもたちが、差別やハラスメントを受けることなく、ありのままの自分で成長していける。そして、性自認や性的指向以外の様々な違いや多様性も、「人」として尊重される。そんな社会をつくっていくために、大人の皆さん、一緒に頑張りましょう」

※1調査結果の出典:

釜野さおり・石田仁・風間孝・平森大規・吉仲崇・河口和也

2020 『性的マイノリティについての意識:2019年(第2回)全国調査報告会配布資料』 JSPS科研費(18H03652)「セクシュアル・ マイノリティをめぐる意識の変容と施策に関する研究」(研究代表者 広島修道大学 河口和也)調査班編