弁護士事務所で「社会福祉士」を雇用する取り組み始まる。相談者には知的障害を利用され、詐欺に加担させられた人も…

社会福祉士の仕事は日常生活の支援計画作りや、裁判への出廷、施設探しなど刑事・民事問わず多岐にわたります。
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社会福祉士の佐藤さん
福祉新聞

 東京都千代田区にある弁護士事務所が社会福祉士を雇用する取り組みを始めた。弁護士法人ソーシャルワーカーズ(浦崎寛泰代表)は生活上の困難を抱えたクライアントへの継続的な日常支援を展開する。浦崎弁護士は「法律相談を入り口に、福祉制度につなげるモデルが広がれば」と話す。

 同法人は2020年4月、社会福祉士の佐藤香奈子さんをフルタイムの常勤職員として採用した。所属する9人の弁護士は、福祉的支援の必要な相談者がいれば佐藤さんにつなぐという。

 現在、佐藤さんが抱えるのは20ケースほど。日常生活の支援計画作りや、裁判への出廷、施設探しなど刑事・民事問わず多岐にわたる。

 振り込め詐欺事件で逮捕された20代男性は、面談で知的障害があることが分かった。「穏やかな性格を利用され、犯罪に加担させられていた」(佐藤さん)という。

 裁判で佐藤さんは、男性に障害があることや、犯罪に巻き込まれない支援体制の重要性を主張。実刑の可能性もあったが、結果的に4年の執行猶予を勝ち取った。

 このほか、多重債務に陥った30代女性のケースでは、何度も面談を重ねて買い物依存になる背景を探った。双極性障害があることも分かり、一般就労ではなく就労移行支援事業所へとつないだ。その後も関わりは続く。

 佐藤さんは「ごちゃっと絡まる課題を解きほぐす感覚。総合的なソーシャルワーク力が試される」と話す。個人の相談者と同事務所との顧問契約は月2万円からで、この中に社会福祉士による支援も含まれている。

 もともと佐藤さんは日本社会事業大大学院の前期課程を修了。障害や医療などさまざまな分野の職場を経験した。転職は、偶然ネットで求人を見かけたことだった。

 一方、同事務所が社会福祉士の雇用を決めたのは、法律支援だけでは根本的に相談者が持つ課題を解決できないと実感しているからだ。「例えば、痩せるために手術で脂肪吸引しても、習慣を変えなければ元通りになるのと同じ。生活上の困難を抱えた人は、法律相談に来る時点で課題が重く、制度の狭間はざまにある」と浦崎弁護士は指摘する。

 浦崎弁護士は14年には社会福祉士も取得。事務所の立ち上げでは、高齢者や障害者、依存症者など福祉的な支援が必要な人への弁護業務を主軸に掲げた。同事務所にはほかにも社会福祉士や精神保健福祉士の資格を持つ弁護士が2人いる。

 浦崎弁護士は「法律支援と生活支援は車の両輪だ。弁護士事務所がソーシャルワーカーを雇用し、協働してサービスを提供するスタイルを普及させたい」と話す。

 実際、こうした職種への関心は高そうだ。同事務所がソーシャルワーカーを募集した際、SNSだけの告知だったにもかかわらず、50人程度の応募があったという。