国旗損壊罪を新設?「日本と外国の国旗で同じ罰」の問題とは…。憲法学者に聞いた

自民党の高市早苗・前総務相が「日本の名誉を守る」ためと発言。慶應義塾大教授・駒村圭吾氏は「刑法改正によって国民の自由を制限するなら、それは日本の名誉を守るどころか不名誉の極みになる」と反論します
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「国旗損壊罪」が成立した場合、日本の国旗を壊せば処罰の対象になり得る
ASSOCIATED PRESS

日本を侮辱する目的で日本の国旗を壊したり、汚したりする行為を処罰できる「国旗損壊罪」の新設をめぐって、論争が広がっている。

NHKニュースによると、自民党の高市早苗・前総務相は、「日本の名誉を守るのは究極の使命の1つで、外国の国旗損壊と日本の国旗損壊を同等の刑罰でしっかりと対応することが重要だ」などと刑法改正の必要性を説明している。

何が問題になっているのか?

憲法が専門の慶應義塾大教授・駒村圭吾氏に聞いた。

 

外国の国旗なら「違法」の理由

高市氏らの念頭にあるのは、外国の国旗の損壊や汚損を禁止している刑法92条「外国国章損壊罪」だ。

これに対し、駒村氏は「92条の立法目的を考えると、刑法改正で外国と日本の国旗を同列に扱うことには無理があります」と話す。

どういうことなのか?

外国の国旗の取り扱いに関し、刑法92条は次のように定めている。

<外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗そのほかの国章を損壊し、除去し、または汚損した者は、2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処する>

さらに、この罪は外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。

駒村氏は、1963年の大阪高裁の判例を引用し、刑法92条の目的が「日本と外国の間の円滑な国交に資する」ことにあると指摘する。

92条は外交上の国家利益を守ることを目的としているため、日本国旗の損壊について定めがないのは当たり前の話なのです

当時野党だった自民党は2012年、同様の改正案を国会に提出したが、衆院解散で廃案になっていた 

アメリカ最高裁で「違憲」

国旗を損壊した人に対する処罰をめぐり、広く知られているアメリカ最高裁の判決がある。

テキサス州対ジョンソン事件」で、アメリカ最高裁は1989年、抗議目的で国旗を焼却した人を処罰したテキサス州法を「違憲」とした。アメリカ憲法修正第1条は、表現の自由を保障している。

アメリカ最高裁は、「政府は表現が不快だとかそれを支持し得ないからといって(行為を)禁止することはできない」との判断を示した。

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慶應義塾大の駒村圭吾教授
本人提供

表現の自由を脅かす

日本国憲法21条も、表現の自由を保障している。

駒村氏は、「今回の改正案は、国旗が象徴する国家の価値そのものを保護することが立法目的であると思われますが、刑罰を科すことは表現の自由を脅かしかねません」と指摘する。なぜか?

「『現在の政府こそが国家の価値をおとしめている』と考える人たちが、国旗焼却などの表現行為に訴えることができなくなるからです」

自国の国旗を損壊する。こうした“過激”にも見える表現の仕方を認めることが、どうして大事なのか?

「国旗の損壊が過激な表現であることは確かですが、国家を全面的に批判せざるを得ないようなぎりぎりの場面では、国家の象徴である国旗を否定する行為は有効な表現方法になります。もちろん、他人や公共施設の国旗を破損する場合は器物損壊罪などに問われますが、自分の所有物であれば表現の自由として認められるべきです」

さらに、駒村氏は、国旗損壊罪の新設で制限されるのは「表現の自由」だけではない、とみる。

「国旗に象徴される国家の価値を守るために、日本の国旗を損壊した人に刑罰を科すとなると、国旗に敬意を表したくない人にまで敬意を表することを要求することになります。敬意の表明を要求することは思想・良心の自由(憲法19条)の制約にあたるとするのが、日本の最高裁判例です」

 

憲法が謳う日本の「名誉」

高市氏が口にした「日本の名誉」。

一方で日本国憲法の前文は、国の「名誉」について次のように謳っている。

<われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う>

<日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う>

駒村氏はこれらの前文を踏まえ、こう指摘する。

『自由のもたらす恵沢の確保』をはじめとする前文の理想を果たせてこそ、名誉ある国家になれるはずなのです。刑法改正によって国民の自由を制限するのであれば、それは日本の名誉を守るどころか不名誉の極みになってしまうのではないでしょうか」

(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)