大山加奈さん「ユニフォーム突然短くなった」。性的画像対策に賛同、バレー日本代表の時に起きたこと

インタビューで「撮る側が悪い。アスリートが責められるのはおかしい」と語りました。
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アスリートが性的な意図で写真を撮影されたり、SNSにわいせつな加工が施された画像が拡散されたりする被害が相次いだことから、日本オリンピック委員会(JOC)が本格的な被害防止対策に乗り出した。SNSの普及で、トップ選手だけでなく中高生にまで悪質な被害が拡大しているという。

このことにいち早く声を上げたのが、女子バレーボール元日本代表の大山加奈さん(36)だ。JOCの方針が報じられるとすぐに「(選手たちを)全力で守ってあげてほしい」とTwitterに書き込んだ。

これからの世代のアスリートに、自分のような不安な思いをして欲しくない。大山さんも現役や日本代表の時、試合会場で盗撮行為が起きたり、試合中にめくれてしまう短いユニフォームに戸惑ったりした経験があった。 

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インタビューに応じる大山加奈さん
オンラインインタビューの画面より

「突然、ユニフォームが短くなった」

大山(敬称略):(JOCが性的画像対策に)やっと動いてくれた、という思いでした。このタイミングで、みんなで考えてしっかり改善しなくてはと思いました。

大山さんが二十歳を超えたくらいの2000年代半ばのことだ。Vリーグ会場のトイレにカメラがつけられ盗撮されていることが発覚した。ユニフォームの背中に書かれた名前で選手が特定できるものが、主にインターネットで拡散されていた。

大山:チーム側からこういうことがありました、確認してくださいと言われて撮られたものを見ました。自分の映像はありませんでしたが、本当にショックでした。怖かったし、気持ち悪くて……。

ショック過ぎて親には言えませんでした。言えば心配するし、悲しませるだろうと思いました。

各チームがカメラの探知機などで、会場のトイレを毎回調べなければならなくなった。ほぼ同時期に、赤外線カメラで下着が写る写真がネット上に掲載されたりもした。

加えてこの頃、大山さんを悩ませたのが、日本代表のユニフォームだった。

大山:2005、6年ごろにユニフォームの“上”が突然短くなったんです。スパイクを打った瞬間に裾がめくれて、おへそが出てしまう。それが狙われたのかは知らないのですが、(新聞や雑誌で)おへそが出た写真ばかり使われていました。私はそれがすごくいやで、短パンに一所懸命インしていましたが、動いていると出てしまう。気になって仕方ありませんでした。 

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2005年11月。バレーWGC杯女子・日本-ポーランド/大山のスパイク 第2セット、スパイクを放つ日本の大山加奈(右)(東京体育館)
時事通信社

当時、女子バレーボール日本代表のユニフォームを請け負っていたミズノのサイトには「ウエアの歴史」というコーナーがある。歴代の代表ユニフォームが掲載されており、毎年デザインや丈などがどうモデルチェンジしたのか見比べることができる。

ユニフォームのサイズが原因なのか、カメラマンが狙って撮影したからなのか、理由ははっきりと分からない。2000年代中ごろの日本代表の試合写真を見てみると、裾がめくれて肌が見えるものが散見された。

大山:それに、短パンの丈も以前より短めになりました。もちろん選手が短くしてと言ったわけではありません。当時私たちが聞いたのはFIVB(国際バレーボール連盟)が、体の線が美しく見えるようにという意向があると聞きました。本当のところはどうなんだろうと選手たちは懐疑的でしたね。

実はその当時以前にも、FIVBは女子選手に対し、体の線がわかるユニフォームを求めた“過去”がある。

大山さんがまだ中学生だった1997年。日本開催の国際大会に、女子日本代表が当時Vリーグで主流だったハーフパンツを着用して出場したところ、FIVB首脳陣が「なぜブルマじゃないのか」とクレームをつけた。

この翌年からは「上は体にフィットするシャツで、下はブルマか股下5センチ以内のショートパンツ」という規定を設けたが、選手らから「セクハラだ」などと世界中から抗議の声が上がった。 

大山:でも、短いユニフォームはすぐに元に戻ったんです。なぜかというと、フライングレシーブをしたときなどにお腹をやけどする選手が続出したからです。

女性アスリートの意見、反映されてる?

FIVBは女子バレーボール人気を高めるための手段として、体を美しく見せるユニフォームを推進したのかもしれないが、その決定プロセスに女性の視点や意見は反映されたのだろうか。

例えば、FIVBの公式サイトに出てくる「行政委員会」の集合写真に写る34人中、女性とみられるのは3人だけ。意思決定の場で、男性の視点ばかりで物事が進められているのではないかと、想像してしまう。

大山:ただ、世界を見渡すと「見られる」という意識が国ごとで異なるのも事実です。例えば、キューバ代表はピチピチで水着みたいなユニフォームでした。

国によっては、試合が終わったら人目なんてまったく気にせずベンチで着替えたりします。スポーツブラ一枚になっても平気、みたいな。ただし、その一方でそれが嫌な選手だっています。気になる女性アスリートの意見を吸い上げるシステムは必要だと思います。

日本バレーボール協会も、女性理事は少数で、執行理事以上の幹部7人は全員男性。もちろん、適任な人材を据えているのだろうと思う。ただ、男女の種目がある競技なのに、運営する側で、選手を守る立場の組織が“男性ばかり”のようでは、女性の声が反映されづらいことにつながるかもしれない。

大山:JOCでは、アスリート委員会ができたり、各競技団体の女性理事を40%以上、外部理事25%以上を目標にするガバナンスコードが設けられます(今年6月の役員改選以降)。

少しずつ女性の声が届くようになってきたのは事実です。この流れで、性的画像の問題も具体策を掲げてほしいです。

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Lyubov Ivanova via Getty Images

性的画像「撮る側が悪い。アスリートが責められるのはおかしい」

佐賀新聞によると、県内の高校生の競泳大会で、女子選手になると急にカメラを構えたり、新体操の大会ではかばんにカメラを忍ばせたりする人もいるという。

カメラの持ち込みを禁じても、今はスマートフォンでもかなりの精度で撮影できてしまう。性的画像問題を解決するには、どんな対策を講じればいいのだろうか。

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選手画像の性的悪用防止について記者会見する日本オリンピック委員会の山下泰裕会長。左はスポーツ庁の室伏広治長官=2020年11月13日、文部科学省
時事通信社

大山:一度流出した画像は消せません。JOCは声明を出しただけで終わらないで欲しいと思っています。性的なショットを狙う人たちへの具体的な対策や、若い人たちへの教育につなげていくことが必要だと思います。

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ASSOCIATED PRESS

女子も男子も「声を上げていい」

加えて、アスリートを取り巻く環境の整備も急務だ。

大山さんが全国中学生選抜大会に出場した時のこと。観客席で着替えていたら、カメラを持った男性がすぐ近くにいた。チームスタッフが気づき、追い払ってくれたという。

大山:スタンドで着替えてはいけませんよ、と言われるかもしれませんが、今でも大会会場が学校だったりすると、スタンドで着替えている女子選手はたくさんいます。

全国大会の体育館でさえ同じです。多くのチームが使うので更衣室が足りないケースが多い。そうなると、選手はトイレなどで着替えるしかありません。運営側は更衣室をしっかり準備してほしい。

思春期の中高生は特にこころの傷が残るだろう。学生アスリートに対しての支援は急務だ。 

大山:環境の整備とともに、教育が必要です。性的画像の問題をまず知ってもらう。そのような危険性がある事実と、もし起きたら「声を上げていい」のだと理解してもらうのが重要です。

私が中高生の時は、そういった自覚がまったくありませんでしたから。そういう目で見ている人がいるという自覚。それは女子だけでなく、男子にも必要だと思います。 

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大山加奈さん
本人提供

一方で、ビーチバレーの女子選手に対し「露出の多い水着でプレーしているほうに問題がある」「それをウリにしているのだから、先に直すのは撮る側ではない」といった声は根強い。ビーチバレー女子の坂口佳穂選手(24)が自身の被害を告白した記事へのコメントで、そのようなバッシングは少なくなかった。

大山:「撮る側」が悪いのに、一生懸命プレーしているアスリート側が責められるなんてあってはいけないこと。被害を被ったほうが対策しなくてはいけないなんて、おかしいですよね。

悪いことをしている人が罪の意識を感じなくなってしまう可能性だってある。問題をすり替えないでほしいですね。

被害や問題が起きたから対策するというだけではなく、「嫌だ」と感じた選手を尊重する文化を育てられるよう、大山さんは発信を続けている。

(取材・文:島沢優子 / 編集・濵田理央

ハフポストではスポーツ界の性差別・被害や暴力について取材をしています。ご自身の体験や見聞きした出来事を語ってくださる方は、rio.hamada@huffpost.jpまでご連絡をお寄せください。

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JOCが表明したアスリートへの写真・動画による性的ハラスメント防止の取り組み
JOCの公式サイトより