6歳児くん、初めての習い事。子どもの“好きパワー”って、すごい

子どもの〝好きパワー〟は大人の想像を遥かに凌駕することをはじめて知った、ある出来事。そして我が子の成長を喜びつつも切なさもワンセットでやってくる、そんなお話です。
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筆者提供

「好きこそものの上手なれ」という言葉があるが、それを痛感させられることがあった。「ちゅんちゅん、こわい」とスズメを怖がり、お友達からはイタズラされ放題の気が弱い息子。そんな息子があるモノを好きになったことで、自信とパワーをどんどんつけ……。子どもの〝好きパワー〟は大人の想像を遥かに凌駕することをはじめて知った、ある出来事。そして我が子の成長を喜びつつも切なさもワンセットでやってくる、そんなお話です。

 

気がやさしく、弱気な息子

ウチには6歳になる男の子がいるのだが、気がやさしい。コロナ禍において「ぱぱ、ころなにかからないでね」と心配してくれる。そのあと「ぼく、ぱぱのことわすれないからね……」とつけくわえ、「なんで俺が死ぬ前提なんだ……」と思いつつも、まあ気がやさしい。

やさしい子でいてくれるのは親として本当に嬉しいのだが、彼の場合それ以上に気が弱い。例えば2歳くらいのときには「ちゅんちゅん、こわい」とスズメを怖がり、小犬にひと吠えされれば大号泣。ゾウやキリンなどを見せてやろうと上野動物園に連れて行くと、やはりというか大きな動物を怖がり号泣。やっとニコニコしだしかと思ったら「ぱぱ。みてー。ありさんだよ!」。上野動物園まで来て、ありさんかいっ! とあきれて笑ったこともあった。

そんな性格だからか、保育園でも「やーめーて」と言ってもイタズラやからかわれることが多かった。そして子ども同士のもめごととはいえ、顔に傷を作って帰ってきたことも何度かあった。

 

息子に「空手を習ってみないか」と提案してみると…

これじゃいかんと。小学校入学を今春に控え、このまま弱気な性格だったら、いじめられてしまうかもしれない。気が弱いのも彼の個性のひとつだが、そこにつけこんでくる同級生もいるだろう。だから自分に自信を持ち、「嫌だ」という意思をきちんと相手に伝えられる子になってほしい。その手段として、「空手を習ってみないか?」と息子に提案してみた。

すると「やる、やるぅぅ!!」と大興奮。空手を、仮面ライダーや戦隊モノの〝戦いごっこ〟の延長としかとらえてないらしく、「えい! とう!」とパンチやキックを繰り出し、はしゃいでいる。とにもかくにもやる気になった今がチャンス、さっそく入会し通わせることとなった。

 

決して安くはない道着を買い、着せてみると、完全に道着に着せられているその姿は、愛くるしかった。そして道場に行ってみると、我が子は最年少で他の子は小学生の子ばかり。先生や他の子を真似て一生懸命に突きや蹴りを繰り出すのだが、まあへなちょこ。そこがまたかわいい。しかし懸命に「おす!」「えいやっ!」と大声でやっていると、先生が「一番小さい子が、一番大きな声出してるぞ! みんなも気合い入れろ!」と誉めてくれたのだ。

 

それがよほど嬉しかったのか、それからは「あとなんかいねたら、からて?」と毎日しくつこく聞いてくるほどに。テレビを見ながらでも習った突きや蹴りを無意識に反復し、日に日にサマになっていくのが目に見えてわかった。

もうへなちょこでも何でもないし、すでに凛々しくもある。この成長はとても嬉しいのだが、「ちゅんちゅん、こわい」と泣いていたあの日々が急に懐かしくもなってきた。妻も同様なようで、「あらやだ、これ以上お兄さんにならないでぇ~」と半ば本気で言うのだった。

 

空手の道着が、最高のおしゃれ?

さて空手を習いだしてから1ヵ月も過ぎたころ、季節はもうクリスマスに。

保育園でもクリスマス会が行われるらしく、プリントには「この日はオシャレしてきてもかまいません。女の子もスカートをはいてきてもOKです」と書かれていた。普段は活発に動けるようにと男女問わずズボン着用がルールなだけに、当日は女の子はエルサになる子も多いんだろうなあなんてことを考えていた。

そして「クリスマス会、オシャレしてきてもいいんだってよ。お前もオシャレしてくか?」と何気なく息子に聞くと、「ぼく……からてのかっこうでいきたい」。

「え!? 道着で行くの?」

「ぼく、からてのふくでいきたい!」。

 

つまり、今彼のなかでは、最高のオシャレ着が空手姿なのだ。親や先生に「すごいね、かっこいいね」と誉められ、練習すればするだけ上手くなる。彼が「からてのふくでいきたい」というのは、空手が自信の源になっている証拠だ。

この言葉を聞いて涙が出るほど嬉しかったが、同時にクリスマス会に道着着てくるヤツなんかいないぞ! 悪目立ちする予感しかない! という思いが。

しかしこれも、息子の願いだ。というか今までこんなふうに自分の思いを主張することもなかったし、目立つことも嫌っていたのに。子どもの〝好きパワー〟って凄い。

 

条件は「道着を一人で着られる」こと

とりあえず保育園の先生に相談してみたところ、「おトイレとかありますからね。ですから自分で脱ぎ着できるのであれば、いいですよ」とのこと。それを息子に伝えると、「ぼく、がんばってみる!」。しかしおわかりだと思うが、道着というのは硬い。

しかもまだ初めて1ヵ月ちょい、道着はカッチカチだ。その道着に帯を締めるのにはかなり力が要るし、コツも要る。ズボンはヒモで結ぶのだが、息子はかた結びしかできない。これだと脱ぐときに困る。そのため、ちょうちょ結びを覚える必要がある。今の息子にはまだ無理だと、正直感じた。

そのため「だから諦めろよ」という言外をにじませながら、「帯も自分でちゃんと結べないだろ? あとズボンもちょうちょ結びできないと、保育園には着て行けないんだぞ?」と少し強めに言ってみた。それでも「がんばる」の一点張り。クリスマス会は、もう明日だ。

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6歳児くんの猛特訓の結果やいかに

「そこまで言うなら、仕方ない」と特訓に付きあう覚悟を決め、そこから猛特訓が始まった。「帯の締めが甘い!」「締まったけど、上着の形が悪い!」「ちょうちょ結びの、結びが弱い。これじゃすぐ脱げる!」と何十回も脱ぎ着させた。時間にして1時間くらいかかっただろうか、その間息子は一度も投げ出すこともなく真剣にやり、遂に格好良く自分ひとりで脱ぎ着できるようになったのだ。正直、今の彼には無理と思っていたが、子どもの“好きパワー”がここまでのものとは、凄いじゃないか!!

 

さて翌日、朝。昨晩の特訓がすでに体に馴染んでいるらしく、器用に道着をひとりで着た息子。そして意気揚々と登園したころ、やはり道着を着て来るヤツなんて息子のみ。しかしこれも一種の制服効果なのか、教室に入ると「うわ、からてだー!」「かっこいい!」と女子4~5人に囲まれ、ご満悦の様子。いいぞいいぞ、昨日の特訓のご褒美だ! すると、ある女の子がひょっこり現れると、息子の帯を指さし、「しろなんだ。せめて、ちゃいろでもないんだ」。たぶん彼女のきょうだいも空手をやっていて、級位によって帯の色が変わってゆくのを知っているのだろう。しかしせっかく自分で脱ぎ着できるまでに至ったのに、まさか空手の実力を図られるとは思っていなかった息子は苦笑いを浮かべるのみ。「好き」が大きな自信をくれることと、人のシビアさを知った6歳児だったのでした。

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 (文:村橋ゴロー 編集:榊原すずみ/ハフポスト日本版)

■村橋ゴローの育児連載

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