損失3億円の推計も。キャンセル続出のライブイベント業界「連鎖倒産も現実に」

キャンセル続きで公演中止に追い込まれ、莫大な損害を背負う団体も。舞台芸術界から悲痛な声が上がっている
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劇場のイメージ写真
rarrarorro via Getty Images

2度目の緊急事態宣言の発令で、劇場などライブイベント業界への影響が深刻化している。2020年以降、コロナ禍の大幅減収で苦境に直面していた中、さらにチケットのキャンセルが相次ぎ、公演中止に追い込まれるケースが後を絶たないためだ。

223団体が参加する「緊急事態舞台芸術ネットワーク」の世話人で、弁護士の福井健策さんは「この一年、なんとか歯を食いしばって耐えてきた舞台芸術の送り手たちが、一夜にしてさらに億単位という損失を抱えています。このままでは連鎖倒産が現実になってしまう」と危機感を募らせている。

 

公演中止が相次ぐ

緊急事態宣言の実施期間中、政府はイベントに関して

・人数の上限を5000人以下、かつ収容率は50%以内

・開催時間は午後8時までの営業時間の短縮を要請する

西村康稔経済再生担当大臣は1月6日の記者会見で、イベントでのクラスター発生について、スーパーコンピューター『富岳』を使ったシミュレーション結果を根拠に「(イベントでの)感染リスクは低い」との認識を示した。

一方、東京都の小池百合子知事は1月7日の記者会見で、上記の対応に加えて「延期、オンライン開催、規模の縮小、無観客、様々な形での開催を是非ともご検討いただきたいと存じます」と求めた。

福井さんによると、こうした対応の現場への影響は大きく、「本来は午後8時までという時間短縮の要請の対象外であるはずの発売済み公演でさえも、キャンセルの連鎖が起きています。その結果、公演中止に追い込まれるケースが続出しています」と指摘する。    

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オンラインでの取材に応じる福井健策さん

ネットワークは1月10〜12日、14の参加団体に緊急ヒアリングを行った。その結果、2月7日までの緊急事態宣言の実施期間中、損失予想金額が最大で約3億円に上る団体もあったという。

 

市場規模は8割減

ネットワークでは、コロナ感染予防対策のガイドラインを策定観客参加型のイベント稽古場内での集団感染は国内で報告されているが、福井さんによると、ネットワークの会員223団体では観客のクラスターは確認されていないという。

それでも、コロナの感染拡大がライブ・エンタメ業界に与える打撃は2020年から続いている。

ぴあ総研の調査によると、2020年のライブ・エンタテインメントの市場規模(試算値)は1306億円で、前年(6295億円)に比べ約8割の大幅減となった。

コロナ禍の文化芸術業界への支援策を巡っては、文化庁と経産省がそれぞれ一定の要件を満たした個人や団体に対し、補助金を交付する事業がある。ただ、これらは新たに公演を主催するなど活動経費を補助する仕組みのため、キャンセルが相次ぎ公演できないという現状では活用することができない。

福井さんは「経費補助の支援金はありがたいが、それだけでは限界というのが現場の声」と話す。

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ぴあ総研が公表しているライブ・エンタテインメント市場規模の推移
ぴあ公式サイト

実態に見合った支援策とはどのようなものか?

福井さんが提案するのは、活動縮小への「協力金」だ。

「収容人数の上限や開催時間の短縮を事実上、強いられています。活動を縮小していることに対する協力金が最も必要でしょう。それも全ての団体に一律で同額を支給するのではなく、事業の縮小規模に応じた支援が求められています

 

ジャンル超えたファンの連帯が鍵

アメリカでは2020年12月、音楽会場や劇場など文化芸術関連の団体などに総額約1兆6000億円を支援する法律が成立した。支援を求める運動「#Save Our Stages」に210万人が賛同の声を上げたことが、法成立を後押しした。

福井さんは、「自分たちは『文化芸術』という大きなくくりで支えるんだ、という思いを共有した多くの人たちによって、新たな支援法の成立が実現したことは衝撃的でした」と評する。

「日本は漫画、舞台、アート、ライブハウスなどジャンルごとでファン同士が分断されていると感じることがあります。コロナという緊急事態の中で、文化芸術の送り手たちの連帯がどんどん強まっています。それぞれのファンの人たちの間に、ジャンルを超えて『自分たちの好きなもの全体で、文化芸術が成り立っているんだ』という支援の連帯が広まることも、業界を支える大きな力になると思います

(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)