「気候危機を止めるためのタイムリミットは、もうすぐそこに迫っています。口だけの目標ではない気候変動対策をとってください」ーー。
三菱商事が出資し、ベトナムで計画されている石炭火力発電所建設事業をめぐり、国境を越えてZ世代が声を上げている。
問題となっているのは、三菱商事が出資し、ベトナムで建設が予定されているブンアン2石炭火力発電事業。
日本とベトナム両政府の経済協力に基づく国策案件で、みずほ・三井住友・三菱UFJのメガバンク3行と韓国輸出入銀行、国際協力銀行が総額約17億6700万ドル(約1800億円)の協調融資を行うことが予定されている。
1月5日、日本とベトナム、韓国の若者が三菱商事や事業に融資を行う銀行に対して抗議する動画を公開した。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんも「声を上げてくれてありがとう」と賛同するメッセージを寄せている。
また、同日、三菱商事や国内4銀行に対し、日本の学生ら9人が公開質問状を送付した。
どんな動画?
「NO COAL FOR OUR FUTURE(私たちの未来に石炭はいらない)」と題した動画を制作したのは、学生環境活動団体「Fridays For Future Japan」。
日本、韓国、ベトナムの若者が出演し、関係する企業に対してブンアン2事業からの撤退や融資の取り止めを求めている。
動画では、ブンアン2に融資している企業への投資をやめたり、銀行の預金を他行に変えるなど、消費者ができるアクションも呼びかけている。
インスタグラムに公開したメッセージには、こうある。
『自分たちの利益を優先して動くのはもうやめてください。
あなた方の無責任な行為は
全世界の、気候危機解決に向かって毎日必死に動く人々を失望させました。
私たちは、「本気の」気候変動対策を求めます。
世の中の流れに合わせて発した「口先だけの」目標ではなく、
実行力を伴う「具体的で本気の」気候変動対策を求めます』
動画には、建設予定地のベトナムからも匿名で参加。「化石燃料は我々の将来の発展には関係ない」として、再生可能エネルギーや気候変動対策に注力するよう訴えている。
動画を呼びかけたFridays For Future Japanの酒井功雄さんは「日本だけの問題で終わらせてはいけないと思った」という。
「ブンアン2以外にも日本が行なっている石炭政策に対して、各国の若者が声を上げている状況はあります。国を超えてユースが協働で声を上げることができたのはよかった」
学生たちから企業への公開質問状
動画と同じタイミングで公開されたのが、三菱商事や協調融資を決定している4銀行に対する質問状だ。
「私たちは日本の発展途上国に対する石炭火力発電の輸出に関し疑問を持っていますが、この計画を継続する皆さまにも都合や事情・正義があるのだと思っています」として、気候変動加速への危惧から計画への懸念が示されている状況についての受け止めや、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」との整合性など4点について質問。
1月14日までに文書またはビデオ通話による回答を求めている。
発起人で一般社団法人NO YOUTH NO JAPANの代表も務める能條桃子さんは「できればビデオ通話で直接対話したい」と話す。
気候変動へのリスクやESGの長期的な利益よりも、いったん国家プロジェクトとして決まったものを後戻りできないという事情が優先されているのではないかと推測し、「批判を伝えたいのではなく、立ち止まってもらうヒントや糸口になればいいなと思っています」と語った。
ESGで進む「石炭離れ」。日本は?
ESG(環境・社会・ガバナンス)の潮流のなかで、温暖化の主要因である石炭には投資家から厳しい目が注がれている。
「ブンアン2」をめぐっては、欧州の投資家連合が三菱商事などに対して計画からの撤退を要求。すでにイギリスのスタンダードチャータード銀行などは撤退を表明している。
日本でも、3メガバンクが新設の石炭火力発電所への投融資は原則として実行しない方針を掲げている。日本政府も2050年に温室効果ガス排出の実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」を宣言した。
ただ、すでに進行中の融資案件は除くというのが3メガバンクと日本政府のスタンスで、口先だけの取り組み「SDGsウォッシュ」だという批判もある。
学生たちが日本や企業が進めるパリ協定や脱炭素の流れと「矛盾している」と指摘するのも、このためだ。
梶山弘志経産相は12月1日の会見でブンアン2について「日越首脳会談共同声明で協力を確認していることも踏まえて、公的支援を実施する方向で検討」と表明。改めて新規の石炭火力プロジェクトとは別の判断軸だとの認識を示している。
1月26日(火)午後9時からのハフライブでは、「新・ていねいな暮らしとエシカル消費(仮)」をテーマに、モデルでSDGsなどについて発信を続けているトラウデン直美さんをゲストにお迎えしてお届けします。