「桜を見る会」前夜祭における費用補填をめぐる問題で、東京地検特捜部が安倍晋三前首相本人から事情聴取する方向で「調整している」と報じられ、安倍氏が、衆院議員会館の事務所前で記者団に「聞いていない」と語ったと伝えられた時点で【「安倍前首相聴取」が“被疑者取調べ”でなければならない理由】と題する記事を投稿した。そこでは、その「調整」が、単なる時期の問題だけではなく、「被疑者としての取調べ」なのか、「参考人」としての事実確認」なのかが、聴取を行うことの意味自体に関わる重大な問題であることを指摘した。
12月21日に安倍氏の聴取が行われたこと、安倍氏の公設第一秘書が略式起訴の見通し、安倍氏は不起訴の見通しであることが、昨日、マスコミ各社で報じられた。
この報道では、
「政治資金規正法違反(不記載)容疑などで告発された安倍氏本人から任意で事情聴取した」
とされ、刑事処分についての「不起訴」という言葉も使われており、それらからすれば、「被疑者としての取調べ」のように思われる。
しかし、安倍氏に対して、黙秘権を告知した上で、その嫌疑について問い質すという本来の意味の「被疑者としての取調べ」が行われたのかどうか、この点は、検察への国民の信頼に関わる問題であるだけに、マスコミ各社は、検察当局からの十分な確認を行う必要がある。
【前記記事】でも述べたように、安倍氏が、国会で数限りなく吐き続けてきた「虚言」は、誰が考えてもウソだとわかる、子供じみたものだ。被疑者の取調べにおいて、安倍氏が、「費用の補填は知らなかった」などと弁解をしても、その不合理性、矛盾点を衝く「追及」を行って、「嘘」であることを認めさせることは、まともな特捜検事であれば、「いともたやすいこと」のように思える。
そこで、改めて確認する必要があるのは、安倍氏の聴取に関して行われていたとされる「調整」の中身だ。安倍氏を、単独で「特捜検事による追及」にさらすということであれば、真実を供述させられるリスクが極めて大きい。そこで、最初から、リスクをなくした上での「事情聴取」にするよう「調整」が行われたのではないか。
前首相だから、不合理な弁解に対しても、最初から追及すらしないという「大甘な」取扱いをしたとすれば、国民は到底納得しないであろう。
いずれにせよ、この「桜を見る会」前夜祭問題についての検察の捜査が終結し、刑事処分が決着すれば、安倍氏は、これまで、国会で「虚偽答弁」を重ねてきたことについて、国会で説明を行うことになる。
自民党内には、それを「非公開での安倍氏からの一方的な説明」で終わらせようとする動きがあるようだが、全く論外だ。国会の公開の場で、野党の質問に対して堂々と虚偽答弁をしていたのであるから、同様に、国会の公開の場で、野党の質問に対して、虚偽答弁についての弁明を行うのが当然だ。
しかし、安倍氏の説明が、たちどころに破綻することは必至だ。
もし、安倍氏が、費用補填を知らなかったとすると、実際には費用補填をしていたのに、安倍氏に対しては費用補填していないとの虚偽説明が行われていたことになる。それを、公設第一秘書が独断で行ったというのだろうか。
もし、そうだとすれば、毎年、「桜を見る会」の前夜祭で費用を補填していたのに、政治資金収支報告書に記載しないという「犯罪」を独断で行っていた秘書が、それについて安倍氏から説明を求められ、自己の犯罪発覚を免れるために虚偽説明をし、総理大臣に国会で数えきれない程の回数の虚偽答弁をさせたことになる。国会議員の公設秘書としてあるまじき行いをした大悪人であり、「憲政史上、最低・最悪の公設秘書」だったことになる。
そうであれば、その秘書を、国会で証人喚問、最低でも、参考人招致をして、なぜ、そのような、総理大臣に虚偽答弁させるという、秘書にあるまじき行為に及んだのかを説明させるのが当然だ(一般的には、議員秘書には直接説明を求めないというのがルールのようだが、それは、秘書が議員の指示に忠実に従うことが前提であり、独断で総理大臣に虚偽説明をして国会で虚偽答弁をさせた秘書の場合には、そのようなルールは適用されない)。
もちろん、虚偽説明をされたことを知った、「被害者」の安倍氏は、総理大臣としての重大な汚点となる虚偽答弁をさせた秘書に対して、「激怒」するのが当然だ。厳正な対応をすることになるはずだ。
公設秘書の身分はもともと極めて不安定なもので、当該国会議員が「解職届」を議長に提出するだけで、ただちに解雇される。公務員でありながら、公務員一般に適用される「懲戒免職」もない。それだけに、もし、独断で「虚偽説明」をして総理大臣に国会で虚偽答弁させたのであれば、そのような重大な職務義務違反をした公設秘書に対して、安倍氏はどのような対応をするのであろうか。
しかし、以上のことは、すべて「公設秘書が独断で安倍氏に虚偽説明をして国会で虚偽答弁させた」ということが前提だ。
問題は、果たして、その前提自体が正しいのかどうかだ。
そういう前提であれば、そもそも、公設秘書の処分も、略式起訴・罰金で済まされるはずはない。前夜祭の費用補填を独断で行い、それについて収支報告書不記載の罪を犯し、費用補填について安倍氏から質問されても虚偽説明をして安倍首相に国会で虚偽答弁させ、その後に、今年春に、安倍晋三後援会の収支報告書を提出に当たって、独断で、重ねて不記載の報告書を、安倍氏に無断で提出したということであり、犯罪の情状として最悪である。犯罪の隠蔽のために重ねて不記載罪を犯したのであれば、その総額が3000万円程度であっても、罰金刑で済まされるわけがない。
逆に言えば、もし、略式起訴で罰金刑で済まされるのであれば、検察も、収支報告書の不記載罪は、秘書の独断の「単独犯」ではないと判断していると見ることもできる。
私は、昨年11月の記事【「桜を見る会」前夜祭、安倍首相説明の「詰み」を盤面解説】で、「桜を見る会」問題に関して、違法行為を否定する説明が「詰んでいる」として、安倍首相が「説明不能」の状況に陥っていることを指摘した。それ以降、安倍首相は、「詰み」に「詰み」に、「詰み」を重ねてきた。検察を巻き込み、公設秘書を「大悪人」に仕立て上げ、さらに嘘を重ねるのであろうか。
(2020年12月23日の郷原信郎が斬る掲載記事「安倍氏公設秘書は、虚偽説明をして首相に「虚偽答弁」をさせた「大罪」を負うのか?」より転載。)