環境問題に取り組むモデルのトラウデン直美さんに対し、ネット上で批判的な声が上がっている。
トラウデンさんは12月17日にあったフォーラムで、「店員に『環境に配慮した商品ですか』と尋ねることで店側の意識も変わっていく」と自身の考えを述べたと報じられ、この発言が批判の対象となっている形だ。
どうしてこの発言を咎めるような声が上がるのだろうかーー。
気候科学者の江守正多さん(国立環境研究所 地球環境研究センター/副センター長)は、環境・気候変動問題について発信する人に対する、「ある種の典型的な反応」が存在するのだと指摘する。
どんな発言だったのか
トラウデンさんは、ファッション雑誌「CanCam」の専属モデルを務めるほか、広告やテレビ番組でも活躍している。環境問題についても発信を続けており、「環境省プラごみゼロアンバサダー」にも就任している。
トラウデンさんが出席したのは、12月17日に首相官邸であった「2050年カーボンニュートラル・全国フォーラム」。菅義偉首相、産業界や青年環境NGOの代表者、タレントの武井壮さんらが出席し、意見交換した。
この会合が同日夜のNHKのニュース番組で報じられると、出席者の1人であるトラウデンさんの発言にネット上で注目が集まった。
番組は、トラウデンさんの発言を文字で表示し、同じ内容をアナウンサーが読み上げる形で伝えた。文字の背景には、スーパーマーケットのレジとみられるイメージ画像が使われていた。
画面上に表示されたのは、下記の内容だ。
買い物をする際、店員に「環境に配慮した商品ですか」と尋ねることで店側の意識も変わっていく
消費活動についての意識の持ち方や、消費者の立場からできることの一例を提案した趣旨の発言とみられるが、ネット上では「世間知らず」「面倒くさい客」「店員がかわいそう」「自給自足生活しろ」などの声が向けられている。
なぜ、この発言が「批判の対象」となっているのだろうか。
この状況について、気候科学者の江守さんに話を聞いた。
「環境・気候変動問題について発信する人に対する、ある種の反応は典型的」
<江守正多(えもり・せいた)さん>
国立環境研究所 地球環境研究センター/副センター長。社会対話・協働推進オフィス(Twitter @taiwa_kankyo)代表。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。著書に、『異常気象と人類の選択』他。地球温暖化、気候危機に関して警鐘を鳴らし、気候変動に関する政府間パネル第5次、第6次評価報告書主執筆者をつとめる。
スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんに攻撃的な言葉が向けられてきたように、環境・気候変動問題について発信する人に対するある種の反応は典型的です。「そう言うなら、電気はまさか使いませんよね?」「CO2一切出さないってことですね?」というような内容です。
今回も「原始生活をすればいい」というような反応が上がっていて、実にティピカル(典型的)だなと思って見ています。これは現実的ではありませんよね。環境問題について真剣に調べて考えた上で反発しているとは思えません。基本的に、無関心な人の反応です。
気候変動に関連する発言にこういった反発を示す人の中には、「自分が批判されてる」と感じてしまう人や、「対策を強いられるのは負担だ」という「負担意識」を抱いてしまう人が一定数いると僕は考えています。しかも、今回のトラウデンさんの発言は、「全員やって下さい」と言ったわけではないでしょう。共感しない人は、行動しなければいいんです。
そのほかにも、色んな視点からトラウデンさんの発言に対して意見があるのだとは思いますが、トラウデンさんが環境問題に本質的な関心を持ち、「絶対に変えたい」という信念があるならば、発言を続けて欲しいと思っています。
発言する人に対する反発は、異なるテーマでも起きている。
社会の問題について発言する人に対する反発は、異なるテーマでも起きています。例えば、大坂なおみさんのBLM運動を支持する行動に対して、日本のネットではバッシングも多かった。あの状況では、大坂さんを支持していても、ネット上ではそういうことは言いにくいと感じた人もいたと思います。
同様に、今回もトラウデンさんの発言に共感したけども、黙っている人もいるでしょう。社会問題について意見した人に反発がこれだけ上がるのを目の前にしたら、「支持します」と書き込みにくいのは当然です。そうすると、支持者がいないように感じた著名人は、社会問題についてより発言しにくくなる。この構造については問題だと思っています。
全員を説得している時間は残されていない。
僕は、時間が無限にあるならば、色んな意見の人と対話して問題に取り組むのが理想だと思います。ただ、脱炭素はあと30年で実現しないといけない。なので残念ながら、関心がない人全てを説得する時間は残されていないんです。とはいえ、気候変動、脱炭素の問題は世界的な課題なので、いまは無関心な人、反発する人でも、いつかは巻き込まれていかざるをえなくなります。
社会変化の多くは、仕組みが変わって、人々がついて来る形で進むと僕は思っています。例えば分煙です。「ここ灰皿なくなったな」などと、気がついたら分煙になっていて、新しい常識に合わせて生活を変えた人が多いでしょう。でもその背景には、「嫌煙権訴訟」を起こした人たち、受動喫煙の健康被害問題に取り組んだ医師らなどの歩みがあるんですよ。なので、環境問題も問題意識のある人が本質的なアクションをとって、前に進めていくしかないと思っています。
そういう意味では、今回の政府のフォーラムにはもっと本気度を見せて欲しかったというのが本音です。今後は、より透明性と公開性を高くして、国民を巻き込んだ議論の場を作って欲しいと思っています。
(湊彬子 @minato_a1 ・ハフポスト日本版)