救急患者の受け入れを断られる「搬送困難事例」が増加、感染へのプレッシャーと強いストレス、物資の高騰…。
医療機関や福祉施設への支援に取り組む医師たちが、新型コロナウイルスの第3波に見舞われる医療現場の実態を報告した。コロナの全国的な感染拡大に歯止めがかからない中、医療スタッフの精神的ストレスや経営難、マンパワー不足などに見舞われ急速にひっ迫する医療現場の実態が浮かび上がった。
搬送困難事例が増えている
オンラインで報告会を開いたのは、被災地や紛争地などで人道支援に当たるNPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」(広島県)。ピースウィンズ・ジャパンなど3つの支援団体でつくる「空飛ぶ捜索医療団ARROWS」リーダーで医師の稲葉基高氏は、地方の救急医療の現場について「この1、2週間で切迫度が一気に増している」と明かした。
「10数年前に比べて、最近は救急システムの整備が進んだこともあり、救急の患者がたらい回しにされることはかなり減っていた。それが現在、以前の状況に戻って搬送困難事例が増えています。どこにも救急車を受け入れるところがなく5、6件断られることもあります」
「冬は特に、脳卒中や心筋梗塞、心不全での搬送例が増える。救命の現場は普段からぎりぎりのシステムで維持していたのが、このコロナで保てなくなっているのです」
医療用手袋「価格が5〜7倍」
ピースウィンズ・ジャパンは12月14日〜16日、全国の医療機関や福祉・介護施設を対象にネット上でアンケートを行い、計622施設から回答があった。
第3波の感染拡大後の収益の変化を尋ねると、医療施設の85.4%が前年同期に比べて減少したと答えていた。うち14.6%が4割以上減ったと答えていた。
必要な支援では、「物資」が最も多かった。具体的には、医療用手袋、消毒用アルコール、N95マスクや医療用マスクーーの順で回答が多かった。
ARROWSの医師、坂田大三氏によると、医療用手袋の値段は現在5〜7倍程度に上がっていると感じるという。「収益が落ちている医療機関や施設にとって、医療用手袋の価格高騰は大きな打撃になっている。以前マスクで起きていたことがまた起きています」
コロナへの感染不安から、患者の受診控えや、それに伴う医療機関の収益減も問題になっている。
アンケートの自由回答では、「コロナ疑いの患者を診察しているため、一般の患者の受診が減少し、経営的に厳しい。無床診療所には行政からの慰労金では焼け石に水で、使命感だけで診療している」といった声も寄せられた。
医療従事者数の変化について、第3波の感染拡大を受けて「スタッフ数が減った」と答えた医療機関は約2割に上った。
坂田氏は「感染拡大後の離職は、医療機関、介護・福祉施設にとって非常に大きな問題になっていて、医療状況を圧迫している理由の一つになっている。過労や風評被害が離職の大きな原因と言えます」と報告した。
GoToの旅行者たちが感染
医療従事者たちが抱える強いストレスは、感染リスクへの緊張感だけではない。報告会で発言した認定NPO法人「災害人道医療支援会(HuMA)」理事で医師の夏川知輝氏は、GoToキャンペーンを利用した人が感染し、入院するケースが増えているとして、次のように指摘した。
「医療従事者は、コロナに感染して患者にうつしてはいけないので、会食や旅行に行ってはいけないとしています。それでも、GoToで会食や旅行に行って感染した人たちが病院にどんどん来る」
「医師や看護師は、働く時間も伸びていても、そうしたストレス発散できる機会が乏しい。さらに病院の収益が下がっているのでボーナスも下がる。GoToでみなさんが楽しく過ごされる時、すごく複雑な思いをする。そこに対しての気の持ち方は非常に厳しく、ストレスが一番大きい点に思います」
「コロナにならない」以外にできること
医療機関が切迫する中、私たちに何ができるのか?
稲葉医師は、「今の医療危機の中で、一般の方ができることはかなりたくさんある。コロナにかからないことだけではありません」と話す。
「病気や怪我をしないことがすごく大事。交通事故を起こさない、糖尿病や高血圧などの持病がある人は、かかりつけ医を受診するなどきちんとメンテナンスをする。慢性疾患を悪化させて、病院に運ばれる状況にならないよう健康管理してほしい。救急を忙しくしないようにしていただくことは、誰でもできる非常に重要な協力です」
ピースウィンズ・ジャパンは、ふるさと納税を通じた活動支援の寄付を募っている。
(國崎万智@machiruda0702・ハフポスト)