「産めない」と「産まない」の大きな違いを経験して…。それでも今は後悔していない。

様々な事情から未婚もしくは結婚していても子どものいない女性が集まり、話をする会を開催している「マダネプロジェクト」。主宰者のくどうみやこさんにご自身の「子どものいない人生」について、話を聞いた。
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43歳の誕生日を迎えた朝、相変わらず未婚である私は子どもを持つことを諦めた。

「子どものいない人生を送るんだ、私は」

そう呟いて、その言葉の重さに自分で驚いた。

 

それからしばらくして、私は「マダネ プロジェクト」の存在を知った。

様々な事情から、未婚もしくは結婚していても子どものいない女性。そんな「子どものいない人生」を送ることになった人たちが集まって、それぞれの思いを語り合ったり、耳を傾けたりする会などを開催しているのだという。

 

その主宰者が、くどうみやこさんだ。

自身も子どもがいない人生を送っている。

 

子どもを持たない覚悟を決めた私は、どうしてもくどうさんに話をきいてみたくなった。

前編では、くどうさん自身の「子どものいない人生」について、後編では「マダネ プロジェクト」に集う女性たちの不安や葛藤について話を聞いた。

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「マダネ プロジェクト」の主宰者・くどうみやこさん

 

 ――私は強い結婚願望や子どもをもちたいという気持ちを持たず、日々を普通に送っていたら未婚・子なしになっていました。くどうさんご自身は、ご結婚はされていて、子どもはいらっしゃらないとのことですが、若い頃、結婚や出産にどんな思いを持っていましたか?

小さい頃は、20代半ばまでには結婚して、子どもは2人くらいほしいなと漠然と思っていました。ある程度の年齢になっても、結婚して、子どもがいるという以外の人生を全く想像していなかった。当たり前のように結婚して、子どもを生む人生を歩んでいるだろうと思っていました。

それが、20代になりメーカーの広告宣伝部に就職して、アパレルのプレスに転職し「25歳くらいには結婚を」と思っていたのが、あっという間に28歳、29歳に。「もう30歳になっちゃう!」と思いながらも、30歳を過ぎてしまったら、なんだか山をひとつ超えた気がして、「いつか結婚すればいいか」と、少し結婚に対する思いが落ち着きました。

 

――ご両親からのプレッシャーなどはなかったんですか?

親はすごく気にしていましたね。昭和の価値観を持っている両親ですから、私が30歳になったときに「娘が30歳を超えてしまった」と急に焦り出して、「どうなの? 結婚する気はあるの?」とせっつくようになりました。

当時、長くお付き合いしていた人がいたので、お互いの両親から「ちょっとあんたたち、長く付き合っているのに、30歳をすぎてどういうつもりなんだ」と言われたり、私を飛び越して、うちの親が彼に結婚の予定を問いただしてしまったり…。

私としては「いつかするんだから」と思っていたけれど、親の圧に負けるようにして31歳の時に結婚しました。相手のお父様が定年を迎えられる年で、自分が現役でいる間に結婚して欲しいと懇願されたのもありまして。それを叶える部分もあって…。 

 

――結婚をしたら、次は子どもとなりますよね?

子どもも、結婚と同じように、いずれは持ちたいとの思いはあったけれど、すぐ欲しいとは思いませんでした。結婚後しばらくして、フリーランスとして独立したこともあり、会社員と違って出産したら、仕事に戻れる保証はないし、収入がゼロになってしまうし、フリーの仕事がどんどん増えていくにつれ「(出産は)今は困るな」と思うようになっていきました。だから子どもは欲しいけれど、先延ばしという状態が続いていて。

もちろん自然にできたら、うれしいなという思いもあったのですが、自然にできる気配もないまま時は過ぎ…、35歳を迎え、38歳、39歳くらいになったときに、「もしかしたら、私、子どもができなくて、子どものいない人生を送ることになるのかもしれない」という考えがちょっと脳裏をよぎりましたね。ただ、その頃の私は「どうしても欲しい」とか「子どもがいない人生なんて考えられない」と思っていなくて、どっちでもありかな、いない人生でもいいのかもと。

 

――パートナーの方は、子どもについて何かおっしゃったりはしなかったんですか?

お互いほしいね、とは言っていました。ただ結婚後、年を重ねても、「(子どもが)なかなかできないね」とは思いながらも、かといって病院に行って不妊治療をしましょうというところまではいかなかったんです。親は、結婚してだいぶ経つけどできないから、病院に行ってみたらと心配していたけど、私たち夫婦は自然に任せよう、という思いでいました。

 

――私自身、そうだったのですが、子どもに関しては40歳という年齢って、精神的にもかなり大きな分岐点になると思うのですが。

そうですね。40歳を超えた頃から「これは、子どものいない人生を送る可能性が高まってしまったな」と思っていました。

そして、そのしばらく後に、子宮の病気が発覚して…。「もう子どもは産めません」と確定したんです。40歳を過ぎていましたから、妊娠・出産できる確率は低かったと思いますが、それでもゼロではない。少しでも可能性があるのと、「もう産めない」と確定した時の気持ちの落差は、とてつもなく大きなものでした。「産まない」と「産めない」のでは、こんなに違うんだ。あー、なんで子どものことをずっと先延ばしにしてきたんだろう、真剣に向き合わず、体のことも放ったらかしにしてきてしまったんだろうと、いろんな思いがこみ上げてきて。後悔というか、現実を初めて突きつけられました。

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 ――すごく子どもが欲しいと思っていなかったくどうさんでも、「後悔」を感じたんですね。

そうですね、「産めません」と実際に言われるとすごくショックを受けた自分がいましたね。

 

――私は43歳になって「もう諦めた」と周りに言っているんですけど、「まだ43なら大丈夫だよ」という人もいます。けれど「いや、でもね」と現実的に考えている自分もいるんですよね。「このままひとりだろうな」という気持ちと「まだ産める」という周りの声の間で期待と諦めがぐちゃぐちゃになったような気持ちになってしまうんですよ。

「可能性がある」ということと「ない」のとでは気持ちが違いますよね。

私は病院で、まだ30代で結婚していなくて、病気のために産めなくなってしまったと泣き崩れている女性にあったことがあるのですが、彼女の気持ちを思ったら辛くてもらい泣きしてしまいました。

ただ私の場合、「産めない」とわかった瞬間はすごくショックだったんですけど、年齢的に40歳を超えた段階での出来事だったので、病気関係なく、できなかったんじゃないのかなと思えたから、現実を受け入れやすかった部分はありました。

もちろん、かなり精神的に落ち込んだし、時間もある程度はかかったけど、「もう産めないものはしょうがない」って思って。確定しちゃったのだから、子どものいない人生を歩んでいくしかないのだから、その人生をどう楽しんでいくかという方に気持ちが変わっていきました。

 

――そんな風に思えた理由はどこにあるのでしょう?

私自身の性格もあるでしょうし、もうひとつ大きな要因として、不妊治療をしてなかったからだと思います。いてもいなくても、どっちでもいいと思っていたことも、大きく影響しているでしょう。

「子どものいない人生を歩んでいきます」となった時に、自分の性格やライフスタイルを考えたら、そういう人生の方が自分に合っているんじゃないかなと思えるようになったんです。

私は1人の時間が好き。結婚していても、1人の時間は欲しいタイプです。もし子どもがいたら、そういう時間をもちづらくなってしまうだろうし、すごく心配性だから、子どものことばかり考えて、いつもソワソワしてしまって、子どもがいることによって生じる不安に耐えられなかったかもしれない。

――「産めない」を乗り越えたんですね。

そうですね。もう、子どものいない人生がこれからずっと続いていくのだから、前向きに生きていくことを考えようと思ったときに、自分と同じ立場の人の気持ちを聞いてみたいと感じたんですね。そうして立ち上げたのが「マダネ プロジェクト」です。

 

――子どものいない人生は淋しいとか、介護をさせるために子どもがいるわけではないけれど、子どもがいないと老後が不安などと言われることもありますが、そういったことについてはどう思われていますか?

1人でも好きなことをやって生きていけるタイプだから、淋しさに関してはあまり心配していないけれど、たしかに老後、というか自分が年老いた時に気がかりな部分はあります。例えば、親が病気になったとき、入院や手術の手続きとか付き添いとか、自分が病院に行ったりしますが、「私の時は誰が?」と思ったり。

年老いて判断能力がおちてきたとき、「老人ホームや介護施設はどこがいいんだろう」などといった判断は誰がしてくれるんだろうとか思ったりはしますね。

 

――そういう心配や不安への対策は考えていますか?

血縁じゃない人と助け合うとか行政や一般のサービスを利用するとか、対策は早めに考えておこうとは思っています。ただ、私、子どもが産めないと確定したときに、子どもがいない人生はどういう風になるのかいろいろ調べる中で、終活アドバイザーという資格を知ったんです。それで勉強して、資格をとり、老後の準備は少しずつしたりはしています。

子どものいる人は、子育てを通じて得ることはたくさんあるでしょうし、自分が成長できる機会も得られると思うんです。それを経験できなかったので、素直にうらやましいと感じるところはあります。

でも、子どもがいない人は自分を成長させるための別のメソッドがあるんだと思うんですよ。子育てだけが、人として成長するメソッドではない。だから私には違うメソッドを与えられているんだろうなと。

そして、子育てにかかる時間やエネルギーが免除されたとも私は考えているんです。だからその大変さを免除されたのだから、自分にそれを使うのもいいけれど、社会のため、誰かのために使うと自分の肯定感も高まって、人生がより豊かになるよと「マダネ プロジェクト」を通じて伝えていきたいです。

 

(取材・文:榊原すずみ/ハフポスト日本版)