Jリーグは、コロナ禍で『2つの問題』に頭を悩ませている。
ひとつは、リーグ中断で離れた観客が、スタジアムに戻ってこないこと。
ハフポスト日本版が今回実施したアンケート調査で、J1とJ2の4クラブは、50%の入場者数制限下でも「満員にならない」と悲鳴をあげている。
もうひとつは、新たな収入源の強化・確保だ。
4クラブは軒並み減収見込み。観客激減で入場料収入があてにできなくなり、代わりの収入源をどう生み出せばいいのか。
多数の米プロスポーツリーグやチームのライセンス商品を手掛ける「ファナティクス」の日本法人の川名正憲代表は「需要を予測するのではなく、追いかけられる体制を構築することが必要」と指摘する。
今季の集客状況は?
ハフポスト日本版は、運営費などの調達にクラウドファンディング「READYFOR」を利用した8クラブを対象に、コロナ禍の財政状況や感染予防についてアンケート調査を実施。
回答があった4クラブ(名古屋グランパス、ギラヴァンツ北九州、サンフレッチェ広島、鹿島アントラーズ)は、観客数や収入見込みが大幅なマイナスだと明かした。
まず、今季のJリーグの流れをざっと振り返る。
2月末:J1、J2開幕、数日後に中断
6、7月:J2、J1の順で再開(無観客)
7月:観客有りで試合開催(上限5000人)
9月:観客数上限の引き上げ(収容人数の50%以内)
今季の集客状況について、4クラブいずれも、50%の観客数制限下でさえも「満員にならなかった」と口を揃える。
J1屈指の名門・鹿島アントラーズも苦戦し、「週末開催は観客の入りが比較的戻りつつあるが、入場制限(約2万人)の下でも完売になっていない。平日は特に厳しい」と漏らす。
名古屋グランパスも「コロナ禍で考えると多くのお客さまにご来場いただいている」と断った上で、「50%収容でもスタジアムは満員にならず、潜在的な不安感があると感じる」と打ち明ける。
サンフレッチェ広島は、今季の観客動員は7万2000人と低迷。前年比73%減の大幅マイナスで「土日開催でも5000人前後の動員で厳しい」と訴える。
J2ギラヴァンツ北九州は、「収容率50%」の7500人に対して、来場者は半分程度。「感染の心配や、声を出せないなどの制約下での観戦で観客は戻ってこない」と頭を抱えている。
Jリーグは、50%の入場者数制限は2021年2月末まで継続すると決定し、観客減は2月に開幕予定の来シーズンも続くと予想される。
減収見込みは?
各クラブ、コロナ禍の減収見込みはそれぞれ数億〜十数億規模になるという。観客数の大幅減は、入場料に加えて、物販やスタジアム広告収入などにも影響している。
各クラブがアンケートで回答した、具体的な減収見込みは次の通り。
・グランパス:前年比14〜19億円の減収
・サンフレッチェ
前年比約4億2800億円の減収(入場料:51%減、物販:21%減、スクール:28%減、試合会場関連:75%減)
※全体では約7億の減収(CFページより)
・アントラーズ:非開示(1月期の決算報告前のため)
※前年の入場料、物販、スポンサー収入の合計41億円について、減少する可能性があると説明。(CFページより)
・ギラヴァンツ
前年度の収入は8億円。今季からJ2昇格で10%増収の見込みだったが、コロナ禍で当初予算からは10%程度の減収の見込み。
「本来であれば入場料収入を軸に予算を上回る増収を見込めたはずだった」
新たな収益源を模索するクラブ
減収見込みに対して、各クラブは新たな収入源などを模索、実践してきた。
サンフレッチェ広島は「SAVE HIROSHIMA」Tシャツの販売し、売上の一部をコロナ対策費として寄付した。
アントラーズは、Jリーグ初となる「投げ銭」企画を導入。リーグが中断した5月、過去のアーカイブ映像を観戦する「鹿ライブ」を開催し、サポーターとの交流や支援の場を設けた。
アパレルブランド「F.D.」の立ち上げや有料オンラインのフィットネスプログラムと、苦しい中で新たな体験・価値や収益軸を生み出した。
「投げ銭」は他クラブに広がり、グランパスは、初優勝を決めた2010年の試合を振り返る配信などで導入した。
ギラヴァンツもリーグ再開後、リモート観戦しながらアプリで投げ銭ができる応援企画を実施。たるを募金箱に見立てた「たる募金」も実施した。
需要の予測 < 追いかけられる体制
ファナティクス・ジャパンの川名代表によると、グッズ売上はスタジアム販売が大半を占め、プロ野球で6〜8割、Jリーグで5〜7割程度という。
コロナ禍で大幅な影響を受けた一方で「家での観戦需要を捉えて、イーコマース(EC)での販売を伸ばしている球団・クラブも多い」と説明する。
プロ野球日本シリーズを制覇した福岡ソフトバンクホークスは、公式オンラインストアが倍近くに成長。EC比率が高い海外では、ファナティクス社が運営するアメリカ4大リーグなどのオンラインストアでの販売が「前年比平均で3割程度増えた」という。
川名代表は、ライセンス商品などの観点から「需要を予測するのではなく、追いかけられる体制を構築することが必要」と指摘する。
「スポーツでは、誰が活躍するかや、自チームの勝敗・優勝の予測は困難。そんな時、発注から納品までの時間が長いと在庫リスクになり、逆に様子を見ながらの受注生産では、確実に機会損失がおきます」
「特に優勝や記録達成のような『ホット』な賞味期限は短く、達成後48時間以内に60〜70%の需要がうまれます。この時にいかに客側のオプションを増やし、短期で届けられるかが大事です」
選手の給与カット、職員の人員削減は?
新型コロナの影響による失業者は7万人を超えている。
ロイターの10月企業調査では、コロナで雇用や賃金に影響があったと答えたのは47%。影響があった企業の約3割が、賃金カットや人員削減をしたと回答している。
Jリーグはどうか。アンケートでは、コロナが雇用や給与に与えた影響として、以下の2点を聞いた。
・選手や監督の給与カットの有無
・クラブ従業員の人員削減の有無
どちらの質問にも、「ある」と答えたクラブはなかった。
また、クラブ従業員への給与保証の有無を尋ねると、「ない」と答えたクラブはなかった。
リーグ中断に伴う給与カットは、海外リーグで議論を呼んだ問題だ。
スペインやイタリアで選手が合意したクラブもあれば、英プレミアリーグでは選手会が反対。日本では、J1コンサドーレ札幌に所属する全28選手が、4月〜9月の期間の報酬の一部返納を申し出た。
職員の給与保証については、アメリカのプロ野球メジャーリーグ(MLB)で、23球団が表明した。
「クラブ存続が危なくなる可能性」
各クラブが「最後の手段」として助けを求めたクラウドファンディング(CF)には、多くの寄付金が届いた。
特にアンドラーズは、スポーツカテゴリー国内最高額の1億3090万円。「クラブ創設時から重ねてきた地域貢献活動」に助けられたと振り返っている。
名古屋グランパスは「クラブ存続が非常に危なくなる可能性がある」という危機感から、2回実施。計6860万円が集まった。
READYFORによると、各クラブのCFは以下の通り。
クラブ名 / 金額 / 支援者 / 期間
▽サンフレッチェ広島 / 3872万780円 / 1056人 / 11月20日〜12月25日(実施中)
▽名古屋グランパス(第二弾)1015万円 / 284人 / 11月1日〜12月19日
名古屋グランパス / 5850万8434円 / 2891人 / 2020年8〜9月
▽ギラヴァンツ北九州 / 1616万3000円 / 686人 / 2020年7〜8月
▽鹿島アントラーズ / 1億3090万円 / 2599人 / 2020年6〜7月
収容率100%と感染防止、両立できる?
コロナ禍のJリーグは閉幕。大勢の人たちが集まるイベントとして、各クラブは難しいかじ取りを迫られた。
アンケートで、スタジアムでの感染予防策の心がけや負担を尋ねると、人繰りや人件費の増加があげられた。
サンフレッチェは「検温、消毒実施の為のアルバイト人件費が増加」と回答。ギラヴァンツも「観戦時に大声を出さないよう注意する係を増やしている」と答えた。
またアントラーズは「スタジアムは密で、感染リスクがあるのではというイメージを取り除くことに腐心した」と説明。来場者の不安を取り除くため、スタジアムでの感染予防対策を伝える動画を作成、公開している。
来季のJリーグは例年通り2月開幕の予定で、収容率50%の入場者数制限は21年2月末まで継続すると決まった。
アンケートは最後に、今後入場者数制限が撤廃された場合、安全を確保しながら観客100%入れるのは可能だと思うかを尋ねた。
回答はそれぞれ、「思う」(サンフレッチェ)、「思わない」(ギラヴァンツ)、「分からない」(グランパス、アントラーズ)だった。
理由について、サンフレッチェは「屋外でマスク着用の場合は、感染リスクは限りなく低いと感染症専門医師から見解をいただいている」と回答。
ギラヴァンツは「座席間隔が狭いため。100%可にしても観客が増えるわけではない。 もし、スタジアムでクラスターが発生したら、更に入場マインドを下げてしまう」と答えた。