コロナ禍が、非正規雇用の労働者に大きな被害をもたらしている。特に、非正規で働く割合が高い女性たちへの深刻な影響が指摘されている。
実態調査を行った研究員は、「女性の非正規雇用労働者の割合が高いという構造的な問題の改革が必要」だと警鐘を鳴らす。
非正規雇用の労働者は9カ月連続で減少
総務省が12月25日に公表した11月の労働力調査によると、非正規で働く労働者数は2124万人。前年同月に比べて62万人減少し、9カ月連続の減少となった。男女別では、非正規雇用の男性が25万人減少、女性が37万人の減少となっている。
産業別の就業者数を見てみると、特に宿泊・飲食サービス業、製造業などの減少幅が大きい。
独立行政法人の労働政策研究・研修機構(JILPT)は、コロナ禍における雇用の影響について、NHKと共同で大規模な調査を実施。民間企業に務める20〜64歳の男女雇用者約6万7800人のうち、コロナ禍で失業や休業など雇用に何らかの影響があった4000人、影響がなかった1000人を抽出し、実態調査を行った。
女性への雇用の影響に注目した調査結果によると、4月以降に解雇や雇い止めにあった割合は、女性が男性の1.2倍だった。また、自ら離職した女性は、男性よりも2.5倍もの高い割合で仕事も求職活動もしない「非労働力化」しているという。
子育て中の女性への打撃
調査を手掛けた労働政策研究・研修機構の周燕飛(しゅう・えんび)主任研究員は、「女性の就業者が多い対面型のサービス内需産業が不況に見舞われていることが原因の一つ」だと指摘する。
女性は非正規雇用や低収入層の割合が男性と比べて高い。低収入層は解雇や雇い止めなどの影響を受けやすく、女性の雇用状況の悪化につながっている。
特に大きな打撃を受けているのが、子育て中の女性たちだ。
外食の減少や、保育園や学校の休園、休校にともない家事や育児の負担が増加。緊急事態宣言は5月下旬に解除され、多くの保育園・小中高校は夏にかけて再開されたが、学校再開後も全体と比べて子育て女性の仕事復帰は著しく遅い。分散登校や保育園の自粛要請などが続き、子育て中の女性への負担が改善されていない可能性がある。
JILPTの調査によると、緊急事態宣言期間中は、子育て男性の家事・育児時間が26分ほど増えたという。しかし、現在は通常月の水準に戻っている。
周さんは、「家庭内の男女役割分業慣行がなかなか変えられない『壁』の存在が垣間見える」と指摘。「男女が家事や育児をフェアに分担しているのではなく、女性により大きな負担が課せられている。仕事か家庭か、二者択一の選択を迫られるようになり、自ら就業を控える女性も一定割合で増えている」と話した。
メンタルヘルスへの影響も深刻
女性のメンタルヘルスへの影響も深刻だ。周さんがさらに調査結果を集計したところ、解雇・雇い止めにあった女性のうち、12.8%が「うつ状態」と診断されたと回答したという。
「非常に高い割合で、今回のコロナで雇用に大きな影響を受けている女性は精神的にかなり追い詰められている。自殺の予備軍になっているといっても過言ではない」と危機感を募らせた。
コロナ禍による事業縮小、雇用調整などの経済的なダメージは長期化が見込まれている。周さんは直近の支援として、転職サポートや職業訓練を強化することも大事だが、「構造的な改革が必要」だと指摘した。
「そもそも女性が低賃金で不安定な非正規就業につきやすいというところに問題があり、これは過去10年、20年ずっと叫ばれ続けたこと。女性の雇用は増えているものの、非正規率が高く条件が良い仕事に就けないという構造的な問題が今回のコロナ禍で露呈したといえる。今までは見送られてきたものの、構造的な改革をしなければ大変なことになるという局面を迎えている。このコロナ禍を機に行政は本格的に改革に取り組むべきです」