世界中で約150万人の犠牲者を出した、新型コロナウイルス。英国では来週から米製薬大手ファイザーとドイツのビオンテックが開発したワクチンの接種が始まる。
英国をはじめ、米国、カナダ、オーストラリア、欧州連合(EU)、日本などが開発中の複数のワクチンを注文しており、必要な治験やそれぞれの国の医療当局による承認を経て、接種の段階に進む見込みだ。
ワクチンは先進国のみならず、世界中で公平に利用されることになるだろうか。
国際的なワクチン購入システム「COVAX」については先に紹介したが、英国でのワクチン接種が目前に迫った今、改めて受注状況や今後の見通しに注目してみた。
情報は主として、英ネイチャー誌の関連記事、11月30日付や英下院がまとめた資料から得た。ワクチンの注文・供給・その効果についての評価は日々変化しており、情報は上記の記事が書かれた時点(11月)のものであることをご留意いただきたい。
来年末には世界の3分の1以上が接種可能か
ネイチャー誌の記事によると、すでに最終段階の治験に入ったワクチンメーカーのすべてが供給を開始すれば、来年末までには世界の人口の3分の1がワクチンにアクセスできるようになるという。
しかし、記事の中で紹介された米デューク大学の調べ(11月9日発表、調査自体は10月)では、低所得国の大部分の人は2023-24年まで待たざるを得なくなる。
生命科学分野の情報分析企業である英「エアフィニティ」は、先行する英アストラゼネカとオックスフォード大学のワクチン、米ファイザーとビオンテックのワクチン、米モデルナのワクチンを総合すると、来年中に53億回分の供給が可能と推定する。アストラゼネカのワクチンは一人が2回打つ必要があり、これを加味すると少なく見積もって26億人、多く見積もれば31億人が接種できるという。また、ロシアで開発中のワクチンは来年から国外向けに年間5億人への提供が可能となっている。
こうしたワクチンの約半分を27か国加盟の欧州連合(EU)と裕福な国5カ国(カナダ、米国、英国、オーストラリア、日本)が先行発注している(11月19日時点、エアフィニティの調査による)。それぞれの購入契約書の中にはさらに追加注文する項目も入っている場合があるという。ちなみに、EUと5カ国の人口は世界の総人口の13%を占める。
エアフィニティは、ワクチンを国民一人当たり何回分先行注文したか及び追加で何回分注文するかを推測し、国別ランキングを作成している。トップはカナダ。一人当たり約8回分を先行注文しているという(追加の推定注文分を加えると9回分)。
上記のグラフをどのように解釈するかは、人によって様々だ。
デューク大学のアンドレア・テイラー氏は、「カナダは高所得の国がやりそうなことをやったまでだ。自国にとって最善の選択肢を選んだ」と見る(ネイチャーの記事の中の発言)。
ワクチンの調達には、その国に生産体制があるかどうかも関係してくる。例えば、インド政府は20億回分を超えるワクチンを注文しているが、国内にワクチン生産では世界最大手のセラム・インスティチュート・オブ・インディアがあるという強みがある。
ネイチャーの見立てによると、短期的に供給に不備が生じる可能性があるのは「低所得・中所得の国」だ。その大部分が国際的なワクチン購入の仕組み「COVAX」を利用することになるが、これまでに注文したのは7億回分だけで、来年中に20億回分、あるいはこの仕組みに参加する190近くの国の人口の20%にワクチンを提供するという目標の到達には程遠い。
また、価格もネックになりそうだ。アストラゼネカ社は1回分3-4ドル(約300-400円)で提供する予定で、この金額はファイザーやモデルナ社のワクチンよりもはるかに低いと言われている。また、アストラゼネカは新型コロナのワクチン提供を「このパンデミックが続く限り、非営利を基本」とし、低中所得の国向けには「永久的にそうする」と述べている。ネイチャー誌は、「ほかの製薬会社はこうした誓いを表明していない」と指摘している。
改めて繰り返すが、コロナのワクチン状況は非常に速いスピードで展開しており、以上はあくまでも11月時点での情報に基づいている。
ワクチンの利用については、まだまだ「早期」の段階であり、世界中での公平な利用に向けて進むことを望みたい。
(2020年12月7日の「小林恭子の英国メディア・ウオッチ」掲載記事「コロナワクチン、開発途上国への供給はどうなる? 英「ネイチャー」の報告」より転載。)