「私のもう半分は何?」と葛藤...精子提供で生まれた子ら、民法特例法案の修正求めて会見

今国会で成立する見通しの民法特例法案。自助グループや専門家は、子どもの「出自を知る権利」などを盛り込むよう求めている
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記者会見する石塚幸子さん (手前)
撮影:國崎万智

第三者から精子や卵子の提供を受けて生まれた子どもの親子関係を定める民法特例法案をめぐり、精子提供で生まれた人たちや専門家らが11月24日、記者会見を開き、子どもの「出自を知る権利」などを法案に盛り込むよう訴えた。

特例法案は、20日に参院本会議で賛成多数で可決された。今国会中に成立する見通しとなっている

 

ドナー分からず苦悩

何が問題になっているのか?

法案は、ドナーから提供を受けて生まれた子の親子関係について、

・女性が、自分以外の女性から卵子の提供を受けて出産した場合は、出産した女性を子どもの「母」とする

・妻が夫の同意を得て、夫以外の精子の提供を受けて出産した場合、夫はその子が嫡出であることを否認できない

と定めている。一方で、ドナーに関する情報の保管や、ドナー情報の子どもへの開示手続きには規定せず、附則で「おおむね2年をめどに検討」との記載にとどまる。子どもの「出自を知る権利」は後回しにした格好だ。

会見には、非配偶者間人工授精(AID)で生まれた人の自助グループDOGのメンバーなどが出席。メンバーの女性は、親の離婚の際、自身が精子提供を受けて生まれ、父親と血がつながっていないことを告げられた。

女性は当時、すでに結婚し子どもがいた。親から出自を隠され続けたことへの怒りや喪失感、ドナーが誰かが分からないことに苦しんだという。「事実を聞くまでの人生が手からこぼれ落ちる感覚。孤独を感じ、私のもう半分は何なんだろうと葛藤しました」

「欠けた自分の半分が知りたい。提供者を知ることができるなら、心の整理ができる。この技術で生まれてくる子どもたちに、同じような苦しい思いをしてほしくないのです」

 

「親の告知」が両輪

DOGメンバーの石塚幸子さんは、出自を知る権利には、『親からの告知』『子どもが提供者の情報を得る』の2段階があると説明。「親からの告知が早い時期に、また適切にされれば、親子間の信頼関係が傷を負うことなくなるのでは」と訴える。

「自助グループのメンバーのほとんどが、成人後に突然事実を知らされた。告知の時期が遅いので、長い間事実を隠されてきて親に裏切られたと感じている人も多い。事実を伏せようとする親の態度から、子どもが『親自身も後ろめたく、恥じているのでは』と感じ、自分を肯定的に受け止められないことにもなる」(石塚さん)

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民法特例法案の問題点を訴える柘植あづみ氏
撮影:國崎万智

2003年の報告書から大きく後退

「出自を知る権利」をめぐっては、国内でも長年にわたって議論されてきた。

・子は15歳に達すると、ドナーを特定できる情報の開示を請求できる

・開示の際は公的機関が子の相談に応じ、カウンセリングの機会が保障されていると伝える

ことなどを明記。「生まれてくる子の福祉を優先する」との基本的考えに基づき、子の権利を最大限尊重する内容だったが、その後法制化には至らなかった。 

「出自を知る権利」を法的に保障する動きは海外で進んでいる。イギリスやニュージーランド、オーストラリア・ビクトリア州などでは、一定年齢に達し、子ども本人が希望した場合、ドナーを特定できる情報へのアクセスが認められている。

 

商業的なあっせんの懸念も

法案の成立によって、第三者を介する生殖補助医療が法的に認められることになる。会見では、「出自を知る権利」以外のさまざまな問題についても指摘された。

明治学院大の柘植あづみ教授は、「法案では、提供者の優生学的な選別や、商業的なあっせんを避けるための議論がされていない。さらに、シングル女性や同性カップルなどどういった人がドナー提供を受けられるか、ドナーの法的位置付けといった問題についても定められていません」と指摘。「これらの議論を(附則の)2年で完結することはとてもできない」として、拙速な法案成立への懸念を示した。