「苦しく先が見えないことが不安」「なぜ夫が児童手当を受け取り続けるのか」ーー。
配偶者からの暴力(DV)などを理由に、離婚が未成立ながら別居中で、実質的に「ひとり親」の状況にある家庭。その多くが困窮状態にあることが支援団体の調査でわかった。
調査では、そうした家庭の7割以上が年収200万円未満。一方で、支援となるはずの児童手当を受給できていない家庭など、制度のすきまに落ちているケースがあることもわかり、支援団体は制度の改善を訴えた。
調査はNPO法人「フローレンス」や「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」らが共同で行った。対象は、子供を連れて配偶者と別居しているなど、実質的に「ひとり親」の状態にあるが、まだ離婚の手続きが成立していない家庭。
その背景には、DVによって避難していたり、離婚に向けた手続きの協力が配偶者から得られなかったりと、様々な事情がある。
ネット調査で「困窮」明らかに
9月にネットで行われた調査では、262人の別居中・離婚前のひとり親から有効回答を得た。その98.1%とほとんどが母子世帯。
その中で、2019年度の年収について調査したところ、200万円未満との回答が71.8%だった。一般の母子世帯での調査ではこの割合は51.8%(厚労省調査)で、今回の調査の回答者はより困窮している家庭が多いことが明らかになった。
さらに、新型コロナの影響もあった。コロナの影響で「生活が苦しくなった」と感じている家庭は回答者の7割、直近3カ月(6〜8月)の収入が15万円未満が約7割で、2割は無収入だった。
相手からのDVを経験した人は72.1%。別居期間が1年以上続いている家庭も6割以上で、中には11年以上別居中との回答も。経済面だけでなく精神面でも長期にわたって不安定な状態にあることも明らかになった。
しかし「児童手当」受け取れないが2割近く
それに対して、中学生以下の子供に対する補助制度「児童手当」を受け取っていないと答えたのは18.1%にのぼった。
児童手当は1人当たり最大で月に1万5000円を受け取ることができ、困窮している家庭にとっては大きな収入源となる。
児童手当は「父母が離婚協議中などにより別居している場合は、児童と同居している方に優先的に支給する」という定めとなっているが、受給者が変更できず、相手が受け取っている家庭が2割近くあることが明らかになった。
その理由の内訳は「受給者の変更をしていない、手続きをしたが受理されなかった」が約6割、「変更できることを知らない」が約4割だった。
手続きができないとされた原因は、別居中の相手が住民票上で世帯主のため、子供が健康保険などで相手の扶養家族になっているため。しない理由には「(DVなどがあり)別居中の相手と関わりたくない」が多かった。
11月11日に行われた記者会見では当事者の女性2人も参加した。それぞれDVの被害を受けていたことなどから、別居・離婚前の状態が長引き、児童手当の受給もできていなかった期間があるという。「苦しく先が見えないことが不安」「なぜ夫が児童手当を受け取り続けるのか」と理不尽に感じる思いを語った。
制度改善求め提言へ
この結果を受けて、しんぐるまざぁず・ふぉーらむの赤石千衣子さんは、別居・離婚前のひとり親は「六重苦」だとして、以下の6つの困難を抱えていると指摘した。
1住まいが安定していない
2仕事が安定していない
3子供の保育園や学校を決めないといけない
4離婚手続きをしなければいけない。養育費や財産分与、面会交流について決めないといけない
5DV被害や別居のショックのための自分のケアが必要
6子供も不安定になりケアが必要
「『六重苦』のひとり親に、子どもに必ず給付されるはずの児童手当すら届かない。あまりにも理不尽だと思う。ぜひ当事者に届く制度にしたいと思っている」と語った。
フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんは「制度の間に落ちてしまっている方を救済する政策を求めたい」として、今後、制度改善の提言活動などを進めていくと話した。