若手アニメーターが訴える過酷な労働環境。興行収入トップ独占のアニメ界、ファンから待遇改善求める声も

「いったい自分はアニメの何が好きだったのか、何故この業界にしがみついているのか…時々わからなくなるようになりました。心も身体も時間もお金も全て余裕がない」
Open Image Modal
アニメの展示会「アニメジャパン2018」
Getty Images

10月16日に公開された映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。社会現象となり、11月9日に発表された最新の興行収入では、公開24日間の興行収入は204億8361万1650円を記録。興行通信社の調べによる歴代の興行収入ランキング(邦画・洋画含む)で、『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年公開)の203億円を超えて5位となった。

邦画のみのランキングだと3位に入り、5位までをアニメ映画が独占している。 

Open Image Modal
興行収入ランキング
HuffPost Japan

10位中でも8作がアニメ映画だ。アニメの人気ぶりが分かる一方で、ファンたちからは、日本のアニメーターを取り巻く労働環境の過酷さを心配する声が度々上がってきた。

Twitterでも今回の『鬼滅の刃』ヒットをきっかけに「文化的価値をちゃんと認めてアニメーターさんの待遇を改善して」「(アニメや漫画などを日本独自の文化として海外発信する)クールジャパンどころの話じゃない」などと声が上がっている。

制作現場の状況はどうなっているのか。アニメーターなどでつくる「日本アニメーター・演出協会」が文化庁のプロジェクトでまとめた『アニメーター実態調査2019』(有効回答数382)によると、状況は改善しつつあるようだが、依然として特に若手にとっては厳しい労働環境となっており、当事者からは悲痛な声が上がる。

 

「動画」担当の平均年収は125万円という現実

Open Image Modal
世代ごとの平均年収。若い世代は、全産業平均と比べて低い。
「アニメーター実態調査2019」より

同調査が詳報されている『アニメーション制作者実態調査報告書2019』などによると、アニメーターの平均年収は440.8万円で、全産業平均432万円(いずれも2017年)を若干上回っている。

ただ、20〜24歳は154.6万円(全産業平均262万円)、25〜29歳は245.7万円(同361万円)となっており、いずれも平均を100万円以上下回る。30〜34歳も365.2万円(同407万円)と平均を下回る。年収が300万円以下だという人は全体の4割を超えている。

ただ、アニメーターと言っても職種は様々で、年収にも大きな幅がある。

職種ごとの平均年収は監督(779万円)や総作画監督(788万円)など、制作を指導・統括する職種では全産業平均を超える。一方で、いずれも勤続年数の少ない人が多い、原画をもとにカットを描く「動画」は125万円、「第二原画」が131万円と低くなっている。

就業形態としてはフリーランスが50.5%と突出し、正社員は14.7%に留まっている。こうした就業形態が不安に拍車をかけているという声も、報告書の中で上がっている。

 

「時には24時間描き続けて、それでも仕事は終らない」

Open Image Modal
イメージ
Getty Images/iStockphoto

報告書には、きつい労働環境で追い詰められている人たちの声が多く掲載されている。多く上がったのは、低賃金を改善してほしいという声だ。若者を使い捨てにせず育てるべきだと求める声もあった。

・TVシリーズのアニメーションの原画の仕事を単価で受けて一人で生活するのは不可能。これは基準としておかしいと思う。【女・30代・原画】

 

・アニメーションは夢や感動を与える仕事でやりがいはあるが、本数や各作業者のスケジュールの守れなさで現場の労働環境をなんとかしないといけないと思う。若者を低賃金、長時間労働で使い捨てにせず、ちゃんと教育して育ててほしい。このままでは将来人がいなくなります【女・20代・演出】

 

・長年やってきたが、只々食い物にされてきた様な気がする。こんな仕事はとうに辞めるか最初からやるんじゃなかったと後悔している。 【男・50代・LOラフ原】

 

・とにかく賃金が安い。作品のクオリティや演出の要求が高くなっているのに、賃金が追いついて行ってない【男・不明・原画】

 

・仕事、生活に安定がなく、将来に対してとても不安がある。そもそも正社員や社会保障のある雇用自体がなく、どうにかならないものかと思う【男・30代・その他】

健康状態に深刻な不安を感じているという切実な声も少なくない。

・本気でいつ死んでもおかしくないな、と思う時があります。TVの放送が終った後に少し休んだりはしますが、放送中がハードすぎて本当に危険です…【女・30代・動画チェック】 

 

・私は毎日毎日毎日何をやっているんだろうか。飲まず、食わず、眠れず、トイレも我慢して座り続け、時には24時間描き続けて、それでも仕事は終らない【女・50代・第二原画】

 

・目まぐるしい作品スケジュールと、それを管理し動かす周りの人間、日々の生活に、どんどん減っていく貯金残高。そんないろいろなモノに急かされて闇雲に頑張っていたら、いったい自分はアニメの何が好きだったのか、何故この業界にしがみついているのか…時々わからなくなるようになりました。心も身体も時間もお金も全て余裕がないのです【女・20代・動画】

 

成長は鈍化も、アニメ産業市場は最高値を更新

日本動画協会が2020年1月に公開した「アニメ産業レポート2019」によると、アニメ産業市場は海外市場の成長にブレーキがかかり、2018年は前年比100.9%と伸びは少なかったものの、2010年から2018年まで9年連続で成長を遂げている。

ユーザーが支払った金額を推定した広義のアニメ市場は、2002年の統計開始時は1兆948億円だったが、2018年は2兆1,814億円に上っている。

Open Image Modal
テレビアニメ制作分数
日本動画協会「アニメ産業レポート2019」より

また2018年のテレビアニメについては、タイトル数(332本)は前年より減少しているものの、制作分数(13万808分)は前年を上回り史上2番目の長さに。劇場アニメのタイトル数(74本)・制作分数(6186分)も前年より減ったものの、2000年代(年間25〜51本・1728〜3739分)と比べると高水準のままとなっている。