「niko and…(ニコアンド)」「LOWRYS FARM(ローリーズファーム)」など、29のファッションブランドを展開するアダストリア(東京・渋谷)は7日、2025年までに全商品に利用するコットンを100%サステナブル・コットンに切り替える宣言をした。同社はグローバル・イニシアチブ「Cotton2040」へ参画し、原料の栽培過程などに独自の基準を設定。9月以降、基準を満たしたコットン含有率が100%の商品のタグにオリジナルのマークを表示する。藤本朱美CSRアシスタントマネージャーは今回の宣言を「ファッションの『楽しさ』『おもしろさ』をいつまでも提供し続け、感じていただけるようにするため」と思いを話す。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本 啓一)
世界に山積するコットンの課題
「現在世界では、綿花の生産に大量の農薬や石油系の化学肥料が使用されている。綿花生産には世界の耕地の2.5%が使用され、そこに世界で生産された農薬や化学肥料の10%が使用されている」――。持続可能な方法で製造された綿の認知度と普及などを行うイニシアチブ「Cotton2040」を国内で推進する一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(以下、ASSC)の下田屋毅代表理事は、SB-Jコラム「世界における持続可能な綿花・サステナブル・コットンの潮流」でそう解説する。
(前略)農地で不適切にまた過度に農薬や化学肥料が使用されると、それが水源を著しく汚染することにつながるとともに、土壌の肥沃度を低下させ、さらに農家で働く労働者の健康、また生物多様性にも著しく有害な影響を及ぼしているのである。
そしてそれら農薬、化学肥料の使用が、大きく気候変動に影響を与える温室効果ガスの排出を助長しているとされている。また、社会問題も同じく発生しており、2016年に米国労働省は、中国、インド、パキスタン、ブラジルの6つの生産国を含む18カ国の綿花の生産のプロセスには児童労働や強制労働が存在すると報告している。(後略)
「綿花はリスクに対して非常に脆弱で、脅威にさらされている」という状況にファッション業界は直面し、喫緊の課題として対応が求められている。ASSCは子ども服を取り扱うミキハウスなどとも協業し、Cotton2040が発行したサステナブル・コットンをより多く調達するための実践ガイド「コットン・アップ・ガイド」の日本語版をローンチするなど、持続可能なコットンの普及や啓発を行ってきた。
ファッションの楽しさ、将来にも
アダストリアは今年初頭からコットンに関する検討を開始した。「Cotton2040」に参画し、ASSCとの情報交換や社内教育の強化などを進め、以下を満たすコットンを「サステナブル・コットン」として独自に定義した。
・栽培過程において、水、農薬、化学肥料の使用量を削減していること
・土壌の保全および生態系に配慮がされていること
・生産者の労働環境が整備されていること
・上記項目について、認証機関の証明書を発行できること
項目を満たしたコットンの含有率100%の商品のタグにオリジナルデザインのマークを表示することで消費者に「見える化」する。コットンのほか、ポリエステルやレーヨンについても独自でサステナブル素材の基準を定め、マークを表示する。
社会への宣言を行うことで、大きな取り組みが実務に落とし込まれて具体的に進むという効果がある。同社にはこれまでも、素材面などからものづくりをサステナブルにするという方針はあった。しかし「それだけでは商品企画や素材調達など、ものづくりに携わる担当者が実務でどう動いて良いか迷うと考えました」と藤本氏は説明する。
「具体的な指針、目標があったほうが全社の大きな動きになると考え、サステナブルなコットンの定義や実務担当者が取り組みやすい運用方法を生産部の責任者と何度も何度も議論しました」というように、取り組みの推進を現実的に捉え前進するため宣言に至ったという。
「商品、ものづくりをサステナブルにすることは事業そのものをサステナブルにするための大きな一歩だと考えています。ファッション業界は環境負荷が大きいと言われることも多いですが、ファッションそのものはたくさんの人の毎日を豊かに、ワクワクさせてくれます。そういったファッションの『楽しさ』『おもしろさ』をいつまでも提供し続け、また感じ続けられるようにするために今回の宣言があります」(藤本氏)
さらに「長期的な目標にはなりますが今後も一つひとつ取り組んでいきたい」とブランド全体の決意を語った。
ASSCの下田屋代表理事は「オーガニック・コットンの生産量は、世界の綿花生産の1%未満という状況です。そのような中、ブランドがオーガニック・コットンを含むサステナブル・コットンの使用の増量を行うことは、サプライチェーン上の特に最上流の農家の課題解決を行うためにとても重要な取り組みとなります。またこれは、他ブランドへも大きく影響を与えるとともに消費者にも啓発を促す取り組みとなるのでとても意義があります」と話す。
「2025年までに全商品のコットンをサステナブル・コットンへ置き換えるという目標は決して低い目標ではありませんが、サプライチェーンを巻き込んだ仕組みをつくりあげていく部分において、リーダーシップを発揮していただけると期待しています」(下田屋代表理事)
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