男性育休に関する「義務化」政府が検討。意見が分かれる3つのポイントは?

永田町と霞が関で、男性育休について本格的な検討が始まりました。意見が割れる3つのポイントについて、議論の内容を紹介します。
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男性育休のイメージ
Kohei Hara via Getty Images

男性育休について、本格的な議論が始まっている。 

5月に閣議決定された「少子化社会対策大綱」では、2030年までに男性の育休取得率30%を政府目標に掲げ、政府の全世代型社会保障検討会議や厚生労働省の労働政策審議会などで枠組みなどについて議論している。

年内に最終報告を取りまとめ、早ければ2021年の通常国会で育児・介護休業法の改正案として提案される予定だ。

議論のポイントをまとめた。 

この記事では、以下3点について、どのように議論が進んでいるのかを解説しています。

①誰に、 何を「義務」化するのか?

② 男性の「産休」制度は、男女不平等?

③ 予定が立たない出産。男性育休の申請はいつまでならOK?

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イメージ写真
Indeed via Getty Images

そもそも、誰に対する「義務」?

「義務化」議論がすすむ男性育休問題。何が「義務化」か明確にならないまま、言葉が一人歩きしている。

「義務化」という言葉は、2019年6月に発足した「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」という自民党有志による議連の名称にも入っている。ただ、議連会長の松野博一元文科相の設立当時のコメントを見返せば、「ショック療法」を狙ったワーディングだったことがわかる。

「『義務化』はいささかショッキングなんだろうと思うが、男性が(育休を)取りたいと思っても取れない状況を考えた時に、義務化を前面に押し出すことが大事なんじゃないか」

(2019年6月5日、松野博一氏による自民有志議連発足時の挨拶)

労政審などで検討されているのは、「個人に対する育休取得の義務付け」ではなく「企業に対する制度周知などの義務付け」だ。

現行の育介法では、労働者やその配偶者が妊娠・出産したことを知った場合に、 企業は個別に育休などに関する制度を知らせる「努力義務」が課せられている。これを「義務」に引き上げようという議論だ。

厚労省の労政審が始まった2020年9月には、中小企業の7割が男性育休の「義務化」に反対という日本商工会議所の調査結果が話題になった

ただ、労政審の委員を務める日本商工会の杉崎友則氏によると、「『義務化』の中身が誰に対するどんな義務なのか分からない段階で行った調査のため、フワッとした質問だった」という。調査としてはかなり曖昧なもので、個人に対する取得の義務付けに反対した可能性もある。

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回答した中小企業のうち、約7割が男性育休の義務化に「反対」「どちらかというと反対」と答えている
日本商工会議所の公式サイト

では、企業に対して、何を、どう義務付けるのか?

意見が分かれるポイントを3つにまとめた。

①何を、どう「義務化」? 

政府の検討会では、有識者からは一様に前向きな意見が上がっている。

義務化の内容についても、周知義務に止まらず、有価証券報告書への記載義務や取得率の公表義務などについても言及された

「男性育休の周知、取得勧奨をするのは、企業の責務。しっかりと周知することを義務づけていただきたい」

(翁百合・日本総合研究所理事長)

「(男性の育休取得促進は)企業側の一つの義務だと思っている。もっと言うと、男性の産休という制度まで進めていけるような覚悟を持って、経営者がどれぐらい取り組めるのか。企業に賛意を募って、賛成したところについては、 (取得率の)開示義務を課してはどうか」

(櫻田謙悟・SOMPOホールディングスグループCEO)

「まずは大企業から企業別に男性育休取得率の公表をさせるべきではないか」

(新浪剛史・サントリーホールディングス代表取締役社長)

「例えば有価証券報告書に育休取得率の記載を義務づけるとか、そういうことまでして、要は少子化の問題が新聞の家庭欄の話題になるのではなくて、経済面の話題にしていくという形で、企業のトップに意識をしてもらうということが、次につながっていくのではないか」

(増田寛也・東京大学公共政策大学院客員教授)

一方、労政審では、周知義務については日本商工会議所や経団連などから「一律の義務化には反対」という声も上がっている

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全世代型社会保障検討会議=10月15日、首相官邸
時事通信社

男性にも『産休』制度? 

自民党の「育休のあり方検討プロジェクトチーム」(前身は議連)は産後4週間までを「父親産後休業期間」と定め、この間の育休については取得手続きの簡易化や給付金の上乗せするよう提案している。

女性は母体保護の観点から産後8週間は働くことができない。

男性は身体的なダメージがあるわけではないが、「産後うつ」リスクのピークとされる産後2週間〜1カ月の期間に、男性が育休を取って育児参加することでリスクを軽減する効果が期待できるという。

現行の制度でも、男性が産後8週間以内に育児休業を取得した場合、再取得を可能とする「パパ休暇」制度がある。

さらに分割取得を可能とするのか、分割取得できる回数や期間はどうするのか。給付金の引き上げは可能なのかーー。

10月27日の厚労省の労政審では、男性だけに給付金の上乗せや分割取得できる仕組みを設けるのは、男女平等の点で懸念があるのではないかという議論になった。

「男性だけを所得面で優遇するのは男女平等の観点で懸念があるのではないか。男性だけが分割取得できる、一時的な労働ができるとなれば、男性だけキャリアの分断を免れる結果になる。結果として、男女に差が出てしまう」

(齋藤久子・情報産業労働組合連合会中央執行委員)

「出産直後の取得状況に大きな差があり、育児の男女負担に大きな差がある。長期的には男女間で差がないようにしていくのが望ましいが、男性の選択肢を増やすことで育休取得率を増やしていこうということを考えているので、(男性にターゲットを絞るのは)目的として外れるものではない。ただ差を固定化されるような制度にしてはならない」

(川田琢之・筑波大学ビジネスサイエンス系教授)

 

「仮に新しい制度を作るのであれば、男女の差が埋まるまでの一定期間の措置とするべき」

(鈴木重也・日本経済団体連合会労働法制本部長)

「中小企業の深刻な人手不足、コロナで厳しい実態を大前提に、実務に配慮した現実的な案を提示するのが適当だと思う」

(杉崎友則・日本商工会議所産業政策第二部副部長)

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男性の育休を分割取得した際のイメージ
厚労省・労政審資料より

③取得申請はいつまで?

菅義偉首相は、政府の検討会で「出産直後の時期に、男性が育児休業を取得しやすくする制度の導入を図る」と意欲を述べた

男性が産後直後の時期に育休を取得しようと思った時、最初のハードルが「いつ、どう申請するか」という点だ。

出産は予定通りに進まない。女性の場合、出産の数週間前から産前休業に入るため、実際の出産日が予定日を前後しても問題がないことが多い。

ただ、男性が産後に育休を取得する場合には、実際の取得日は直前にならないと分からないため、女性とは異なるマネジメントが必要になる。

この点について、10月27日の労政審では労使の意見が分かれた。

「マネジメント上、代替要因の確保など1カ月程度の一定期間が必要。人事担当、労務担当とコミュニケーションとると、ギリギリの体制でなんとか仕事を回しているのが実態。そういう実態に即した制度づくりをしていく必要がある」

(杉崎友則・日本商工会議所産業政策第二部副部長)

「分割取得を議論していこうということになると、短期の取得が繰り返されることを想定しないといけない。1週間の休業を分割取得する場合、1週間だけ派遣を採用するのは難しい。(1カ月より)短い申し出期間ではマネジメントが大変だという現場の声を共有したい」

(鈴木重也・日本経済団体連合会労働法制本部長)

「育休以外でも、病気など突発的に仕事を休むというのは色々ある。職場のサポート体制をどう作るかという問題だ。労働者が取得しやすい環境作りが必要ではないか」

(井上久美枝・日本労働組合総連合会総合政策推進局総合局長)