「100年に一度の雨」「最強クラスの台風」といった言葉をニュースで耳にすることが増えています。日本は元々自然災害の多い国ですが、近年は異常気象による大災害が増加。これまでの知識や対策では対応できない時代が来ているのかもしれません。
10月7日、「気候危機時代の『自然災害』を今こそ考える」と題した番組が、パタゴニア日本支社とハフポスト日本版の企画により配信されました。参議院議員の嘉田由紀子さん、気象学者の江守正多さん、江戸川区水害ハザードマップの制作に携わった本多吉成さん、元パタゴニア日本支社長の辻井隆行さんが出演。自然災害の現状をふまえながら「避難の必要性を伝えるには?」「気候危機時代に合わせた対策のアップデート」などについて話し合いました。
自然災害は世界的に増えている。日本の対応は?
「自然災害は世界的に増えています。その中でも日本は気候危機の影響を最も受けた国というデータもあります」と話した江守さん。温室効果ガスの増加により世界の平均気温が上昇。そのため大気中の水蒸気が増え、大雨が災害規模になりやすいのだそうです。
2018年は西日本豪雨があり、その後の猛暑で熱中症による死者は1500人超。台風21号による被害で関西空港は水没しました。その結果、ドイツのシンクタンク、ジャーマンウォッチによる『世界気候リスク指数2020』で日本は世界1位に。
江戸川区で危機管理を担当する本多さんも「台風の巨大化など、日本各地で災害が起こっていると実感しています」とコメント。では、この気候危機時代に行政の対応も変化しているのでしょうか。
日本の水害対策は変化に追いついていない?
滋賀県知事時代に「流域治水」政策を実施した嘉田さんは「都市化近代化が進んで、日本の水害対策が追いついてないんです」と発言。
嘉田さんは行政の課題について、「ダムや堤防などのハード中心で、それ以外の対策が弱い。縦割り行政により横の連携ができていない。短絡的な治水により、生態系に悪影響を与えている」と指摘しました。
また、洪水被害があっても、水防組織が充実していれば人命が失われる被害は少なくなると説明。嘉田さんはこの仕組みを「近い水」と名付け、縦割りではなく水の流域全体を見ようという施策を進めてきました。
しかし、行政によるハード依存の洪水対策が増え、住民から離れた「遠い水」になっている現状があるそうです。
「近い水」の仕組みをいかすためには、私たち住民が洪水のリスク、避難の必要性をきちんと理解しなくてはなりません。それには、住民側からのアプローチ・行政側による説明がセットになった相互コミュニケーションが重要になってくるのではないでしょうか。
「ここにいてはダメです」伝えるために、誰にでもわかりやすく
「私たち行政は、住民の生命と財産を守ることが責務です」
と語るのは江戸川区危機管理室の本多さん。行政側に説明責任があるのはもちろん、住民の側でも災害が来る直前ではなく、ふだんから備えをしてほしいと願っているそうです。そのためにとった方法で話題になったのが、2019年に改訂した「江戸川区ハザードマップ」。
「作成段階では、浸水想定区域外へ避難する “広域避難”という言葉を使っていました。ただその時はまだその言葉があまり知られておらず、これでは伝わらないだろうと。そこでできるだけわかりやすい言葉、実際ハザードマップを手に取っていただいて、しっかり見ていただく言葉として生まれたのが『ここにいてはダメです』。これが表紙を飾る言葉になりました」と本多さん。
これには「リスクコミュニケーションという意味で、“ここにいてはダメです”という言葉は見事。100点満点」と嘉田さんも絶賛。
江戸川区ではハザードマップ改訂版の配布後、2019年の台風19号の際に避難所に逃げた人が35000人に。これは東京23区で一番多い人数となり、「ここにいてはダメです」が防災意識の高まりにつながったと考えられます。
「ダムをつくれば治水できる」は疑問
番組後半では元パタゴニア日本支社長で、「九州の石木ダム見直し運動」に取り組んでいる辻井さんが参加。「100年に1度規模の水害が頻繁に起こる日本を、過去のハード依存対策で守れるか?」が話題になりました。
「石木川は、5月末になると数千匹のホタルが飛び交う、とても小さな川です」
と辻井さん。川幅数mほどの小さな石木川がある川棚町川原(こうばる)地区に、幅234m、高さ55mの「石木ダム」をつくる計画があります。ダムができれば、ホタルが育つのに必要な豊かな自然は失われてしまいます。50数年前にスタートしたダム建設計画ですが、その目的には合理性に疑問があるそうです。
映画「ほたるの川のまもりびと」のイベントで辻井さんと対談した嘉田さんは「石木ダムの問題は2つあります。1つは本当に必要性が少ない。ダムにはある程度の効果がありますが、水害の規模がここまで大きくなると、ダムだけで守ることはできません。それに、川棚川の本流のリスクを減らすのであれば、その流域面積の9分の1にしか過ぎない石木川にダムを作ることの効果はとても限定的です。また、利水についても、佐世保の水需要はもう何年も下降線を辿っているというのに、これからも増え続けるという水道局予測との整合性が取れていません。
もう1つは500億円前後もの費用をかけて自然破壊をしなくても、他の方法があるということ。代替案があるのに、5才から93才まで約50人が住んでらっしゃる足元を全部潰してダムをつくる。これは社会的な問題です」と続けました。
また、地元である長崎でアンケートをとると、石木ダム建設計画についてまったく知らない人も多いとのこと。ふだんの生活で目にすることはあまりないので、私たちはダムは「遠い水」、身近ではないものと思っているのかもしれません。
気候危機は誰にでも関係があること。個人も企業もアップデートが必要
日本では、気候変動に対する危機意識はそれほど高くはないというデータもあります。World Wide Views Climate and Energyの2015年の調査によると、「気候変動の影響をどれくらい心配していますか?」という質問に対し、「とても心配している」と回答した割合は世界平均78%、日本は44%。
「災害を気候変動、気候危機につなげて考え、将来増えていくリスクとしての認識は他の国と比べて非常に低いといえます」と江守さん。
その理由として「『気候変動対策が生活の質を高めるか』という質問では、“生活の質を高める”という答えが世界平均で2/3ぐらい。日本では逆に、“脅かす”という結果になりました。6割程の人が“温暖化対策をすると生活の質が下がる“と考えていることになります。そのため温暖化を止めようという意識になりにくいのではないでしょうか」と説明しました。
その意識も今後は変わるかもしれません。辻井さんは「サステナブルな企業であることはすでに評価の対象ですし、Z世代といわれる現在10代以下の方々は、SDGs、持続可能性に真剣に向き合っています。この流れは加速していくのではないでしょうか」とコメント。企業、若者世代を中心に意識の変化が起こりつつあると期待を寄せました。
嘉田さんは最後に「環境保全で貧乏になるとか、生活が不便になるというのは違います。子どもたちのために、この環境を守りながら地球規模でみんなが幸せになる暮らし。それがSDGsの狙いだと思っています」と、自然災害をおさえこむのではなく、共存しながら乗り越えるという願いを話しました。
自然災害、環境問題は誰にとっても身近な問題。気候危機時代に生きる私たち一人ひとりが自分ごととしてとらえ、知識をアップデートしていきませんか?
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(執筆:樋口かおる 編集:磯本美穂)