イギリス発のコスメメーカー・LUSH(ラッシュ)が、性別や人種、年齢などの多様性に配慮し、一部商品名を変更することを発表した。
同社では、世界中に広がった黒人差別への抗議運動「Black Lives Matter」(BLM)をきっかけに社内の仕組みや職場環境、コミュニケーションなどの見直しをグローバル全体で行なっており、商品名の変更はその一環という。
ラッシュの広報担当者は、「取り組みをきっかけに、『これってどうなんだろう』と立ち止まって考える機会に繋げたい」と思いを語る。
「東方美人」「ブラックビューティー」「パパの足」 名称変更となる11つの商品は?
LUSHによると、今回商品名を変更するのは、以下11つの商品だ。
左:旧名称 右:新名称
東方美人 (ヘアトリートメント) → 艶髪香花
人魚姫(フレッシュフェイスマスク) → BB シーウィード
ブラックビューティー(洗顔料) → コールフェイス
ミスゴージャス(保湿クリーム) → ゴージャス
ソーホワイト ボディスプレー → ワンス アポン ア タイム ボディスプレー
リズム&ブルース(ヘアモイスチャー) → バランス
乙女の戦士(フレッシュフェイスマスク) → コスメの戦士
コスメティックボーイ(保湿クリーム) → コスメティックフレンド
恋する十字架(ボディスクラブ) → バフィー
ニューイヤーの花娘 ボディスプレー → カラカス ボディスプレー
パパの足(フットパウダー) → 公募により決定
どんな基準で変更になったのか?
LUSHのリリースによると、「性別や人種、年齢、多様なライフスタイルなどへの配慮が十分にされているか」という視点に重点を起き、商品名の見直しを行ったという。
広報担当者によると、「ミスゴージャス」や「乙女の戦士」、「コスメティックボーイ」、「東方美人」、「人魚姫」など、男女どちらかの性別を結びつけたり、連想させたりするような商品名が変更となった。
「恋する十字架」に関しては、宗教的な配慮から変更が決まったという。
「ブラックビューティー」や「ソーホワイト ボディスプレー」などは、人種を結びつける表現を問題視した。Black Lives Matterの広がりをきっかけに、化粧品やスキンケアメーカーからは「美白」を推奨するような商品の販売を見直す動きが出ており、ジョンソン・エンド・ジョンソンは肌を白くするために使われているシミ消しクリームの販売中止を決定していた。
「リズム&ブルース」は、広がりやすい髪をまとまりやすくするヘアモイスチャーで、黒人コミュニティから生まれた音楽ジャンル「R&B」から商品名の発想を得たという。しかし、黒人はしばしば髪質や髪型によっても差別の目を向けられている。ステレオタイプを助長しかねないとして、商品名の変更に至った。
人気の高いフットケア商品「パパの足」も変更が決まった。一般公募で新たな商品名を決める予定で、10月31日まで新しい商品名のアイデアをInstagramで募集している。
ステレオタイプを助長するような言葉を「見直す」動き
対象商品の多くは、ジェンダーや人種などのステレオタイプを浮き彫りにするような名称だ。
「All are welcome, Always」のメッセージを掲げるラッシュは、これまでもLGBTQへの理解促進や難民支援のキャンペーンを行うなど、社会課題に企業として積極的に取り組んでいる。
ラッシュジャパンの広報担当者は、「ブランドの顔である商品を通じて、『すべての人が平等に、自分らしく暮らせる社会を目指す』というブランドの考えを広く伝えたい」と語る。
過度な「ポリコレ」なのでは? という指摘には...
Black Lives Matterの高まりを受け、広告・メディア業界では「ブラックリスト」という言葉の使用を見直す動きも広がった。「ブラック=悪」「ホワイト=善」を連想させる言葉について、DIGIDAYは、「これは一種の自覚なき組織的差別だ。人々がそれと気づかないまま、ブラックという言葉を常にネガティブな要素に結びつけている」と指摘する業界関係者の声を紹介している。
一方で、こうした動きには、過剰な「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)」なのではないか、との声もある。
ラッシュジャパンの広報担当者は、「賛否はあると思うんですが、賛否があって良いと思っています」と語る。
「一番大事なことは会話が生まれることで、それによって意識の変化にも繋がるのではないかと思います。商品名を変えたことは、店舗などでスタッフからお客様に伝えることもしたいと思いますし、こうした取り組みをきっかけに『これってどうなんだろう』と立ち止まって考える機会にも繋げたい。テーマを投げかけられたらと思っています」
ラッシュでは、商品名だけではなく、社内のホームページやポリシーの内容など、さまざまな観点で見直しを行なっている。
「Black Lives Matterをきっかけに自分たちの会社を見つめ直すと、無意識のうちに構造的差別が存在しているということに気付かされました。社内の体制を見直す取り組みを続けており、商品名の変更はそのうちの一つに過ぎません」
「簡単には答えが出ないことも多く、一つ一つのことを考えながら進めています。完璧はないかもしれませんが、気づいたものから対応していくということを今後も取り組んでいきたいと思います」